日本血栓止血学会誌
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特集:DIC Up To Date
細胞死と播種性血管内凝固―最近の基礎研究の動向―
伊藤 隆史
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2022 年 33 巻 5 号 p. 520-525

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Abstract

感染と組織損傷は炎症を惹起する二大要因である.炎症を惹起する過程においては,死細胞から放出される生理活性物質(damage-associated molecular patterns: DAMPs)が重要な役割を果たしている.DAMPsは生理的な炎症反応,免疫反応,組織修復反応に関わる一方で,慢性炎症,自己免疫疾患,さらには劇症型の急性炎症性疾患や播種性血管内凝固の病態にも深く関わっている.近年,細胞死の制御機構やDAMPsの放出機構が詳細に明らかになってきていて,これらを標的とした新規治療法によって前述の病態を軽減できるのではないかと期待が高まっている.本稿では,細胞死,DAMPsの放出,DAMPsの作用に関する最近の国内外の基礎研究の動向を概説し,炎症性疾患や播種性血管内凝固の病態を考察していきたい.

1.はじめに

アポトーシス(apoptosis)という用語は1972年に初めて登場し,その形態学的特徴から,ネクローシス(necrosis)と区別されるようになった.細胞死は制御された細胞死(regulated cell death)とアクシデントによって引き起こされる細胞死(accidental cell death)に大別されるが,アポトーシスは制御された細胞死の代表として,ネクローシスはアクシデントによる細胞死の代表として理解されるようになった.1990年代になると,アポトーシスの制御機構が徐々に明らかになってきた.2000年代になると,制御された細胞死でありながらネクローシスに近い形態を示すような細胞死が報告されるようになった.ネクロトーシス(necroptosis),パイロトーシス(pyroptosis),ネトーシス(NETosis)などがこれに該当し,それぞれの制御機構も明らかになってきた.細胞死が周囲へ及ぼす影響に着目すると,アポトーシスの場合は,細胞膜が保持されたまま貪食細胞に取り込まれ,周囲への影響を最小限にとどめるのに対し,ネクロトーシス,パイロトーシス,ネクローシスなどの場合は,細胞膜の破綻に伴って細胞内容物が細胞外に放出され,周囲の細胞を活性化するような死に方をする(図1).このような細胞死が血管内で生じると,周囲への影響の一つとして,血液凝固系の活性化が誘導され,制御不能な場合には播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation)へと進展していく.

図1

細胞死の分類

アポトーシスは制御された細胞死であり,細胞膜の破綻を伴わないサイレントな細胞死である.パイロトーシスやネクロトーシスは制御された細胞死でありながら,細胞膜の破綻を伴い,周囲の細胞を活性化する.ネクローシスはアクシデントによる細胞死で,細胞膜の破綻を伴い,周囲の細胞を活性化する.細胞膜の破綻に伴い,high mobility group box 1(HMGB1)やATPなどのdamage-associated molecular patterns(DAMPs)が放出されると,DAMPsは周囲の細胞のパターン認識受容体に作用して炎症・免疫反応のプログラムを立ち上げる.

2.アポトーシスとエフェロサイトーシス

我々の体の中では,およそ37兆個の細胞が働いていて,その約0.4%にあたる1,500億個の細胞が日々入れ替わっている.この新陳代謝の過程で,不要になった細胞は主にアポトーシスによって取り除かれる.例えば,リンパ球の発生過程において,その細胞表面受容体はランダムに編成されるため,自己抗原に反応するリンパ球も作られるが,そのような自己反応性リンパ球はアポトーシスによって排除される.活性化した免疫細胞も,多くの場合,その任務を終えるとアポトーシスによって除去される.アポトーシス細胞が細胞膜の破綻を伴わずにサイレントな細胞死を完遂するには,周囲の細胞によって速やかに貪食されることが重要である1.このプロセスはエフェロサイトーシス(efferocytosis)と呼ばれ,エフェロサイトーシスが遅れると,アポトーシス細胞は二次性ネクローシスという状態に陥り,細胞膜の破綻と周囲の細胞の活性化を引き起こす2.このことは,自己免疫疾患の病態にも深く関係している.

