日本血栓止血学会誌
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33 巻, 1 号
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年頭のごあいさつ
Editorial
特集:血友病のNon-factor replacement therapy
  • 荻原 建一, 野上 恵嗣
    原稿種別: 特集:血友病のNon-factor replacement therapy
    2022 年33 巻1 号 p. 4-13
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/25
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    遺伝子組換えヒト化二重特異性モノクローナル抗体emicizumabは,一方でFIX/FIXaのEGF1ドメインを,他方でFX/FXaのEGF2ドメインを認識する.この結合特性をもって特異的生理機能であるFVIIIa機能(FIXaによるFX活性化の促進)を代替させるという画期的かつ高難度の課題は,多くの技術革新によって成就した.FIX/FIXaおよびFX/FXaに対するemicizumabの結合解離定数はμMレベルであり,通常の抗体製剤のpM~nMレベルと比べ,その結合親和性は弱い.この ‘強すぎない’ 適度な親和性によって,臨床使用下では血漿中FIXおよびFXのうちFIX-Emicizumab-FXを形成するものは概ね1%未満にとどまる.血漿中三量体濃度は,emicizumabの等価FVIII活性と相関し,止血の場における酵素-補因子-基質複合体FIXa-Emicizumab-FXの形成量を反映すると推察される.EmicizumabとFVIIIaの相違点の理解は,実臨床におけるemicizumabの有効性と安全性に関する様々な事象の解釈に有用である.

  • 近澤 悠志, 山口 知子, 天野 景裕
    原稿種別: 特集:血友病のNon-factor replacement therapy
    2022 年33 巻1 号 p. 14-22
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/25
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    2020年度の凝固異常症全国調査では,本邦の血友病A患者におけるemicizumabの使用率は約8%と推計され,その使用は増えている.そこで東京医大病院における42例のemicizumab導入症例(インヒビター保有:4例,非保有:38例)を後方視的に解析した.インヒビター保有群,非保有群の両者でemicizumab導入後の年間出血回数の中央値は共に1であり,出血抑制効果が確認された.また,全例について大関節(肘・膝・足)のArnold分類Stage IV以上の関節症を評価したところ,平均で2.3±2.0ヵ所の関節症を有しており,特に足関節の関節症は31例(73.8%)にみられた.関節症を有してもemicizumab導入後に良好な出血抑制効果が得られる可能性が示唆された一方で,導入前に出血回数が多く導入後に十分な臨床効果がみられなかった症例も存在し,導入前に関節を含めた十分な評価が望ましいと思われた.ここではこれらの知見を含み,emicizumabのリアルワールドデータについて述べる.

  • 鈴木 伸明
    原稿種別: 特集:血友病のNon-factor replacement therapy
    2022 年33 巻1 号 p. 23-30
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/25
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    血友病治療にRebalancing therapyという新しい治療概念が登場した.これは凝固と抗凝固のバランスを調整することにより,出血傾向を是正しようというものであり,抗Tissue factor pathway inhibitor(TFPI)薬はその代表的なものである.現在,開発が進む抗TFPI薬の多くは,TFPIのK2ドメインをメインターゲットにした抗TFPI抗体で,TFPIのFXaとTF/FVIIa複合体への不活化反応を阻害することにより,止血能の改善を図る.スパイク試験や動物実験,さらにはヒトにおける臨床試験の結果から,抗TFPI抗体の投与により,遊離TFPIが減少し,その結果,トロンビン生成能の回復につながっていることが示され,これが主な薬効であると考えられている.臨床的な出血抑制効果は,Concizumabの第二相試験では,既存血友病治療と遜色のない治療効果が示され,有害事象としても,目立ったものは見られていない.過去には開発途中で中止となった薬剤もある抗TFPI薬であるが,いよいよ実用化が近づいている.

