日本血栓止血学会誌
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特集:血友病のNon-factor replacement therapy
血友病治療におけるnon-factor製剤の位置付け
酒井 道生
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2022 年 33 巻 1 号 p. 37-44

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Abstract

ここ最近の血友病治療薬の進歩は目覚ましい.半減期延長型製剤が次々と使用可能となり,non-factor製剤として初めてemicizumabが承認された.それらの開発を受け,凝固因子活性のトラフ値1%以上を目安としていた従来の定期補充療法は見直しを図られている.Non-factor製剤は,これまでの血友病治療で課題とされていた,頻回の投与,静脈注射のための血管確保,インヒビターといった問題を軽減もしくは解消し,さらに,高い出血抑制効果も実証した.現在使用可能なnon-factor製剤はemicizumabのみであるが,その定期投与は,インヒビター保有血友病A患者では推奨される治療法であり,また,インヒビター非保有血友病A患者でも,活動性や血友病性関節症を評価した上で,考慮すべき治療選択肢として位置付けられる.今後は,血友病Bにも使用できるsiRNA-ATIIIや抗TFPI抗体の実用化にも期待される.

1.はじめに

医療全般に通じることであるが,血友病領域においてもここ最近の治療法の進歩は目覚ましい.図1に,血友病治療製剤の開発状況の概略を示す.とくに2014年以降は,半減期延長型製剤やnon-factor製剤が次々と実臨床で使用可能となっている.また,製剤の開発と併せて,1983年から在宅自己注射療法が認可され,2000年頃から徐々に定期補充療法が標準的治療として普及したことも,血友病の診療環境を大きく底上げした.さらには,遺伝子治療14も絵空事ではなく,近い将来には現実的な選択肢として利用可能になると期待される.そのような中で,本稿では,現在の血友病治療において,non-factor製剤がどのような位置付けにあるのかを考えてみたい.なお,現時点では,non-factor製剤として使用可能なのは,二相性抗体である抗血液凝固第IXa/X因子ヒト化二重特異性モノクローナル抗体(bispecific antibody to FIXa/FIX and FX/FXa: emicizumab)1剤のみであるが,現在治験中の,いわゆるrebalance治療薬である,siRNA-ATIII(siRNA targeting antithrombin: fitusiran)5と抗TFPI抗体(anti-tissue factor pathway inhibitor antibody: concizumab)6にも少し触れてみたい.

図1

血友病治療製剤の開発状況

バイパス止血製剤に関する記載は割愛した

2.患者アンケート調査結果からみた血友病診療の現状

まずは,患者側からみた血友病診療の現状を,「血友病患者のQOLに関する研究」令和2年度調査報告書7で確認してみる.今回は,コロナ禍の影響もあり,インターネットを利用したアンケート調査形式となっており,回答数が396件とこれまでと比較して少なかったが,概ね血友病患者の考えを反映しているものと理解している.まず,図2に使用製剤の種類を示す(ここでの呼称の表記法は報告書の記載通りとした).2種類以上使用している患者もいるが,46人が血漿由来製剤(PD),131人が標準型血液製剤(SHL),189人が半減期延長製剤(EHL),83人がnon-factor製剤を使用していた.また,インヒビター保有血友病A患者でのnon-factor製剤の使用率は93.8%と高率であったが,インヒビター非保有重症血友病A患者でも23.7%がnon-factor製剤を使用していた.

図2

使用製剤の種類

文献7)から引用

次に,現在の血友病治療に対する満足度をみてみる.実際には,①現在の注射方法に対する満足度,②現在の注射頻度に対する満足度,③自宅生活における負担軽減効果,④社会生活での負担軽減効果,⑤移動時の負担軽減効果,⑥趣味・スポーツ参加の負担軽減効果,⑦その他の行事に関する負担軽減効果,⑧血友病であることの心理的負担軽減効果,の8項目について質問しているが,そのうちの②,③,⑤の結果を図3に示す.インヒビター保有血友病A患者での満足度が高いことが印象的である.この結果は,調査時点における一断面の評価というよりは,過去の状況から現在の状況がどのように変化したかといったことも反映している評価結果と推測する.恐らくは,バイパス止血製剤での出血時治療が主であった止血管理が不安定な状況から,non-factor製剤の定期投与で安定した出血抑制が可能となったことへの変化が,この結果に大きく影響しているものと感じられる.そのため,non-factor製剤の使用できないインヒビター保有血友病B患者では,全般的に満足度が低い結果になったものと思われる.