エフェロサイトーシスを遅滞なく執行してもらうために,アポトーシス細胞は “find me” シグナルや “eat me” シグナルを出して自分が貪食対象であることを表明する3.このfind meシグナルの代表的なものとしてアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate: ATP)やウリジン三リン酸(uridine triphosphate: UTP)などがあり,貪食細胞はP2Y2受容体を介してこれらのヌクレオチドを認識し,アポトーシス細胞に近づいてくる.貪食対象であることの同定はeat meシグナルによってなされるが,その代表的なものとしてホスファチジルセリンが知られている.通常,ホスファチジルセリンは細胞膜の脂質二重層の内側に配置されているが,アポトーシスの過程でカスパーゼの作用によってフリッパーゼが失活するとホスファチジルセリンが外側に表出するようになり,マクロファージはこれを目印に貪食を進める4.エフェロサイトーシスはinterleukin‑10(IL‑10)やtransforming growth factor-β(TGFβ)などの抗炎症性サイトカイン産生を誘導するため,サイレントな細胞死を遂げることができる.健常な細胞はCD47などの “don’t eat me” シグナルを出して自分が貪食対象でないことを表明し,マクロファージによる貪食を回避している.

3.ネクロトーシス

炎症性サイトカインとして広く認知されている腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor: TNF)は,元々は細胞死を誘導する因子として発見された.TNFによって誘導される細胞死は,カスパーゼ依存性のアポトーシスの場合もあれば,カスパーゼ非依存性の場合もある.後者の,TNFによって誘導されるカスパーゼ非依存性の細胞死のメカニズムは長らく不明だったが,receptor interacting protein kinase-3(RIPK3)というリン酸化酵素が重要な役割を果たすことが明らかになった5, 6.細胞内シグナル伝達の過程でRIPK3が活性化すると,RIPK3はmixed lineage kinase domain-like protein(MLKL)をリン酸化し,これによって構造変化したMLKLは細胞膜上で重合し,細胞膜に小孔を開ける.この小孔を通ってナトリウムイオンや水の流入が起こると,細胞死とdamage-associated molecular patterns(DAMPs)の放出が誘導され,炎症・免疫反応が惹起される.このような細胞死はネクロトーシスと呼ばれ,様々な炎症性疾患の病態に関与していることが動物実験で示され,ヒトの炎症性疾患の新規治療標的としても注目度が高まっている7

4.パイロトーシス

パイロトーシスでは,インフラマソームという細胞内分子複合体が重要な役割を果たす8.インフラマソームには古典経路と非古典経路がある.インフラマソーム古典経路は入力部,連結部,出力部で構成されていて,入力部において,AIM2,NLRP1,NLRP3,NLRC4などの受容体がpathogen-associated molecular patterns(PAMPs)やDAMPsなどからの入力シグナルを感知すると,出力部がカスパーゼ1を活性化する.カスパーゼ1は炎症性サイトカインであるIL-1βやIL-18を活性化するとともに,ガスダーミンD(GSDMD)というタンパク質を切断する(図2).GSDMD断片は重合して細胞膜に小孔を開け,これを通じてIL-1βやIL-18が細胞外に放出され,炎症反応を誘導する.さらに,この小孔を通ってナトリウムイオンや水の流入が起こると,細胞死とDAMPsの放出が誘導され,炎症・免疫反応が惹起される.インフラマソーム非古典経路においては,細胞質に運ばれたエンドトキシン(lipopolysaccharide: LPS)からの入力シグナルによって,カスパーゼ4/5/11が活性化される.カスパーゼ4/5/11はIL-1βやIL-18を活性化する過程には関与しないものの,GSDMDを切断して細胞膜にGSDMD小孔を開ける.グラム陰性桿菌によるエンドトキシンショックや敗血症においては,インフラマソームの古典経路よりもむしろ非古典経路の方が病態に寄与していて,新規治療標的として注目されている.

