2022 年 33 巻 1 号 p. 4-13
遺伝子組換えヒト化二重特異性モノクローナル抗体emicizumabは,一方でFIX/FIXaのEGF1ドメインを,他方でFX/FXaのEGF2ドメインを認識する.この結合特性をもって特異的生理機能であるFVIIIa機能(FIXaによるFX活性化の促進)を代替させるという画期的かつ高難度の課題は,多くの技術革新によって成就した.FIX/FIXaおよびFX/FXaに対するemicizumabの結合解離定数はμMレベルであり,通常の抗体製剤のpM~nMレベルと比べ,その結合親和性は弱い.この ‘強すぎない’ 適度な親和性によって,臨床使用下では血漿中FIXおよびFXのうちFIX-Emicizumab-FXを形成するものは概ね1%未満にとどまる.血漿中三量体濃度は,emicizumabの等価FVIII活性と相関し,止血の場における酵素-補因子-基質複合体FIXa-Emicizumab-FXの形成量を反映すると推察される.EmicizumabとFVIIIaの相違点の理解は,実臨床におけるemicizumabの有効性と安全性に関する様々な事象の解釈に有用である.