スポーツ社会学研究
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武術教室における言語と実践
型稽古の記述のこころみ
倉島 哲
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キーワード: 武術, 身体技法, 実践, 反省性,
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2001 年 9 巻 p. 71-82,135

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抄録

本稿は、筆者が1999年5月から2000年8月現在 (続行中) にいたるまで、週二回の練習に参加して行った武術研究会S流のフィールドワークをもとに、その型稽古を内在的に記述することによって、身体技法のあらたな理論的可能性を示すこころみである。
S流の型稽古の特徴は、次の三点である。(1) 型は抽象的な規範として示されることはなく、それぞれの相手の体格や動きかたに応じた動作としてのみ示され、またそのような動作としてのみ練習されること。(2) 相手に応じた動作とは、その相手に「効く」動作でなければならないとされているため、型稽古が試行錯誤的な競技の性格を帯びていること。(3)「効く」動作の習得が、「身体の線」をはじめとした独特の言語によって媒介されており、それらが「示し」のネットワークをかたちづくること。
これらの特徴を総合したなら、S流の型稽古は、反省された身体的な感覚と「示し」のネットワークのあいだの往復運動として描き出されることになる。この往復運動は、言語的であると同時に身体的であるため、〈精神-無意識の身体技法〉という二元的図式にのっとったマルセル・モースの身体技法概念やピエール・ブルデューのハビトゥス概念ではとらえきれない。また、「示し」のネットワークは当事者が複数のアドバイスに主体的に関与することによってのみ構成されるため、つねに反省や再構成に開かれたものである。そのため、これは〈主体-無意識の構造〉という二元的図式にもあてはまらない。S流の型稽古を考察することで、従来の身体技法をめぐる社会学的認識論の限界をのりこえるようなフィールド記述の可能性をさぐることができるだろう。

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