図2

パイロトーシスに伴う炎症性サイトカインの放出とDAMPsの放出

グラム陰性桿菌のエンドトキシン(lipopolysaccharide: LPS)は,HMGB1にエスコートされながら宿主の免疫細胞の細胞質内へ搬送されると,カスパーゼ4/5/11を活性化する.活性化したカスパーゼ4/5/11がガスダーミンD(GSDMD)を切断すると,GSDMD断片は重合して細胞膜に小孔を開ける.一方,DAMPsやPAMPsの刺激によってインフラマソーム古典経路が活性化すると,カスパーゼ1がインターロイキン(IL)-1βやIL-18を活性化するとともに,GSDMDを切断する.IL-1βやIL-18はGSDMD小孔を通じて細胞外に放出され,炎症反応を惹起する.また,この小孔を通ってカルシウムイオンの細胞内流入が起こると,細胞膜の表面にはホスファチジルセリン(PtdSer:紫色で表記)が露出し,組織因子を発現した細胞外小胞(microvesicle)が放出され,凝固第VII因子や第X因子をはじめとした血漿中の凝固因子が集積する足場を提供し,血管内凝固が進行する.さらに,ナトリウムイオンや水の細胞内流入が生じると,nerve injury–induced protein 1(NINJ1)を介して細胞膜に大きな穴が開き,HMGB1をはじめとしたDAMPs類が細胞外に放出されるようになり,さらなる炎症・免疫反応が惹起される.

5.ネトーシス

感染や組織損傷の兆候を察知すると好中球は活性化し,微生物やデブリスを貪食したり,好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps: NETs)を細胞外に放出してたりして対処する.NETsは好中球自身のDNAを骨格としたと網状構造物で,そこに好中球エラスターゼ,ミエロペルオキシダーゼ,カテプシンG,ヒストンなどのタンパク質が付着している9.好中球は死にながらNETs放出することもあれば(細胞膜の破綻を伴うネトーシス),生きたままNETsを放出する仕組み(細胞膜の破綻を伴わないNETs放出)も備え持っている10

活性化していない好中球においては,DNA成分は分葉した核の中に,好中球エラスターゼやミエロペルオキシダーゼなどの蛋白分解酵素は細胞質のアズール顆粒の中に局在している.強い活性化シグナルを受け取ると,好中球エラスターゼは核の中に移行し,クロマチンの脱凝縮を引き起こし,細胞内成分が混ざり合って細胞外にNETsとして放出される.クロマチン脱凝縮の過程においては,protein-arginine deiminase 4(PAD4)という酵素によるヒストンのシトルリン化が重要であることが知られているが,PAD4非依存性でシトルリン化非依存性のNETs放出機序があることも知られている.これらの行程がnicotinamide adenine dinucleotide phosphate(NADPH)オキシダーゼによる活性酸素種産生を介して進行する場合には,好中球エラスターゼによるGSDMDの切断が引き起こされ,GSDMS小孔の形成,細胞膜の破綻,NETs放出に至ると考えられている.一方,細胞膜の破綻を伴わずに生きたままNETsを放出する場合は,NADPHオキシダーゼや活性酸素種非依存性に,分泌小胞を介して細胞外にNETsが放出されると考えられていて,細胞膜の破綻を伴う場合よりも短時間(数分から数十分)でNETsを放出することができる10.このように,刺激の種類や好中球の不均一性によって,NETs放出には相当な多様性があると考えられる.

