スポーツ社会学研究
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スポーツにおける男性支配の象徴的次元からの変革と体育会系男子のハビトゥス
片岡 栄美
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2024 年 32 巻 2 号 p. 5-22

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抄録
 スポーツは男性支配の価値観と親和性が高い。また日本のスポーツ部活動や教育的指導の場では、体罰や罰走、坊主刈りのように、いまだに奇妙で理不尽ともいえる規則や慣習が継続している。男性優位の価値観や認識も、スポーツ界で再生産されがちである。
 本稿は、スポーツと男性支配の関係を象徴的次元から検討し、スポーツ界が男性性の保護区とならないように変革するために有効と思われる2つの社会学的アプローチを提案する。第1がアーティキュレーションの概念を用い、言説の意味編成を変えていく言説的実践による変革の方向である。理不尽だと選手が考えるスポーツ界で自明とされてきた坊主刈りや罰走、暴力などが教育的意味を持たされていたことを脱構築し、その意味や定義をスポーツや部活動、教育の文脈ではなく、虐待や人権侵害や健康問題などの社会問題として他の文脈へ接合(アーティキュレーション)し直し、言説の再編成を行なうことで、スポーツ指導を理由にした支配と服従の関係を見直すことができる。第2が、ブルデュー理論を参考として、スポーツと男性支配の問題を社会全体の象徴支配や象徴的暴力の問題として捉え、そこからの意識改革を行なう方向性である。これは、ジェンダー差の大きな日本社会の課題でもある。
 また本稿では、スポーツの苦手な男子や体育会系とは異なるハビトゥスを持つ男性同士の象徴闘争やリベンジの問題にも焦点をあてた。インタビュー調査のほか全国大学生調査(質問紙調査)データを用いて、男子の体育会系とオタク、サブカル系、アート系の特徴を、文化資本、社会関係資本、政治的資本で比較することで、資本構造の違いとかれらのハビトゥスの特徴を明らかにした。その結果、コアな体育会系男子は読書率が低く、新しい知識の吸収も弱い文化資本ではもっとも低い位置にあった。社会関係や社交では体育会系は他のタイプよりも優位な立場にあるが、排他的で保守的な価値観や性役割分業意識も強く、かつ自信をもち、彼らが男性支配の価値観から脱却することの困難さが明らかとなった。
 最後にスポーツ指導と選手たちの自立性の醸成について、疑似的自立性と自己指令的自立性の違いについて論じた。
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