図3

現在受けている治療についての各項目における満足度調査

文献7)から引用

一方,遺伝子治療に対する希望も調査されており,図4に示す通り,「希望する」が32%で,「希望しない」の19%よりは多いものの,「分からない」が49%と約半数を占めており,まだまだ身近な治療とは感じられていないという結果であった.

図4

遺伝子治療に対する希望調査

文献7)から引用

以上をまとめると,インヒビター非保有血友病A患者でも,約1/4がnon-factor製剤を使用していることが分かり,また,non-factor製剤はインヒビター保有血友病A患者のQOL改善に大きく寄与していることが推測された.

3.止血管理目標の動向

次に,血友病の止血管理目標の動向を見直してみる.現在では標準的治療とされる定期補充療法であるが,前方視的研究でその有用性が実証されたのは,2007年のManco-Johnsonらの報告(Joint Outcome Study: JOS)8が初めてである.その報告では,登録時2歳未満の小児を対象に,定期補充療法を早期に開始した群(早期開始群)と遅延して開始した群(遅延開始群)の2群に分け,6歳時の関節の状態をMRI検査で比較した.健常な関節が保たれていたのは,前者が93%に対し,後者は55%と有意差を認め,定期補充療法の早期開始が推奨される土台となった.しかし,2020年にその追跡調査結果(Joint Outcome Continuation Study: JOS-C)9が報告され,18歳時のMRI検査での関節評価で,関節症を認めたのは,早期開始群35%に対し,遅延開始群77%であった.統計学的有意差は認められたものの,早期開始群でも比較的高率に関節症がみられたことから,関節症の発症防止には従来の定期補充療法では不十分なことが示唆された.ここでいう従来の定期補充療法とは,血友病Aであれば,標準型製剤で1回投与量25~40単位/kgを週3回もしくは隔日投与し,トラフ値を概ね1%以上に維持することを想定する.

この課題に挑戦しうる治療選択肢として,半減期延長型製剤が登場した.それでは,どの程度のトラフ値が必要であろうか.この点に関しては,den Uijlらの報告10が衆目を集めた.この報告は,元々は,1950年代に決められた血友病の重症度評価(重症/中等症/軽症)の妥当性を検証することが主眼であった.対象は血友病Aのみであるが,ベースとなる凝固因子活性と年間の関節出血回数の関係をみたところ,図5の通り,明らかな相関はみられるものの単純な直線関係ではなく,凝固因子活性3%前後および12%前後で,相関線の傾きが大きく変わることが分かった.つまり,ベースラインの凝固因子活性が3%を超えると出血回数はかなり少なくなり,12%を超えるとほとんど出血がみられなくなる,というメッセージを残した.なお,12%を超えるとほとんど出血しないという点に関しては,その後,Valentinoら11やSoucuieら12が追視的検証を行い,凝固因子活性12%では出血ゼロの達成は困難で,凝固因子活性20%以上もしくは30%以上が必要であると,彼らは報告している.

図5

第VIII因子活性と年間関節出血回数

文献10)から引用

そこでまずは,比較的安全域ということで,従来のトラフ値1%以上から,3~5%以上へ目標変更という機運が高まった.実際に,半減期延長型製剤の登場により,それは実現可能な目標となった.一方,凝固因子活性20%以上もしくは30%以上の時間帯が安全域であるという提唱もなされ,やはり半減期延長型製剤の使用により,そういった時間帯の延長も可能となった.このように,トラフ値のみではなく,ピーク値,さらには,area under the curve(AUC)をも加味した薬物動態評価も重要視されるようになってきており,それに併せて少ない採血回数で個々の薬物動態を評価可能な統計ツールの開発も進んでいる.

4.Non-factor製剤の位置付けと今後への期待

以上のような現状を踏まえ,血友病治療におけるnon-factor製剤の位置付けについて触れてみたい.

Emicizumab,siRNA-ATIII,抗TFPI抗体の特徴を表1にまとめた13, 14.なお,それぞれの有効性,安全性,モニタリング法等の詳細に関しては個々の別章を参照されたい.

