日本官能評価学会誌
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ノート
服装の適合感に関する自己評価と他者評価の関連
―謝恩会の場合について―
内田 直子小林 茂雄長倉 康彦
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1999 年 3 巻 1 号 p. 31-34

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1. 緒言

本研究は, 場の雰囲気と服装がどのくらい合っているかの評価に関して, 実際の現場で当事者が感じる評価と, スライド投影による第三者が感じる評価には, どのような関連があるかを検討することを目的として行ったものである。

人間集団の密度感の研究(山崎・長倉, 1989)では, その密度の混雑度合いと快適性について, 体験している当事者が評価した場合と, その状況をVTR映像にして第三者が評価した場合との間には高い相関があることが報告されている。

ここでは, 場と服装の関係について, 場の雰囲気と服装が「適合・不適合」かを「マッチしている, していない」の視点から, 実際その場にいる当事者に評定してもらう実験(以下「自己評価実験」とする)と, その場の状況と服装をスライド投影し, 第三者に評定してもらう実験(以下「他者評価実験」とする)を行い, 両者の関係を検討した。

2. 実験方法

2. 1 自己評価実験

都内のホテルで実施された出席者約800人の大学卒業謝恩会の会場(Fig. 1参考)において, 「今日のご自分の服装はどの程度ここの『場』の雰囲気にマッチしていると感じますか」の質問文と, その回答として「非常にマッチしている」「かなりマッチしている」「ややマッチしている」「どちらでもない」「ややマッチしていない」「かなりマッチしていない」「非常にマッチしていない」の7段階評価尺度が記載されている質問紙票を配付し, その会場で評価してもらった。実験は1997年3月に行い, 被験者は女子大学生40名である。なお, 他者評価実験用に会場の場の雰囲気のわかる写真と, 自己評価実験回答終了後にその回答者の着装姿を1枚ずつ写真撮影した。

2. 2 他者評価実験

前項2. 1の自己評価実験で撮影した40人の服装を, 無背景で顔を隠した状態に加工してスライドを作成し, また, 自己評価実験を行った会場の雰囲気がよく表れている, 4ヵ所の場の写真を同様にスライド化した。

他者評価実験では, 最初に前述の4ヵ所の場のスライドを提示し, その後, そのうちの会場の雰囲気がよく表れていると思われる1枚を服装評価実験中, 右側に投影し続け, 常に場の雰囲気を確認できるようにした。 Fig. 1はこの写真の一部である。

次に服装のスライド40枚を1枚ずつ提示して, 自己評価実験の時と同様に7段階評価尺度で, 「提示する服装がどの程度『場』の雰囲気にマッチしているか」について回答してもらった。また具体的に評価の意味を理解してもらうため, 服装提示予定の最後の1枚を用いて評価練習を行った。実験は1997年11月に行い, 被験者は自己評価実験と同じ女子大学に在籍しこれから謝恩会を迎える卒業年度の学生119名である。

Fig. 1

A photograph of the hall where the graduation party was given

3. 結果と考察

自己評価結果には評価の素点を用いて, 他者評価結果には各服装別被験者の平均値を求めた。Fig. 2は, X軸に自己評価値, Y軸に他者評価値をとり, 40種の服装の各評価値をプロットしたものである。自己評価値と他者評価値の間の相関係数は0.623である。無相関の検定によると, 危険率5%の限界値は0.313, 危険率1%の限界値は0.402であり, 評価属性が異なるにもかかわらず, 両者の評定傾向は類似しているといえよう。

この時の回帰直線は, Y=0.663X+1.307になる。この回帰直線から, 自己評価と他者評価の関係をみると, 当事者が「マッチしている」と感じる場合には, 他者評価よりも自己評価が高いが, 当事者が「マッチしていない」と感じる場合には, 他者評価よりも自己評価が低い。言い換えると, 第三者が「マッチしている」と感じる場合の評価では, 当事者ほど「マッチしている」と, 思っていないが, 「マッチしていない」と感じる場合の評価では, 当事者が「マッチしていない」と思う程には, 第三者は思っていないことになる。

自己評価値と他者評価値が同じ場合には, 両者の関係はFig. 2の45°の点線により表される。この45°直線を基準にみると, 他者評価より自己評価のほうが評価が高い服装は, 40種の写真のうちの60%であり, 自己評価より他者評価のほうが評価が高い服装は40%である。さらに, 各服装の自己評価と他者評価の大小関係を自己評価値別に図にまとめると, Fig. 3のようになる。この図からも「どちらでもない」という中立点である4点より高い得点では, 他者評価値より自己評価値の高い服装が多く, 低い得点では, 自己評価値より他者評価値の高い服装が多い。ただし, 低い得点での試料が少ないので今後追加して検討すべき必要がある。

