スポーツ社会学研究
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特集
「ゆるスポーツ」からみたスポーツ〈場〉の構造変動と文化変容の可能性
松尾 哲矢
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2022 年 30 巻 1 号 p. 37-56

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抄録

 本稿では、ゆるスポーツに着目し、スポーツ〈場〉の構造変動と文化変容の可能性について検討した。分析においては、ブルデューの〈場〉の議論を踏まえ、再生産戦略、正統性の獲得と象徴闘争の視点で検討した。
 ゆるスポーツは、近代スポーツを相対化し「即時性―遊戯性・世俗性」という価値意識を有しており、社会課題に応じてスポーツを「つくる」点に力点を置く。「つくる」視点としては、「マイノリティからの視点」を重視し、「マイノリティデザイン」という理論的方法論を有していた。
 ゆるスポーツの展開にあたっては、個のスポーツの普及・発展という方法ではなく、スポーツをつくる場の持続可能性を高めるという手法を用いていた。世界ゆるスポーツ協会の運営においては、産業としてのスポーツに立脚しながら、プロフェッショナルとして独自のスポーツ〈場〉の形成と相対的自律性の確立を企図した動きが看取された。
 次にゆるスポーツの推進の方法論と密接に結びついた産業化の動きに着目し、「教育としてのスポーツ」から「産業としてのスポーツ」への地殻変動の動きを「聖―俗―遊」図式と文化的機能という視座から整理した上で、ゆるスポーツの特徴と構造変動の可能性について検討した。
 産業としてのスポーツの正統性の獲得にあたっては、遊としての自省機能がより問われることになる。その意味で、ゆるスポーツは、マイノリティを起点として「つくる」プロセスにおいて自らの存在を疑い、反省的思考を内在化させる方法論を有しており、正統性の獲得の可能性が示唆された。
 さらに、ゆるスポーツの動向を相対的に分析するために、わが国における「ニュースポーツ」運動に着目し、その戦略と近代スポーツの枠組みに飲み込まれる様相について分析し、その結果を合わせ鏡としてゆるスポーツの可能性について検討した。
 最後に、ゆるスポーツの可能性について、well-beingと文化享受、スポーツをつくる文化の創造と文化変容から検討した。

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