2023 年 53 巻 1 号 p. 1-27
本論文では確率分布の鞍点が持つベクトル場としての性質を利用し,多変量確率分布列に関する法則収束の様子を調べる.鞍点ベクトル場の時間変動が3次元グラフにより可視化されるが,これを流体の収束と見做すことにより,漸近正規性とは接ベクトル空間が均一化していく現象であるという新しい解釈を得る.鞍点・逆鞍点を一般次元へ拡張するとd次元ユークリッド空間に含まれるリーマン多様体の構造を有し,接ベクトル空間は互いの双対ベクトル空間であることが示される.特に逆鞍点多様体は分散共分散行列を接ベクトル空間の基底行列とする自然な多様体であり,その各点に対し一意的に正規分布を対応させる連続写像が存在する.確率分布の形をノンパラメトリックに捉えるアプローチにおいて鞍点・逆鞍点多様体は魅力的な性質を持っている.