日本官能評価学会誌
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研究報文
官能評価分析のための程度量表現用語の定量的研究
井上 裕光
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2002 年 6 巻 1 号 p. 20-27

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1. 緒言

官能評価分析では, 尺度を用いた評価が日常的に行われている. その尺度を用いた評価の中でも, 単なる合否・優劣の2値情報ではなく, 段階をつけた評定による細かな差異を取り出そうとすることが非常に多い. さらに, その段階を単なる数値で示している場合よりも, 段階に「ことば」(以下, 程度量表現と呼ぶ)をつけて提示される記述的尺度(descriptive scale:言語尺度)が, 一般的に用いられている. こうした評定で用いられる表現形式は, 程度量表現だけの場合, 数値だけの場合, 数値に程度量表現が入っている場合, さらに, これらに数直線が使われる場合(数直線がオープンエンドの場合とクローズエンドの場合もある)などが適宜用意されて, それぞれの現場で使われている. しかし, この記述的尺度の一つとして最も知られているSD法(Semantic Differential Technique)のオリジナルではオズグッドらは程度の副詞を用いていない(数値もないアンダーラインである). 程度量表現を用いた場合について「調査相手への便を供するため尺度目盛へ副詞を付す」と岩下(1983)は述べているにすぎないのである.

ところで, この程度量表現をどのように決めればよいかについては, 官能評価の分野ではすでに「嗜好尺度(hedonic scale)の構成」(吉川, 1973)として扱われ, その研究も1950年代にさかのぼることができる. この記述的尺度を用いる以前には, 道具となる尺度を実験ごとに作っており, そこで使われてきたのは一対比較法やカテゴリー法であった. ところが, 「試料間の差を詳細に比較検出するという目的のために尺度化が行われるものであり, そのためには尺度の歩み, あるいは, 単位を実験のたびに計らなければならない. また, 絶対的な基準点(anchor)も不安定なことが多い. これらの性質のために, パネルの構成が地域的にまたがっていたり, 時間的にずれがあるようないくつかの実験, 調査の結果を統合したり比較したりすることが必要な場合には, 実験結果をそのまま比較したり, 統合したりすることはなかなかうまくできない」(吉川, 1973). しかし, 実際に結果の利用を考えるときには共通なものさしを使った記述が不可欠である. そのため「好みの程度を表現するための用語の定義的な調査研究」を基礎として, 嗜好尺度のための表現用語が研究されたのである.

ところが, この嗜好表現用語研究についてはほとんど知られていない現状がある. また, 記述的尺度に使われている用語も, 単に経験的に使われてしまっているだけであり, そもそも官能評価で用いる記述的尺度での使用を前提とした程度量用語の報告は赤木ら(1985)以降ない.

そこで, 記述的尺度で用いるという観点で, どのような程度量表現用語に対してどのような数量的な強さがあるかを調査し, 過去の報告との比較検討から現在利用可能な程度量表現を提案する. さらに, 自分で使う表現と与えられた表現との差異の問題も明らかにしたい.

2. 方法

2. 1 調査方法の選定

測定方法としては, 1)程度のカテゴリー(-3, -2, ・・・+2, +3など)への該当・非該当の測定, 2)満点を示した採点法(scoring), 3)数直線への記入, 4)マグニチュード推定, 5)一対比較法, などが考えられる. この中で日本語への適用については, 1), 5)については吉川(1973)が, 3)については赤木ら(1985)が, 3)と4)の併用については竹谷ら(1992), また5)については織田(1970)の報告がある. この中で, 織田の研究は, 嗜好尺度作成ではなく国語学からのアプローチをとっている(官能評価で用いられる記述的尺度の程度量表現としては, 「非常に, かなり, ややなどの実現の程度量表現用語」として扱っている). また, 織田の対象とした被験者は大学生・中学2年・小学6年・小学4年各500名前後の一対比較2件法判断をギルフォードのケースVで尺度化したものであり, 竹谷らは「実現の程度量表現」に関し大学生90名の実施例で順序情報からの尺度化を提案した(竹谷らは織田とほぼ同じ結果であると報告している).

しかし, 実際の測定に当たっては, 1)は 5・7・9段階ごとの測定をしなければならず被験者への負担がかかり, また, 3)も同様に被験者への慣れを要求しており, さらに4)は基準の与え方が難しく, 5)は組み合わせ数を考えると現実的ではない. 一方で, 記述的尺度として用いられる状況を考えると, 専門家でないパネルに対しての場合が多く, また記述的尺度が用いられる具体的な試料もさまざまである. そのため, できるだけ簡便で被験者には負担がかからず, また特定用途でないことも考慮し, 専門家以外への採点法での実施を検討した.

2. 2 予備調査

まず代表的な程度量表現を示す副詞について, 0から10までの正整数で評価する採点法を実施し, 採点法と程度量表現との相性を検討した. 1993年に実施した関東地方の短期大学栄養学科1年生45名(あまりこうした調査に慣れていない)の結果は, A4用紙1枚の縦一列の提示順ごとに平均値(標準偏差)で, 非常に9.04(0.92), かなり8.04(0.82), とても7.07(1.24), やや4.00(1.80), 少し2.80(1.69), 超9.18(2.01)となった. 標準偏差を見ればわかるように「非常に」と「超」とにはそれぞれ10点満点をつけたパネルが16名と34名いる(「かなり」にも1名いた. なお, 0点をつけたものはいなかった).

