日本血栓止血学会誌
Online ISSN : 1880-8808
Print ISSN : 0915-7441
ISSN-L : 0915-7441
トピックス 新型コロナウイルス関連シリーズ
新型コロナウイルス感染症と脳卒中
平野 照之
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 33 巻 1 号 p. 57-59

詳細

はじめに

新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID-19)と脳卒中に関する知見を総括する.

1.脳卒中とCOVID-19との関係

2020年9月までの61論文のメタ解析1では,COVID-19入院患者の脳卒中発症率は1.4%(95%信頼区間[CI]1.0~1.9)と推計されている.発症率には地域差があり,日本脳卒中学会の調査では0.024%(2021年6月3日時点の中間報告)と極めて低い.感染症は一般に脳卒中発症リスクを高め,インフルエンザでは健常者に比し脳卒中リスクを2.9(95%CI 1.8~4.4)倍に高める.COVID-19では対インフルエンザ比で7.7(95%CI 2.3~25.2)倍にも及ぶ2

心血管危険因子として高血圧(オッズ比[OR]7.35,95%CI 1.94~27.87),糖尿病(5.56,3.34~9.24),冠動脈疾患(3.12,1.61~6.02)が関連する.集中治療を要するCOVID-19重症例も,軽症・中等症例より発症率が高い(5.10,2.72~9.54).脳卒中発症者の多くは高齢であり,非発症者と比べ中央値で4.8歳(95%CI 1.7~22.4)の差がある1.一方,血管危険因子のない若年者に大血管閉塞型の重症脳梗塞を発症することもある3

2.COVID-19患者に合併する脳卒中の特徴

脳卒中発症時点で84.1%は呼吸器症状を有し1,脳卒中が先行することは少ない.呼吸器症状出現から脳卒中発症までの期間は平均8.8日で,多くは21日以内である1, 2.病型は,脳梗塞が87.4%を占め,脳出血11.6%,脳静脈血栓症0.5%,一過性脳虚血発作0.1%である(図11

図1

COVID-19に合併する脳卒中

脳卒中および脳梗塞の病型別頻度を示す.脳梗塞がほとんどであり,内訳で最も多いのが潜因性脳卒中(多くは塞栓源不明脳塞栓症)で44.7%を占める(著者作成).ESUS: embolic stroke of undetermined source.

脳卒中は重症である.16ヵ国26施設からなるGlobal COVID-19 Stroke Registryに登録された174例(平均71.2歳,女性37.9%)のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコアの中央値は10(四分範囲4~18)であった4.傾向スコアマッチ法で抽出したAcute Stroke Registry and Analysis of Lausanne登録例と比較してみると,NIHSSスコアは高く(10 vs. 8, OR 1.69, P=0.03),重度後遺障害や死亡に至る例も多かった.

脳梗塞の病巣は多血管領域におよび5,画像検査で時期の異なる急性・亜急性病変が散見される6.臨床病型では潜因性脳梗塞(cryptogenic stroke)が44.7%と最も多く1,塞栓源不明脳塞栓症(embolic stroke of undetermined source: ESUS)7が大部分を占める.心原性脳塞栓症が21.9%,アテローム血栓性脳梗塞が10.6%と続き,ラクナ梗塞は3.3%と少ない1

脳出血は,脳葉型の皮質下出血が半数を占める(49.2%)1, 8.高血圧や抗凝固薬の影響が指摘されるほか,低酸素血症により皮質直下や脳梁に生じた脳微小出血も関与する9

3.COVID-19患者に生じる脳卒中の発症機序

1)血液凝固異常

COVID-19では血液凝固異常が高頻度に見られ,COVID-19 associated coagulopathyと称される10.血液検査ではDダイマーやフィブリノゲンが高値を示す11.抗リン脂質抗体症候群として,動脈にも静脈にも血栓を生じることもある.

2)血管内皮機能障害

SARS-CoV-2がACE2を介して血管内皮細胞に感染し,血管拡張や抗炎症機能が阻害されるとともに,血小板粘着・凝集を促進する12.COVID-19の肺胞傷害から低酸素血症に加え,主要臓器の栄養血管損傷が生じることで,交感神経過緊張状態から血圧は上昇し,血液脳関門も機能不全に至る.

3)心筋傷害

ウイルス性心筋炎,サイトカイン・ダメージ,低酸素で生じた虚血など,種々の要因で心筋が傷害される13.これらで生じた不整脈,あるいは直接の心筋ダメージによって心内血栓が形成され,血栓塞栓症を発症する.

おわりに

COVID-19は患者個人を危険に晒すだけでなく,脳卒中救急を含む医療体制にも甚大な影響を及ぼす.いわゆるコロナ禍に生じる医療崩壊の問題である.紙面の関係で詳細は割愛するが,感染対策を徹底した上で高い専門医療の提供体制を両立していく必要がある.

著者の利益相反(COI)の開示:

講演料・原稿料など(第一三共,バイエル,ファイザー,日本ベーリンガーインゲルハイム)

文献
 
© 2022 日本血栓止血学会

この記事はクリエイティブ・コモンズ[表示 - 非営利 - 継承4.0国際]ライセンスの下に提供されています.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/4.0/deed.ja
feedback
Top