6.細胞外へのDAMPsの放出

ネクロトーシスではMLKL小孔を通じて,パイロトーシスではGSDMD小孔を通じて電解質の無差別な流入や流出,さらには水分子の細胞内流入が生じ,細胞が膨化する.その後,細胞膜の破綻とDAMPsの放出が引き起こされるが,このプロセスは受動的に引き起こされるものと考えられてきた.2021年,細胞膜の破綻とDAMPsの放出は,nerve injury-induced protein 1(NINJ1)という膜タンパク質を介して細胞膜に大きな穴が開くことによって引き起こされる能動的なプロセスであることが報告された11.DAMPsの代表的分子の一つとして知られるhigh mobility group box 1(HMGB1)は,ATPなどと比べると分子量が大きく,MLKL小孔やGSDMD小孔からは放出されない.このような大きなDAMPsはNINJ1を介して開けられた大きな穴を通じて細胞外に放出される(図2).ネクローシスの場合,その原因によってはNINJ1と無関係に細胞膜が破綻し,DAMPsが放出されることもある.しかしながら,細胞膜に穴を開ける細菌由来毒素に曝された場合などでは,その後,NINJ1を介した細胞膜の破綻とDAMPsの細胞外への放出が誘導される.これまで,このようなケースでは受動的に細胞膜が破綻してDAMPsが放出されると理解されていたが,ネクローシスでもNINJ1による介錯が入る場合があると考えられる.NINJ1がどのようなメカニズムで細胞膜の破綻を引き起こすのかは十分に判明していないが,刺激に伴ってNINJ1が重合体を形成することが関係しているようである.

7.HMGB1による凝固活性化機序

DAMPsの代表的分子として知られるHMGB1は,細胞外に放出されると,周囲の細胞のパターン認識受容体を活性化し,炎症・免疫反応を惹起する12.血液凝固系への影響にフォーカスすると,HMGB1は単球の組織因子発現を誘導したり,トロンボモジュリンによるプロテインCの活性化を抑制したりすることが知られていて13,血漿HMGB1濃度はDICスコア,臓器障害,死亡転帰と関連している14.近年,HMGB1にはエンドトキシンを細胞質内へ搬送する働きがあることが報告され,エンドトキシンが細胞質内においてインフラマソーム非古典経路を活性化し,パイロトーシスの引き金を引くのを補助していると考えられる15.その結果,細胞膜の表面にはホスファチジルセリンが露出し,組織因子を発現した細胞外小胞(extracellular vesicles)が放出され,凝固第VII因子や第X因子をはじめとした血漿中の凝固因子が集積する足場を提供し,血管内凝固が進むと考えられる(図2).敗血症モデル動物においても,HMGB1-エンドトキシン-パイロトーシス-組織因子経路が,致死的DICの病態に深く関与していることが示唆されている16, 17

8.細胞外ヒストンによる凝固活性化機序

好中球によるNETs放出が血管内で引き起こされると,NETsを足場として血栓が増大する.NETsの主要成分の一つであるDNAは陰性に荷電していて,血液凝固第XII因子(FXII)やFXIと接触し,内因系血液凝固経路を活性化する18.好中球エラスターゼやカテプシンGなどのセリンプロテアーゼは,組織因子経路インヒビターを分解して不活化することで,外因系血液凝固経路を促進する19.また,NETs表面には組織因子,von Willebrand因子,フィブロネクチンなどが結合し,NETs表面での凝固活性化,血小板血栓の形成の足場を提供していると考えられる.細胞外ヒストンはプロトロンビンフラグメントF1+2に結合し,FXaによるプロトロンビンの活性化を,FVaやリン脂質非依存性に促進する20.敗血症患者において,血清ヒストン濃度はDICスコア,多臓器不全,死亡転帰と関連していて21,DIC関連検査項目のなかでは,凝固活性化の指標として知られるトロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)濃度との相関が強い22.このように,細胞外ヒストンはDICを増悪させるメディエーターであると同時に,DICの病態を反映するマーカーでもある.

9.おわりに

細胞死や,その結果として生じるDAMPsの放出は,炎症性疾患やDICの病態に深く関与している.そのプロセスや制御機構が次第に明らかになっていくなか,RIPK1,RIPK3,MLKL,NLRP3,GSDMD,NINJ1などのキープレーヤーの存在も明らかになってきた23.これらが炎症性疾患やDICを制御するための重要な新規治療標的になりうるのか,今後のさらなる検討が待たれる.

著者の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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