予備調査の結果, 採点法の実現性が高く, また, 天井効果や提示順の効果と, 採点法の狭い範囲では差がつかない点に注意すべきことが明らかとなった. そこで, 本調査では留置依頼調査を行う関係から, パネルに負担が少ない採点法(0から100までの正整数)を用いることにした. ところで, 本来接頭辞である「超」を入れた理由は, マーケティングですでに用いている例が出始めており, また1986-1988の調査では関東地方を中心に10代(一部20代)で使う傾向が始まっていた(井上, 1998;米川, 1996)ためである.

2. 3 調査対象・調査時期

有効回答数は15歳から53歳までの1,180名(質問単位で欠損値を持つ10名を除外). うち, 22歳以下が約96%(年齢回答拒否の全体の9%を除く割合)であり, 18~20歳で約60%を占めている. パネルの内訳は, 大学3.6%, 大学(栄養学科)67.0%, 普通高校27.9%, 専門家1.5%であり, また, 地域別では北海道17.2%, 関東35.1%, 甲信越24.2%, 九州23.4%となっている. いずれも, 依頼留置調査を郵送で行った. なお, 調査時期は1993年から1996年までである.

2. 4 調査用紙の表現上の問題

程度量表現は正方向と負方向で使えるもの, 使えないものがあるため, 過去の研究ではそれぞれを別に調査している(赤木ら, 1985:オープンエンドの数直線を用いた-100~+100の上で同時に測定している). しかし, この方法ではパネルの負担が重く, 大規模調査に向かないため, 「良い意味で, 程度をあらわす」選択課題(多重回答), 「悪い意味で, 程度をあらわす」選択課題(多重回答)という順で, まず48語についての調査を行った. この調査項目は赤木ら(1985)が用いた47語に, 80年代後半から使われた「超」を加えたものである.

2. 5 調査項目の選択

選択課題の後, 「感じられる程度(ていど)は, 100点満点で言えば何点ぐらいでしょうか?」という採点法課題を, 21語について行った. この48語から21語への選出は赤木ら(1985)が吉川(1973)の結果との比較(プラス側のみ)を20語で報告しており, その比較を意図したものである(前述の「超」を加え21語とした). ここで, 正負別の問題が残るが, 正負での利用という前問を用いて採点法結果を層別することにする. これは「自分が使わないのに聞かれるとなんとなく答えてしまう」ことを防ぐためでもある.

なお, 記述尺度のための用語収集の手順としては, 「測定したい構成概念を定め(define construct)」てから「尺度構成法を選択する(design scale)」という手順を踏む尺度研究同様に, まずその現場でよく用いられる用語を収集して, 対象に応じて選択するという, 「領域の決定(determine domain)」が必要となる(Spector, 1992). この方法は記述尺度法が用いられる以前からの尺度作成方法で, 尺度による構成概念測定における必須の手順(DeVellis, 1991)でもあり, 赤木ら(1985)も用いている. しかし, 本研究ではいわゆる一般パネルでどのような状態かを知るための実態調査であるから, 比較研究の観点から過去の研究報告を利用することにした.

3. 結果および考察

3. 1 プラス側マイナス側として選択された用語の結果

教示では「良い意味」としたが, 「プラス側の評価」で用いると選択された多重回答48語の結果はTable 1に示す通りである. ここでは, 簡便のために地域別ではなく全体で示している. 多重回答であるから, 総反応数(パネル全体の総選択頻度)と有効回答数(パネル全体の人数)とについて, 総反応数の頻度順に示した. また, 「悪い意味」という「マイナス側の評価」で用いると選択された結果はTable 2に示す.

Table 1

Multiple Response Summary of positive categories (1,180 valid cases)

Table 2

Multiple Response Summary of negative categories (1,179 valid cases)

3. 2 選択された結果に対する考察

選択の多い順とは集団全体の使用頻度であり, 程度量表現としての強さの順ではないことに注意が必要であるが, プラス側の選択結果を見ると「なかなか」が上位にきている. これは「良い」を後に続けて表現した結果であろう. また, 「~あり」はほとんど使われていないし, 「少し」「やや」「若干(じゃっかん)」もパネルの1割未満しか選択していない. つまり良さを表現する場合に「自分で使う言葉」としては使われていないのである. その他に, 良さの表現として下位にきているのは否定形の表現となっている.

マイナス側の選択結果からは「~でない」を組み合わせた表現が上位にきていることがわかる. また, 「~あり」はプラス側の結果同様にほとんど使われていない. しかし, 「全く(まったく)」「かなり」「やや」などは利用している様子がわかる.

