2020 年 31 巻 1 号 p. 3-6
血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)は,溶血性貧血と血小板減少に中枢神経や腎臓などの臓器障害を認める疾患群である.TMAに含まれる疾患で最も症例数が多いのが,志賀毒素産生性大腸菌(Shiga toxin producing E. coli: STEC)による溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)である.それ以外で,診断基準が明らかな血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)は,ADAMTS13活性10%未満で診断される.この2つの疾患以外は,鑑別が困難な場合が多いが,その中で近年疾患概念が明らかになったのが非典型(atypical)HUS(aHUS)であり,補体系の異常によって発症する.また,自己免疫疾患,妊娠,造血幹細胞移植後などの明らかな基礎疾患や状態が存在すれば二次性TMAと診断される.最近,それぞれの疾患に特異的な治療薬が開発されているので,病因による分類が重要な時代となっている.
血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)は,1952年に米国のSymmers1)によって初めて報告されたと思われる.彼は,その報告の中で米国以外では血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)として知られているものであると記載している.TTPは血小板減少と溶血性貧血に加え,腎機能障害,発熱,精神神経症状の古典的5徴候で診断されていたが,これらの徴候が揃うのはこの病気の終末期であることを彼は危惧している.そのため,前記2徴候で早期に診断するためTMAという症候群を使用したと思われるが,その後TMAは主として病理学的な診断名として使用されてきた.最新のハリソン内科学には,「TMAは終末小動脈や毛細血管の内皮細胞障害が特徴の病理学的病変である.血小板血栓とヒアリン血栓による完全もしくは部分閉塞がTMAの病理組織学的所見として必須である」と記載されている2).現在でもdisseminated intravascular coagulation(DIC)はTMAに含まれるとの間違った記載を散見するが,DICはフィブリンを中心とした血栓によるものであるので全く違う病因である3).ただし,TMAとDICを臨床的には鑑別することが困難であることは,しばしば経験する.また,TMAが進展するとDICになることは予測できるので,TMAとDICがオーバーラップする症例は存在する4).
本稿は,本号の特集「TMAの臨床」の序として,TMAの分類について簡便に記載し,詳細は特集内のそれぞれの論文に譲りたい.
TMAは,細血管障害性溶血性貧血と血小板減少に,血小板血栓による臓器障害の3徴候で知られている.臓器障害は,軽症から重症まで様々な程度のものがあり,障害臓器も中枢神経,腎臓,心臓,腸管など様々なものが含まれる.
TMAに含まれる代表的な疾患として,TTPと溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)が知られているが,この2疾患だけでも臨床的に区分することが困難な症例もあり,あえて区分せずTTP/HUSもしくはTMAと診断することもあった5).ただし,2000年以降TTPはADAMTS13欠損によるもの,非典型(atypical)HUS(aHUS)は補体関連の因子の異常によるものが明らかとなり,その病因によって分類することが推奨されている6).
様々なTMAの分類が報告されているが,厚生労働科研「血液凝固異常症に関する調査研究班」(班長 村田満先生)のTTPグループがTTP診療ガイド20177)で報告した分類を表1に示す.まず,ADAMTS13活性が10%未満に著減するADAMTS13欠損TMAがTTPであり,明確な診断基準が存在する.次に感染症に合併するTMAで有名であるのが,O157大腸菌などの志賀毒素産生性大腸菌(Shiga toxin producing E. coli: STEC)感染によるSTEC-HUSである.それ以外にも症例数は少ないが肺炎球菌感染でもTMAを発症し,肺炎球菌が産生するニューラミダーゼによるものと考えられている.また,補体関連TMAがaHUSと考えられているが,diacylglycerol kinase ε(DGKE)やthrombomodulin遺伝子異常による凝固関連TMAもaHUSとする意見もある.それ以外にも,SLEなどの自己免疫疾患や,造血幹細胞移植,妊娠などに伴って発症する二次性TMAがあるが,いずれも原因が明らかではなく,病因での分類ができない.なお,古典的5徴候を認め,血漿交換も有効であるが,ADAMTS13活性が著減しておらず,TTPと診断できない症例がある.歴史的にはTTPと考えられるが,現状ではTTPと診断できないことから,この分類ではTTP類縁疾患としている7).
