日本官能評価学会誌
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研究報文
官能評価によるクリ皮のむきやすさの検討
畑江 敬子嶋田 淑子戸田 貞子壽 和夫香西 みどり
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2002 年 6 巻 1 号 p. 36-40

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1. 緒言

クリは世界的にその利用の歴史は古く, その甘味を生かした菓子や料理が広く親しまれている. 日本では甘露煮, 羊羹, 栗きんとん, 栗ご飯などその甘味と季節感を生かした調理が数多くあるが, 西洋料理や中国料理にもマロングラッセ, 天津甘栗などよく使われている.

しかしクリは鬼皮が硬くて包丁がすべりやすく渋皮は剥皮性が極めて悪い. 食品加工の場でもクリの皮むきは手作業で行われており, 労力を要しコストをあげる原因となっている. またニホングリはヨーロッパグリにくらべると粒も大きく風味もすぐれているといわれるが(渡辺等, 1981), ヨーロッパグリおよびチュウゴクグリとくらべて渋皮がはなれにくく, 特に皮むきが難しいとされている. (櫻井, 1969;渡辺等, 1981;主婦の友社, 1996)

クリの皮むきはクリの加工上最大の難点であることから, クリ皮をむきやすくするための前処理方法としてさまざまな方法が考案されている. 塩酸・焼きミョウバン法, カセイソーダ法, ゼラチン・石灰法, 酵素利用法, 焙焼法など多数考えられているが, (缶詰技術研究会, 1970;Manabe, 1970)Tanaka, et al.(1981)は亜塩素酸ナトリウムによって胚表面のひだを残したまま渋皮を溶解する方法を開発した.

しかし経費, 能率, 確実性, 薬品の毒性, クリの肉質, 色および味, などの点で解決すべき問題が残されており, 必ずしも実用的とは言えない. (缶詰技術研究会, 1970;田中等, 1992)

Tanaka, et al., (1981)は渋皮の剥皮の難易度をPeeling Scoreを用いることによって数量化することを試みた. Peeling Scoreはナイフで渋皮を剥皮するのに要する時間を4段階に区分して求めるものであるが, パネルの構成などにおいて官能評価の手法に基づいておらず, 問題があると思われる. 水に漬ける, 熱湯に漬ける, 炒るなど, 一般的に家庭でも行われているほとんどの方法はもっぱら経験によっており, それらがどの程度効果的かを評価する方法は明確でない.

本研究ではクリ皮をむきやすくするための前処理の効果を, 特に能率, 確実性に着目して評価する方法を検討し, パネルによる評価およびクリの皮むき時間を測定する方法で評価を試みた.

2. 方法

試料としてクリは茨城産「石鎚」を用いた. 官能評価を行う前処理方法を選ぶために予備実験 (Fig. 1)を行なった. 予備実験は「水に漬ける」「ゆでる」「蒸す」「沸騰水浸漬」「フライパンで炒る」「油をまぶしてオーブン加熱(200℃, 5分)」「油で揚げる(160~170℃, 5分, 2分)(170~180℃, 3分)」「電子レンジ加熱」の方法を検討した.

一般に調理書などでは「水に漬ける」「ゆでる」方法か効果があるとされているが, (主婦の友社, 1981;主婦の友社, 1996)予備実験では鬼皮には効果があっても, 渋皮には効果がなかった. 電子レンジ処理では処理後のクリの状態が均一でなく一定しなかった. むきやすさやむいたクリの肉質の状態などから, 最終的に次の3種を選んだ.

(1)沸騰水浸漬 :1リットルの水を沸騰させ, 火を止めてすぐクリ3個を入れそのまま5分間浸潰する.(クリを入れた時の水温は93℃, 最終水温は75℃)

(2)蒸す:100℃の蒸し器中にクリ3個を入れて2分間蒸し, 火を止めて3分そのまま放置する.

(3)揚げる:油温度160~170℃の中で2分間揚げる. クリにはあらかじめ2cm×2cmの切り目を十文字に入れる.

官能評価の方法:パネルは女子学生11名とし, それぞれのパネリストが1処理方法につき3個のクリをむき, 難易度を1.むきやすい 2.ややむきにくい 3.むきにくいの3段階で評価させた. また, それぞれのむき時間の平均をパネルのクリむき時間とした. パネルにはあらかじめクリのむき方について説明した指示票(Fig. 2)を示し, 包丁を入れる順序, 包丁を入れる方向などについて指示した. クリは栗ご飯に使うクリをむくことを目標にした. 包丁はペティナイフを使用した. 前処理終了直後のクリをパネルに渡し, クリをしっかり手に持つことができる温度になったら, クリの皮むきを開始した. 最初に鬼皮だけをむいて鬼皮のむき時間を検査員がパネルにわからないよう測定し, 次に渋皮をむいて渋皮のみのむき時間を測定した. 前処理前のクリの重量, 皮をむいたクリの重量を測定し収量を求めた.