表1 Non-factor製剤
Emicizumab siRNA-ATIII: Fitusiran Anti-TFPI: Concizumab
作用機序 二相性抗体で第VIII因子を代替 ATIIIの産生抑制
→ 抗凝固能を抑制し,凝固能を促進
TFPIを抗体で阻害
→ 抗凝固能を抑制し,凝固能を促進
対象疾患 インヒビター保有/非保有血友病A インヒビター保有/非保有血友病A/B インヒビター保有/非保有血友病A/B
投与経路 皮下注射 皮下注射 皮下注射
モニタリング aPTT
トロンビン生成能等
ATIII
トロンビン生成能
Free TFPI
トロンビン生成能
承認状況 2018年に承認 治験中 治験中

これまで血友病患者が抱えてきた問題点としては,出血に対する不安や血友病性関節症以外に,頻回の投与,静脈注射のための血管確保,インヒビター等が挙げられる.上記のnon-factor製剤はいずれも,長時間間作用型,皮下注射製剤,インヒビターの有無に関わらず効果あり,といったこれまでの問題点を軽減もしくは解消できる特徴がある.また,emicizumabは血友病Aのみに有効であるが,siRNA-ATIIIと抗TFPI抗体は血友病Bにも効果を有する.但し,いずれの製剤も出血予防薬であり,出血時治療としては使用できないため,出血時治療薬は別途用意しておく必要がある.

ここからは,少し具体的に述べてみたい.現在使用可能なnon-factor製剤は,emicizumab1剤のみであり,emicizumabを念頭に考えてみる.Emicizumabは,1週に1回,2週に1回,4週に1回の投与が可能で,投与方法も皮下注射である.出血抑制効果に関しても,動物実験の結果から,第VIII因子活性として15~20%に相当する止血能を有するという報告がある.また,5年以上の長期間に及ぶ観察研究でも,年間出血回数が1回程度と非常に良好な成績が報告されている15, 16.その使用方法に関する提案として参考になるものとして,日本血栓止血学会17と世界血友病連盟18からの報告を引用する.表2に,日本血栓止血学会から出された報告を示す.また,世界血友病連盟(WFH)から2020年に出された血友病治療に関するガイドラインの中では,「インヒビター保有の血友病A患者には,emicizumabの定期投与を推奨する.」,「インヒビター非保有の血友病A患者には,emicizumabを使用可能である.」と記載されている.どちらの報告でも,emicizumabは十分選択可能な定期治療薬/予防治療薬と理解できる.den Uijlらの報告10に従って,第VIII因子活性12%以上であればほとんど出血しないと考えれば,emicizumabにより「血友病free」の状態が期待される.一方,安全域は第VIII因子活性が20%以上もしくは30%以上と考えれば,emicizumabのみでは,軽症化は図れても,「with血友病」は解消されないと考えられる.どちらの状態になるかは,患者の活動性,血友病性関節症の状態等にも左右され,その見通しの基準を明確に示すことは現時点ではまだ難しいように思われる.

表2 ヘムライブラ®(エミシズマブ)使用について
・CQ.ヘライブラは全てのインヒビター保有血友病Aに推奨されるか?(推奨度とグレード)
 ヘムライブラは全てのインヒビター保有血友病Aに推奨する.(1B)
・CQ.ヘムライブラは乳幼児を除く全てのインヒビター非保有重症血友病Aに推奨されるか?
 ヘムライブラは乳幼児を除く全てのインヒビター非保有重症血友病Aにおいて,活動性の高さや標的関節の有無を考慮した上で,FVIII製剤の定期補充療法よりも有益性が見込まれる場合に提案する.(2B)
・FQ.乳幼児のインヒビター非保有血友病Aにヘムライブラは推奨されるか?
 乳幼児における出血予防療法は必要であることが示唆され,静脈注射が困難かつ出血症状を認めていない症例(出血症状がある場合はまずFVIII製剤による止血治療を優先させる)において,ヘムライブラ導入も選択肢の一つと考えられる.

文献17)から引用

* CQ: Clinical Question, FQ: Future research Question

ここから少し,non-factor製剤に対するさらなる期待として,血友病性関節症や頭蓋内出血の発症防止効果に対する個人的な夢想を述べてみたい.但し,その前提として,有効性および安全性に関する十分な検証が必要であり,やや前のめりの考え方かもしれないので,少し懐疑的に読んで頂きたい.

まず,血友病性関節症に関しては,先述したJOS8およびJOS-C9の結果から考えると,これまでの定期補充療法では十分にその発症を抑制できていなかった.半減期延長型製剤の登場により,定期補充療法のより早期からの開始も可能となり,薬物動態的にも出血予防効果の改善が見込まれるが,やはり血管確保やインヒビターに対する問題は残る.Non-factor製剤ではそれらの問題が解消される.そして,より早期からのnon-factor製剤の定期投与開始により血友病性関節症の発症がさらに抑制できないか,期待が持たれる.