3. 3 「超」の選択結果とその考察

ところで, 一部で使われてきている「超」については, プラス側(63.5%)マイナス側(29.0%)とも上位にきている. しかし, 先行研究で言う地域性を確認してみるとパネル数の大小はあるものの, 一貫して選択されているわけではない(Table 3). 北海道でのパネルは20歳前後が91%を占めているが, ほぼ100%が20歳前後である長崎や新潟の結果と比べても, 若者なら使うというわけではなさそうである. また, プラス側よりもマイナス側の選択頻度がおしなべて低い.

この選択頻度から言うと, 一般的な表現としてまだ定着しておらず, 地域により使われ方が異なると考えた方が良いと思われる.

3. 4 採点法結果とその考察

「自分が使うかどうか」を見るために, 全体の結果と良い評価選択と悪い評価選択とを平均値で比較して提示順で示す(Fig. 1). ここでも「~あり」が異なる結果を示している.

また, 95%信頼区間で比較したものをFig. 24に示す. ここでは, データ数の関係で検定は無意味であるから, 推定表現を示した. なお, 過去の研究との比較のために, 赤木ら(1985)による強さの順で示している. この結果からは, 一部の用語「きわめて」「実に」「~あり」を除いて, 全体の傾向は一致しているようである.

Table 3

Freqencies of "tyou" response among areas

Fig. 1

Differences by selected task.

Fig. 2

95%C.I. for scoring task (overall).

Fig. 3

95%C.I. for scoring task (positive)

Fig. 4

95%C.I. for scoring task (negative).

4. 全体的考察

以上により, 正負の選択課題別ではない, パネル全体の結果を過去の研究と比較する(Fig. 5). 選択の状況を加味し比較からいえる事は, 以下の通り:

1)「最も」「非常に」「きわめて」の3語はマイナス表現では区別できない

2)「最も」「非常に」「きわめて」と「かなり」とはレベルに違いがある

3)「そうとう」「とても」「実に」「特に」「たいそう」などの語は過去の研究とは異なった結果となっている

4)「比較的」「割合に」「なかなか」の語は過去の研究と異なり, 独立したグループのようになっている

5)「ちゅうくらい」はほぼ50前後に来ている. (吉川らの結果とは異なるが赤木らとの結果とは似ている)

6)「~あり」は選択頻度から使えない可能性がある

7)「やや」「いくらか」「ちょっと」「じゃっかん」「少し」は差がついていない可能性がある

8)「わずかに」は「やや」「いくらか」「ちょっと」「じゃっかん」「少し」とレベルが違う

9)「英語のdislike moderatelyに相当する語はみつからなかった」(吉川, 1973)点については, 標準誤差が大きく今回もマイナス側で適切な表現は見つからない

などである.

Fig. 5

Result compared with previous two studies.

5. 結語

これまで見てきたように, 測定方法は違うものの, 過去の研究との比較では同じ傾向を示す程度量表現がある一方で, 異なる結果となる表現もあった(今回は詳細を述べないが, 採点法結果を順位で正規化変換したところ, 用語によっては一貫した傾向が見られないものもあったことを用語の選択で利用した). 例えば, 吉川(1973)が示している9段階での嗜好尺度については, 本研究では「少し」「やや」が逆転し異なる結果となった(Fig. 6). 図中ではISO4121(1987)が定めた9段階嗜好尺度の英語表現もあわせて記載した. ただし, この結果からすぐに結論を出すことはできない. 等間隔性の問題を含め今後の課題である.

ところで, 中立表現として「どちらでもない」「どちらともいえない」が用いられることが多いが, この表現については, 単極尺度(unipolar scale)で用いた場合に「どちらともいえない」と「あまり~でない」とが区別できない(この2語を入れ替えた5段階の結果に提示順で矛盾を生じる), 「たいへん」「とても」「かなり」の3語間の程度量に関する意味の差異が不明確という報告もある(織田, 1970;織田, 1977). この報告とISO4121での表現形式とを比べると興味深い.

官能評価分析ではこうした検討資料が残されているが, 一般的な調査では, これ以外の用語 (「まぁ」)なども使われてしまっている. しかし, これまで述べたように, 表現用語としての順序性・等間隔性などを確認して利用する必要がある.

なお, 順序性の観点から, 本研究での7段階の提案は「非常に」「とても」「やや」「どちらでもない(好きでも嫌いでもない)」「やや」「とても」「非常に」, また, 9段階の提案は「非常に」「とても」「やや」「わずかに」「どちらでもない(好きでも嫌いでもない)」「わずかに」「やや」「とても」「非常に」, 5段階の提案としては「非常に」「やや」「どちらでもない(好きでも嫌いでもない)」「やや」「非常に」となる. また, 等間隔性を前提とした数値化を行う場合には, 数字の併記が望ましいと思われる.

Fig. 6

Differences from Nine-point hedonic scale (Yosikawa, 1973) and Nine-point hedonic scale (ISO4121, 1987).

謝辞

本論文の調査にあたり, 千葉県立衛生短期大学栄養学科渡邊智子助教授のご協力を得ました. ここに, 深く感謝申し上げます. また, 実際の調査では数多くの方々にお世話になりました. あわせて感謝申し上げます.

引用文献
 
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