なお, 実験の最初と最終回に未処理のクリをむくテストを行い, 実験をくりかえすことによるむき時間におよぼす熟練の影響を調べた.

各パネリストの未処理のクリの皮むき時間に対する前処理したクリの皮むき時間の短縮率からむきやすきを評価した.

Fig. 1

予備実験 いろいろな前処理方法で皮をむいたクリ

Fig. 2

官能テストのための指示票

3. 結果

パネルはほとんどのクリ皮むきの難易度について3と答えたため, 結果については省略する. 難易度の段階については更に検討を要する. クリの皮むき時間は個人差が非常に大きかった. そのため結果については各パネリストの未処理生グリの皮むき時間に対する短縮率を示した. 実験の初回と最終回に未処理生グリをむき, そのむき時間を比較しパネルが実験をくりかえすことによるむき時間におよぼす熟練の影響を調べたが, 有意の差はなく影響は認められなかった. (Table 1

パネリストの3種の前処理方法における皮むき時間の短縮率をTable 2に示した. 鬼皮については3種すべての前処理方法で有意に皮むき時間が短縮された. 特に「揚げる」方法では30%まで時間を短縮できた. 渋皮については標準偏差が大きかったにもかかわらず「蒸す」「揚げる」において有意(p<0.05)に皮むき時間が短縮され, 前処理の効果があった. 「沸騰水浸漬」では有意の差はなかった. 「揚げる」方法は鬼皮で約30%, 渋皮で約60%まで時間を短縮でき, 3種の方法の中ではむき時間の短縮効果が最も大きかった. 「沸騰水浸漬5分」の条件では渋皮について未処理と有意の差はなく, 前処理の効果としてはそれほど有効ではなかった. 調理書(主婦の友社, 1981;主婦の友社, 1996)に記されている「沸騰水浸漬」「水に漬ける」「ゆでる」方法では, 鬼皮には効果があっても, 内部の渋皮まではむきやすさの効果はおよばなかったといえる.

またクリの重量測定の結果, 3方法すべて未処理のクリ(60.5%)より収量があがったが「揚げる」方法で廃棄率が小さく, 収量が65.1%と最も多かった.(Table 3

Table 1

パネルのクリむき時間の熟練による時間変化(秒)

Table 2

3種の方法によるクリむき時間の未処理生グリのむき時間に対する割合

Table 3

処理方法によるクリの収量の比較

4. 考察

予備実験としていろいろな前処理の方法を検討したが, 前処理後の状態が一定でクリの個体差がなるべく小さく均一に処理できる方法を選んだ. その点では「沸騰水浸漬」,「蒸す」の方法が適していた. また, むいたクリの肉質がくずれたり, 過加熱になったりすることのないよう温度や時間の条件を検討した. しかしそれぞれ目的とするクリの調理方法によってそれぞれ適した前処理方法があり, 肉質に与える影響も許される点が違うため, さらに検討が必要である.

皮のむき時間と収量の両方で最も大きな効果がみとめられた「揚げる」方法では揚げ加熱中の破裂を防ぐために十文字に2cm×2cmの切り目を入れたが, この切り目が大きな効果を作りだした可能性がある. 表面がわずかに油の影響を受けてもよい場合, 特に中華料理などは収量の点からも前処理の方法として「揚げる」方法が効果的であるといえる.

また, 栗ご飯に使うクリを目的として皮むきをしたが, これでむき終わったと判断されたできあがりの状態は個人差が大きかった. 官能評価の方法として皮のむき時間を測定したが, 想像以上に 時間もパネルの個人差が大きかった. しかし個人内では一定していることがわかった.皮むき時間の初回と最終回を比較したが, この実験回数では熟練の影響は無いことを確認した.

5. 要約

ニホングリの皮むきを容易にするための3種の前処理の効果を評価した. 「沸騰水浸漬」「蒸す」「揚げる」の3種の方法で評価を行った. 11名から成るパネルが1処理方法につきクリ3個をむき, 鬼皮と渋皮をむく時間を測定した. 皮むき時間は「蒸す」および「揚げる」方法によって短縮し, 特に「揚げる」方法は未処理に対し60%まで時間の短縮が可能となった. 沸騰水浸漬の効果は渋皮のむき時間ではみられなかった.

引用文献
 
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