次に, 服装の内容に着目してみると, 他者評価で上位5点以上の評価を得た17種の服装のうち, 黒系ドレスが8種, 和服(振り袖)が7種を占め, この二種類の服装の評価はすべてここに集中している。特に6点以上の服装4種は, ともに黒系ドレスであった。その代表的な服装をFig. 4に示した。着物は典型的なフォーマルなイメージの服装であり(内田等, 1998), 社会規範の面から妥当と考えられ, 黒系ドレスはその年の流行色(繊研新聞, 1997)であったため, 大勢の賛同を得られた雰囲気の服装であったと考えられる。そのために, 第三者は謝恩会の場にマッチしている服装として, これらの服装に高い評点を与えたと思われる。また, 自己評価値と他者評価値の差が2.0以上あった《No.21, No.29, No.33》(Fig. 2)については, 当事者は大変その場にあっていると感じているが, 第三者からみると不適合な服装であり, 自己評価が過剰になった場合と考えられ, 両者の格差が大きいほど場違いな雰囲気が生ずると思われる。これらの服装は基本的にはフォーマル的な雰囲気のする服装ではあるが, 謝恩会のようなフォーマルな場でなくても着用できるような地味な感じがするため, フォーマルに対する本人の意識と第三者の意識にずれが生じた結果ではないかと考えられる。

以上, これらの自己評価と他者評価の間に差が生じる理由として, 一般には当事者は謝恩会という場を意識して着用しているため, その場に出来るだけ自分としても合っているものを着用しようとすると考えられる。そのため, 基本的には場に「あっている」というのが前提にあり, 自己評価にはある意味の自己満足が伴っていると考えられる。従って, その場に自分が思ったとおり「あっている」と感じた場合には, 安心感や自己満足が増長され, より「あっている」と感じ, 逆に「あっていない」と感じた時は, その自己満足が否定され, 差恥心や不安感から, より「あっていない」と誇張されて評価するのではないかと考えられる。

しかし, 他者評価では, あくまでも客観的に場の雰囲気にマッチしているかどうかを判断しているものであり, 当事者の内面的事情まで考慮していない。そのため, 評価の相違が生じるのではないかと思われる。よって, この自己評価と他者評価の違いは, 実際に「場」の当事者であるか, あるいは第三者であるかの立場の違いによる要因が, 影響しているのではないかと考える。

また, その他の理由としてスライド実験などの間接的な提示方法が本物のデザインの特徴や場の雰囲気を明確に第三者に伝えているかどうか(松本等, 1989;村川等, 1991)などの要因も類推できるが, この点についてはさらに検討を進めたい。

Fig. 2

Relation between self-evaluation and evaluation by other

Fig. 3

Frequency by score of difference evaluation by others

Fig. 4

Examples of typical outfits for which evaluations by others were high

4. 要約

自己評価と他者評価の間には相関が認められ, 当事者が「マッチしている」と感じる場合には, 第三者よりも自己評価は高い傾向にあり, 当事者が「マッチしていない」と感じる場合には, 第三者よりも低い評価をする傾向があることが認められた。全体としては, 全服装の60%が他者評価より自己評価のほうが高い結果となっている。また, 着物のように社会規範の面から妥当と考えられる服装や, 黒系ドレスように流行色の強い服装については, 第三者は「マッチしている」と高い評点を与える傾向がみられた。

引用文献
  • 松本直司, 久野敬一郎, 谷口汎邦, 山下恭弘, 瀬田恵之(1989)空間知覚評価メディア(シミュレータ)の開発 建築群の空間構成計画に関する研究・その5, 日本建築学会計画系論文報告集, 403, 43-51.
  • 村川三郎, 西名大作, 村田浩之(1991)河川景観画像の呈示方法による被験者評価結果の比較 コンピュータ画像処理による河川環境評価に関する研究 その1, 日本建築学会計画系論文報告集, 426, 45-55.
  • 繊研新聞社(1997) 物憂いロマンチック, 繊研新聞, 東京, 3月12日, p 1.
  • 内田直子, 小林茂雄, 長倉康彦(1998)外空間と内空間における女性服装の適合度, 日本官能評価学会誌, 2(1), 29-37.
  • 山崎俊裕, 長倉康彦(1989)オープンスペースの「動的密度感」に関する実験的研究(その2)ロビー・ラウンジ的空間についての分析, 日本建築学会計画系論文報告集, 402, 19-29.
 
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