日本血栓止血学会誌
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2016 年度日本血栓止血学会 学術奨励賞
急性冠症候群の病態生理におけるマイナーリゾリン脂質の関与の可能性
蔵野 信
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2016 年 27 巻 4 号 p. 460-465

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抄録

要約:リゾホスファチジン酸(LPA)は,とくに血管生物学の分野において重要な役割を果たしている生理活性脂質である.LPA は,主にオートタキシン(ATX)を通じてリゾホスファチジルコリン(LPC)から産生されるが,急性冠症候群(ACS)では,LPA は増加していたが,ATX は増加していなかった.そこで,ACS においてLPA が増加する経路を明らかにするため,液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計を用いて,LPA の分子種まで解析した.その結果,ACS では,22:6 LPA,18:2 LPA,20:4 LPA がとくに増加していた.また,LPA 以外のグリセロリゾリン脂質もACS では増加しており,ACS で増加していたLPA の分子種と相同する分子種のグリセロリゾリン脂質とは強い正の相関関係があった.また,リゾホスファチジルセリンと血小板の活性化マーカーであるセロトニンの間には,特異的な有意相関が認められた.このように,LPA 以外のよく知られていないグリセロリゾリン脂質も,LPAの産生を通じて,あるいは直接的にACS の病態生理へ関与している可能性がある.

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© 2016 日本血栓止血学会
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