  • 澤田 暁宏
    原稿種別: 特集:血友病のNon-factor replacement therapy
    2022 年33 巻1 号 p. 31-36
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/25
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    アンチトロンビン(antithrombin)-small interference RNA(AT-siRNA)は,RNA干渉により肝臓でのAT産生を阻害し,血液を過凝固にrebalanceする事で血友病の出血傾向を抑制する新規のnon-factor製剤である.血友病治療は,血友病性関節症を回避する為の凝固因子製剤の定期補充療法がいまだ標準的治療であるが,定期補充療法は頻回の静脈穿刺がQuality of Life(QOL)低下の要因となる.AT-siRNA製剤のFitusiranは,月1回皮下投与の製剤であり,従来の定期補充療法における頻回の静脈穿刺によるQOL低下を改善できる可能性がある.また,血友病AまたはB,インヒビターの有無を問わず効果を発揮できる.本稿では,現在臨床試験が進行中のFitusiranに関して,第1/2相試験の結果を中心に概説する.

  • 酒井 道生
    原稿種別: 特集:血友病のNon-factor replacement therapy
    2022 年33 巻1 号 p. 37-44
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/25
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    ここ最近の血友病治療薬の進歩は目覚ましい.半減期延長型製剤が次々と使用可能となり,non-factor製剤として初めてemicizumabが承認された.それらの開発を受け,凝固因子活性のトラフ値1%以上を目安としていた従来の定期補充療法は見直しを図られている.Non-factor製剤は,これまでの血友病治療で課題とされていた,頻回の投与,静脈注射のための血管確保,インヒビターといった問題を軽減もしくは解消し,さらに,高い出血抑制効果も実証した.現在使用可能なnon-factor製剤はemicizumabのみであるが,その定期投与は,インヒビター保有血友病A患者では推奨される治療法であり,また,インヒビター非保有血友病A患者でも,活動性や血友病性関節症を評価した上で,考慮すべき治療選択肢として位置付けられる.今後は,血友病Bにも使用できるsiRNA-ATIIIや抗TFPI抗体の実用化にも期待される.

総説
  • 野上 恵嗣
    原稿種別: 総説
    2022 年33 巻1 号 p. 45-52
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/25
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    血友病およびvon Willebrand病以外の先天性凝固因子障害症を希少出血性疾患(Rare bleeding disorders: RBD)と総称する.わが国におけるRBDは先天性第VII因子欠乏・低下/異常症が最も多く,次いで先天性フィブリノゲン欠乏・低下/異常症である.診断は血友病と同様に,詳細な病歴や家族歴を聴取し,出血症状を把握し,凝固スクリーニング検査と混合補正試験(クロスミキシング試験)を行い,最終的に各凝固因子の活性値や抗原量を測定して診断される.その際に後天性凝固因子インヒビターやループスアンチコアグラントの除外などが必要である.臨床症状は欠損する凝固因子によって様々であり,症状の程度は活性値と相関する凝固因子もあれば,そうでない凝固因子もあることも注意を要する.出血時や観血的手技や手術などの止血管理には,欠乏凝固因子を補充するために血液凝固因子製剤や新鮮凍結血漿による補充療法が行われる.本病態は臨床上極めて稀ではあるが,出血傾向を認める際での診断時には必ず考慮すべきである.

トピックス 新型コロナウイルス関連シリーズ
原著
  • 藤井 輝久, 野上 恵嗣, 嶋 緑倫, 寺山 浩美, 清水 文比古, 瀧 正志
    原稿種別: 原著
    2022 年33 巻1 号 p. 60-68
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/25
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    Albutrepenonacog alfaは半減期の延長,投与回数の減少を目的に開発された遺伝子組換え血液凝固第IX因子アルブミン融合タンパク質製剤で,本邦で2016年に承認された.本論文は,本剤の投与を受けた血友病B患者を対象とした使用成績調査の4年時の中間報告である.安全性解析対象(68名)における観察期間中の本剤の使用理由(重複あり)は,定期補充療法が64名,出血時補充が27名,周術期止血管理が5名,その他が13名であった.5名8件の周術期止血管理に本剤が使用されたが,8件中6件の周術期投与では1回の投与で止血可能であった.観察期間中に新たな安全性の懸念は認められなかった.6か月以上本剤による定期補充療法を継続した定期補充療法有効性解析対象(41名)では,定期補充療法開始後6か月時点の全出血回数中央値は0回で,同時点で24名(58.5%)が7日間隔で投与を受けていた.

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