病因による分類 | 病因 | 原因 | 臨床診断 | 臨床診断に重要な所見 |
---|---|---|---|---|
ADAMTS13欠損TMA | ADAMTS13活性著減 | ADAMTS13遺伝子異常 | 先天性TTP(Upshaw-Schulman症候群) | ADAMTS13遺伝子異常 |
ADAMTS13に対する自己抗体 | 後天性TTP | ADAMTS13活性著減,ADAMTS13自己抗体あり | ||
感染症合併TMA | 感染症 | 志賀毒素産生大腸菌(STEC)(O157大腸菌など) | STEC-HUS | 血液や便検査でSTEC感染を証明 |
肺炎球菌(ニューラミダーゼ分泌) | 肺炎球菌HUS | 肺炎球菌感染の証明 | ||
補体関連TMA | 補体系の障害 | 遺伝的な補体因子異常(H因子,I因子,MCP,C3,B因子) | Atypical HUS | 補体因子遺伝子異常 C3低値,C4正常(これらは全例で認める訳ではない) |
抗H因子抗体 | 抗H因子抗体の証明 | |||
凝固関連TMA | 凝固系の異常 | Diacylglycerol kinase ε (DGKE),THBD遺伝子異常 | Atypical HUS? | 遺伝子異常の証明 |
二次性TMA | 病因不明 | 自己免疫疾患 | 膠原病関連TMAなど | SLE,強皮症などの膠原病が多い |
造血幹細胞移植 | 造血幹移植後TMA | 血小板輸血不応,溶血の存在(ハプトグロビン低値など) | ||
臓器移植(腎臓移植,肝臓移植など) | 臓器移植後TMA | 原因不明の血小板減少と溶血の存在(ハプトグロビン低値など) | ||
悪性腫瘍 | 悪性腫瘍関連TMA | 悪性リンパ腫,胃がん,膵がんなどに多い | ||
妊娠 | 妊娠関連TMA,HELLP症候群 | HELLP症候群は妊娠30週以降に発症し,高血圧を合併することが多い. | ||
薬剤(マイトマイシンなど) | 薬剤性TMA | 薬剤使用歴 | ||
その他のTMA | 病因不明 | その他 | TTP類縁疾患,他 | TTPの古典的5徴候の存在,など |
TMA:thrombotic microangiopathy,TTP:thrombotic thrombocytopenic purpura,HUS:hemolytic uremic syndrome,SLE:systemic lupus erythematosus,THBD:thrombomodulin,HELLP症候群:hemolysis, elevated liver enzymes, and low platelets症候群.
(文献7より引用)
TMAの診断についてTTP診療ガイド2017で示されている過程を概説する(図1).原因不明の溶血性貧血と血小板減少を認めた場合にTMAを疑い,STECとADAMTS13を検査する.STECが陽性であればSTEC-HUSである.ただし,このアルゴリズムには記載されていないが,TMAの診断の前にDICを否定する必要がある.前述のようにTMAとDICの鑑別は困難な場合があり,ADAMTS13活性測定が2018年年4月から保険適応となったことから,診断に迷う場合はADAMTS13の検査を行うことで,比較的早期にTTPを診断できるようになった.
ADAMTS13活性が10%未満であればTTPであり,ADAMTS13に対するインヒビターを検査する.この検査も2018年4月から保険適応になっている.インヒビターが陰性であれば先天性TTPが,陽性であれば後天性TTPが疑われる.後天性TTPの定義として「ADAMTS13に対する自己抗体によってADAMTS13活性が著減する」ことであるが,自己抗体にはADAMTS13活性を阻害するもの(インヒビター)と活性を阻害しない結合抗体が存在する.インヒビターの判定の際には,陰性であっても結合抗体の場合があること,低値のインヒビターは偽陽性である可能性があることに注意を要する.
TTPとSTEC-HUSの診断は上記のように比較的簡単であるが,それ以外のTMAの鑑別診断は現状では困難な場合が多い.このような疾患を全てaHUSと診断して大きな混乱となったが,現状ではaHUSは補体関連TMAであることが広く知られるようになった.STEC陰性でADAMTS13活性が10%以上の症例では,表1に記載したような基礎疾患や状態があれば,二次性TMAと診断する.注意すべきは,腎臓移植後や妊娠関連TMAにaHUSが含まれることがあるので,慎重に鑑別する必要がある.現状ではaHUSに特異的な診断所見は無く,補体C3,C4,抗H因子抗体,溶血アッセイなどが診断のために検査されているが,様々な所見によって臨床診断される.最終的に表1に記載したような補体因子の遺伝子解析によって,aHUSは確定診断されているが,臨床的にaHUSと診断された症例でも,遺伝子異常を認めない症例も少なからず存在する.
図1にはTMAの治療法も記載されているが,以前のTMA治療法は,新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma: FFP)輸注やFFPを用いた血漿交換などの血漿療法しか選択肢がなかったため,細かなTMAの分類が治療に直結しなかった.最近では,aHUSに対するエクリズマブや,リツキシマブが後天性TTPに対して適応拡大となるなど,疾患特異的な治療法がすでに使用可能である.さらに先天性TTPに対する遺伝子組換ADAMTS13製剤や後天性TTPに対するカプラシズマブなどの治験が進行中であり,病因による診断が治療に結びつく時代となっている.
本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし.