日本官能評価学会誌
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研究報文
単純接触効果が衣服写真の衣服自体にあらわれることの検証
長田 美穂小林 茂雄
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キーワード: 単純接触効果, 衣服写真
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2005 年 9 巻 1 号 p. 40-46

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1. 緒言

新奇な刺激対象でも見慣れれば, その刺激対象に好感を持つようになるという単純接触効果をZajonc, R. B. (1968)は提唱した. 従来行われた単純接触効果の研究の刺激対象に衣服がなかったため, 筆者らは, 今までの研究において, 刺激対象の衣服写真において単純接触効果があらわれることを見いだしてきた. すなわち, 第1研究(長田ら, 1992)においては「感じのよい―感じのわるい」, 「親しみやすい―親しみにくい」. 「好きな―嫌いな」を好感度尺度とし, 新奇な印象を与える衣服の写真を繰り返し見せることにより, 1回呈示条件よりも10回呈示条件, 20回呈示条件と呈示回数が増すにつれて好感度項目の評価が高くなる単純接触効果が衣服写真にも出現することを確認した. また第2研究(長田・小林, 1995)では刺激写真の新奇さの度合いを極高・高・中・低・極低の5段階に分け, どの刺激の強さに単純接触効果が出現するのかを確認した. 結果は最も新奇さの度合いが強い極高で効果が確認された. さらに第3研究(長田・小林, 1996)では, 衣服着用モデルにスーパーモデルである, という良い情報を与えたときに単純接触効果がどのように出現するのかを第1研究と比較して検討した. 結果は「好きな―嫌いな」の尺度でのみ単純接触効果が認められ, 第1研究で認められた「親しみやすい―親しみにくい」の尺度には認められなかった.

人物の顔写真を用いての単純接触効果の研究はこれまでMitaら(1977), 長田ら(1988)が行っており, 女性, 男性, いずれにおいても効果が認められる結果が得られていた. しかし, これまでの研究では, 単純接触効果が顔と衣服によって生じるのか, あるいは, 衣服だけでも生じるのかということの検討が不十分であった. そこで, 本研究では, 衣服のみの刺激写真条件と衣服と顔を写した刺激写真条件で実験を行い, 前者においても単純接触効果が出現するのかどうかを確かめることとする.

2. 方法

2.1 刺激写真画像 A~Jまでの10種類の写真画像を用いた. 写真画像は新奇さを強調するために, 実際ではありえない素材を中心にしての合成写真を作成した. そのうち. 呈示回数を1回, 10回, 20回と操作する写真は予備実験においても新奇であると確認されたB, E, Gの3写真画像(Fig.1, Fig.2). それ以外の7種類の写真画像は, 新奇な画像を何回も目にするうちにその画像に好感を抱くようになるであろう, とする実験の意図を隠すためのダミー写真画像である. それぞれの写真画像について, 衣服のみの写真画像, 衣服と顔のモデル写真画像の2種類を用意した.

2.2 実験条件 実験は個別実験であり, B, E, Gの写真画像のうち1写真画像については1回, 1写真画像については10回, 残りの1写真画像については20回になるように操作した. 被験者をTable 1のように6群に分け, 被験者によってB, E, Gの各々の写真画像の呈示回数(1回, 10回, 20回)が異なるように条件設定し, 画像の受けとめ方の個人差による影響を相殺するようにした.

2.3 被験者 18~26歳までの男子専門学校生(36名), 女子大学生(36名)の合計72名. これらのうち①衣服のみの刺激写真条件には男子被験者18名, 女子被験者18名であり, ②衣服・顔(衣服着用モデル)の刺激写真条件には男子被験者18名, 女子被験者18名であった. これらの被験者を, Table 1に示す各群にそれぞれ3名配置した.

2.4 印象評定尺度 評定尺度として使用した形容語対は, 筆者の行った第1研究(長田ら, 1992)から使用している12形容語対に加え, 新たに尺度11「心地よい―心地わるい」を入れた13項目からなっている(Table 2). その内訳は, 単純接触効果を確認するための好感度尺度項目(尺度3, 6, 7, 11), 新奇さを測定する尺度項目(尺度4), さらには被験者に実験の意図に気付かれないための偽装尺度項目(尺度1, 2, 5, 8, 9, 10, 12, 13)である. いずれの尺度も7点尺度である.