次に,頭蓋内出血に関しては,一旦発症すると,死亡率は高く,死亡を免れたとしても高率に後遺症を残すため,いまだ重大な問題である.血友病での新生児期(生後28日以内)の頭蓋内出血発症率は3.5%程度と報告されている19.勿論,帝王切開を選択することや吸引分娩を避けることで発症率を低減することは可能と思われるが,新生児期がリスクの高い時期であることには疑いがないと思われる.また,疾患は異なるが,2015~2017年の3年間を対象とした全国調査20で,新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症として頭蓋内出血13例が確認され,ほとんどが基礎疾患として肝胆道系疾患を有していたが,発症時期は乳児期早期ばかりであった.やはり,出血傾向のある場合,新生児期から乳児期早期は頭蓋内出血の発症リスクの高い時期と言えるであろう.そのため,non-factor製剤を用いて,この時期の頭蓋内出血を予防するという戦略はいかがであろうか.

5.新たな問題点

Non-factor製剤の登場により,良好な止血管理が可能となった反面,新たな問題点も浮かび上がってきた.まず,血友病Aでのインヒビター陽性の場合の対応に触れたい.インヒビターが存在しても,良好な止血管理が可能となった.そのため,成功率も60~70%程度であり,その遂行には多大な身体的・精神的な負担を要する免疫寛容導入療法(immune tolerance induction therapy: ITI)が躊躇される症例も増えていると予想される.しかし,多くのインヒビター保有症例では,一定期間,血液凝固第VIII因子(凝固因子)への暴露を避けると,インヒビター値は低下し,凝固因子製剤が再度使用可能となるが,中にはインヒビター値が低力価まで下がらず,重大出血時や手術時に凝固因子製剤が使用できない場合もある.また,将来的に遺伝子治療が可能となった場合に,インヒビターの残存はその障壁となるかもしれない.さらに,インヒビター発現後,より早期のITI導入がその成功率を高めるという報告もある.その他,non-factor製剤併用下でのITI施行は,安全性が担保されれば,ITI単独よりも出血への対応負担が軽減すると期待される.以上を鑑みて,インヒビター保有患者に対するITIの適応を慎重に再検討する必要がある.

また,インヒビター発生の点から考えると,そのリスク要因としては,遺伝子変異タイプ,インヒビターの家族歴,手術や重大出血時の集中治療等が挙げられていた.その一方,凝固因子に暴露される年齢の影響は不明確である.新生児期や乳児期早期からの暴露はリスク要因になるのか,ある一定年齢を超えてからの暴露はリスク要因になるのか,明らかになっていない点も多い.

さらには,第VIII因子には,止血能以外の役割として,骨代謝や血管新生等に関わっているという報告も出ている21.今後は,第IX因子関しても,そういった面から何らかの報告が出る可能性がある.以上のことを考えると,non-factor製剤で治療を開始した場合に,出血がなければまったく凝固因子製剤を使用しなくて良いのかという問題も生じてくる.難しい問題ではあるが,こちらも今後の検討課題であろう.

6.おわりに

Non-factor製剤の登場により,血友病治療の選択肢が増え,とくにインヒビター保有血友病患者には間違いなく多大なる恩恵をもたらした.その一方で,インヒビター非保有患者では,個々に応じた治療選択といった,嬉しいとともに難しい選択の必要性も生じさせた.さらには,現在の半減期延長型第VIII製剤の半減期は標準型第VIII因子製剤の1.5倍程度であるが,開発中のrFVIIIFc-VWF-XTEN(BIVV001:第VIII因子にvon Willebrand因子(VWF)の機能ドメインを共有結合させ,さらにFcドメイン,XTENポリペプチドを融合させた製剤)22は,半減期が標準型第FVIII因子製剤の約4倍であり,静脈注射薬ではあるものの,第VIII因子製剤ということで新たな有望な治療選択肢として登場することが予想される.今後,より製剤選択に悩むことが出てくるかもしれない.そういった状況を考えると,杞憂に過ぎなければ良いが,希少疾患であるがゆえに患者の置かれた環境によっては,十分な情報が伝えられず適切な治療選択を提供できないということが起こらないかも心配される.そのためにも,患者に平等で公平な医療を提供できる医療連携システムの構築も,並行して推進すべき重要な課題であろう.

著者の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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