2.5 手続き 実験は, まずパソコンに映し出されたA~Jまでの10種類の刺激写真画像についての印象を, 考え込まずに直感で答えるよう指示して, それぞれ13の尺度上(Table 2参照)に評定してもらった. 次に, I~VI群の被験者ごとに呈示条件を変えてパソコンの画面を見てもらった. すなわち, B, E, Gのうち1写真画像については1回, 1写真画像については10回, もう1写真画像については20回, そして3写真画像以外の7写真画像(ダミー写真画像)を各1回入れた, 合計38枚の写真画像を, 1枚につき2秒間ランダムに呈示した. 最後にB, E, Gについてのみ, もう一度印象を, 1回目と同様の評定用紙に評定してもらった.

Figure 1

Photos of the compounded dress only.

Dress B, E and G were created by the writer.

Figure 2

Photos of the compounded dress and the face.

Dress B, E and G were created by the writer.

Table 1

Allocation of subject's groups to combination three exposure condition

Table 2

Thirteen rating scales measuring impressions of dresses and faces

3. 結果

印象評定の結果は, 7点尺度の各評定に1点~7点を付与して整理された(その際, 好感度と新奇度の測定にかかわる項目については, 得点が高くなるほど好感度・新奇度が高くなるように得点を付与した). まず, 用いた13の形容語対のうちで, 好感度を測定していると考えられる尺度を確定するために, 第1回目の評定結果で主因子法による因子分析を行った. 固有値1.0以上のものが3因子あり, この3因子についてバリマックス回転を行ったところ, Table 3のような因子負荷量を得た. これら因子のうち第1因子が評価性因子であり, 好感度を測定する尺度であると考えられる. すなわち, 尺度3「感じのよい―感じのわるい」, 尺度6「親しみやすい―親しみにくい」, 尺度7「好きな―嫌いな」, 尺度11「心地よい―心地わるい」がこれに該当し, この4尺度を用いて単純接触効果が出現したのかどうかを検討した. 多くの先行研究においては「好きな―嫌いな」のみで単純接触効果を論ずる場合が多いが, 今回のように4尺度を用いた方が, より総合的で安定的な評価性の値が得られるものと考えた.

次に用いた写真画像がどのくらい新奇であったかを第1回目の評定結果から示す. Table 4が衣服のみの写真画像の新奇さを, Table 5が衣服着用モデルの写真画像の新奇さを示している. 新奇さの度合いは, 尺度4の「珍しい―ありふれた」の評定の平均と標準偏差である. 平均の値が大きいほど, その写真画像が新奇なものと, 受けとめられていることを示している(非常に珍しいは7). 衣服のみ, 衣服着用モデル写真画像条件においては, 中立点(どちらでもない)4.00と考えても, 実験で操作したB, E, Gをはじめ, いずれも新奇な側に位置している.

次に, どの写真画像条件に, 単純接触効果が出現したかどうかの結果を示す. Table 6が衣服のみの刺激写真画像条件における. 各呈示条件の尺度3, 6, 7, 11及び4尺度の合計値を好感度尺度として, 各々の平均値を示した結果である. Table 7は衣服・顔(衣服着用モデル)の刺激写真画像条件の結果である. また, 好感度(尺度3, 6, 7, 11及び4尺度の合計値)に関する3元配置(A:呈示回数条件, B:刺激写真画像条件, C:男女差)の分散分析をした結果, 尺度6, 7, 11及び4尺度の合計値に関して, 呈示回数条件の主効果が有意となった(尺度6:F(2, 136)=5.10, P<0.01;尺度7:F(2, 136)=12.26, p<0.01;尺度11:F(2, 136)=6.72, p<0.01;4尺度の合計値:F(2, 136)=7.79, p<0.01). 刺激画像条件の主効果は, いずれの尺度においても有意ではなかった. また, 被験者の男女差の主効果も, すべての交互作用も有意ではなく, 有意な効果は, 直接に単純接触効果にかかわる, 呈示回数の主効果においてだけ認められた. すなわち, 呈示回数の主効果は, 「感じのよさ」以外の3つの尺度と4尺度合計においていずれも1%水準で有意差が認められた. さらにどの呈示回数間に有意差があったのか, 多重比較(テューキーのHSD検定)した結果, 有意差の認められた「親しみやすさ」, 「好きな」, 「心地よさ」, 「4尺度合計」において, 1回呈示条件と20回呈示条件間, 10回呈示条件と20回呈示条件間で1%水準の有意差が認められた. 1回呈示から10回呈示ではまだ認められない単純接触効果が, 20回呈示に至って出現していることがわかった.

Table 3

Factor analysis of impression ratings

Table 4

Mean and standard deviation of novelty impression rating for each dress

Table 5

Mean and standard deviation of novelty impression rating each both dress and face

Table 6

Means of favorability impression ratings under condition of photograph of dress

Table 7

Means of favorability impression ratings under condition of photograph of both dress and face

4. 考察

実験結果は, 衣服着用モデルの刺激写真画像条件と, 衣服のみの刺激写真画像条件の間に有意差は認められず, しかも提示回数が1回から20回に増えることによって好感度項目の評価が高くなったことから, 衣服自体においても, 単純接触効果が確かに出現したことが確認された. 被験者の男女差の主効果も, またいずれの交互作用も有意ではなかったので, このことは男女にかかわりなく一般的にいえることと考えられる.

本研究は, 衣服着用モデルの刺激写真画像条件で単純接触効果があらわれても, 衣服を見慣れるとともにモデルの顔をも見慣れることになるので, 衣服自体において単純接触効果が出現することを確かめるために行われた. その結果, 新奇な衣服なら見慣れることによって好感度が増すという単純接触効果が衣服自体に生じることを確認することができた. ただし好感度がかなり低かった対象が「どちらともいえない」という中立点に近づく結果とも言える. 新奇で見慣れない対象が, 繰り返し接触により受け入れる範囲にまで好感度が上昇した, という単純接触効果は出現したと言える結果であった.

人の顔を見慣れると, その人に好感を抱くという先行研究(Mitaら, 1977)もあるが, それは顔だけをクローズアップして見せた場合に他ならない. 新奇な衣服を着用したモデルを見せたときに, モデルの顔もさることながら, 新奇な衣服の方がその新奇さとその面積の大きさからして, 刺激価が圧倒的に大きく, したがって衣服の方を注視することになるのだと考えることができよう.

5. 結言

本研究は, 単純接触効果が, 実験に用いた写真画像の衣服着用モデルの顔を見慣れることによって出現したことも考えられるため, 衣服自体においても確かに効果が出現することを目的として, 実験を行った.

結果は, 衣服写真画像条件と衣服着用モデル写真画像条件の間では有意差は認められなかった. 被験者の男女差でも有意差は認められなかった. しかしながら, 提示回数条件では, 「感じのよさ」以外の「親しみやすさ」, 「好きな」, 「心地よさ」, 「4尺度合計」のいずれでも, 1%水準で有意差が認められた. 有意差は1回提示条件と20回提示条件間, 10回提示条件と20回提示条件間に認められ, 提示条件が20回になると, 衣服写真画像条件においても, 衣服着用モデル条件においても単純接触効果が出現することがわかった.

以上, 男女とも, 衣服のみの衣服写真画像条件においても確かに単純接触効果が出現することから, 衣服自体において確かに単純接触効果が出現することが確認された.

引用文献
  • Mita, T. H., Dermer, M & Knight, J (1977) Reversed facial images and the mere-exposure hypothesis. Journal of Personality and Social Psychology, 35, 597-601
  • 長田雅喜, 伊藤義美, 舟橋厚(1988)正像と鏡像の顔写真による単純接触仮説の検討, 名古屋大学教養部紀要B, 32, 101-107
  • 長田美穂, 杉山真理, 小林茂雄(1992)服装の好感度における単純接触の効果, 繊維機械学会誌, 45, 193-198
  • 長田美穂, 小林茂雄(1995)服装の新奇さの度合いと単純接触の効果, 繊維機械学会誌, 48, 87-94
  • 長田美穂, 小林茂雄(1996)衣服着用モデルについての情報提示と単純接触効果, 繊維機械学会誌, 49, 183-188
  • Zajonc, R. B. (1968) Attitudinal effects of mere exposure. Journal of Personality and Social Psychology Monograph Supplement, 9 (2, part2), 1-27
 
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