日本血栓止血学会誌
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診断・治療・技術講座
Neutrophil extracellular traps(NETs)の測定方法と臨床的意義
三好 敦子中沢 大悟上田 雄翔麻生 里佳
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2022 年 33 巻 5 号 p. 593-597

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1.はじめに

好中球は自然免疫において重要な役割を果たす.免疫細胞と協調し病原微生物などから自己を防御している.その免疫システムの一つに好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps: NETs)がある.過剰なNETsの産生や制御異常は血管内皮細胞障害や血栓症,自己免疫疾患などを惹起し自己を損傷する.また好中球は多様性があり,分化段階によりNETsの形成能力が異なる.NETsの関与を明らかにするためには適切なNETsの測定と評価が不可欠であり,これまで様々な方法でNETsの存在が証明され病態解明の一助となってきた.本稿ではNETsの測定法と関連する疾患について概説する.

2.NETs

NETsは2004年にBrinkmannらによって好中球の新たな細胞死形態として報告された1.NETs形成の刺激因子には細菌などの微生物,免疫複合体,尿酸などの結晶,ヒストンなどのdamage-associated molecular patterns(DAMPs)があり,それぞれ受容体や内部シグナルを介してNETsに至る.内部シグナルの多くは活性酸素種(reactive oxygen species: ROS)の活性化を介して細胞質のpeptidylarginine deiminase 4(PAD4)が活性化され,DNAを巻き付けているヒストンタンパクH3尾部のアルギニンがシトルリン化されクロマチンの脱凝縮が起こる2.その後,細胞膜が破綻しクロマチンが細胞外へ放出される(図13.NETsはDNAとヒストンを含むクロマチン繊維で構成され,DNA繊維は好中球エラスターゼ(neutrophil elastase: NE)やミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase: MPO)など30種類以上の蛋白によって装飾されている.Necrosisやapoptosisと異なるこの能動的な細胞死はnetosisと呼ばれる.NETsの過剰産生は血管内皮細胞障害や血栓症,糖尿病創傷治癒の障害を引き起こし,また調節異常は全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)やANCA関連血管炎(ANCA associated vasculitis: AAV)などの自己免疫疾患を惹起する.そのためNETsの適切な測定や評価,新規マーカーの発見は重要である.これまでNETsの測定により様々な疾患の病態への関与が示された.

図1

NETs形成機序(文献27を元に作成)

FcR:Fc receptor,TLR:Toll-like receptor,PKC:protein kinase C.

3.NETsの測定方法

NETsの測定にはNETsの構成成分であるDNAやMPO,NE,ヒストンがマーカーとして用いられる.In vitroで汎用されるNETs検出方法は免疫染色を用いた顕微鏡による観察である.好中球をスライドガラスに播種し,数時間培養して固定した後,MPOやNEなどの好中球由来のタンパク質とDNAやヒストンなどの核成分との共局在を証明することでNETsを同定する.また細胞膜非透過性核酸染色剤であるSYTOX Greenにより細胞外DNAを蛍光染色しNETs様構造物の放出を確認する方法も用いられるがアポトーシス細胞の核も染色しうるため評価には注意が必要である.NETsの定量化には画像解析を用いるが,撮影部位の選択において研究者の主観が入り客観性が損なわれる可能性があるため無作為に撮像される評価方法の開発が行われている4.血清や組織液などの液体試料では可溶性NETsの断片を測定する試みがなされている.NETs断片の一つにcell free DNAがあり,Pico Greenを用いて測定する.AAVやSLEなどでは血清中のcell free DNA量が上昇することが報告されている5.しかし悪性腫瘍では免疫細胞による腫瘍細胞の破壊やアポトーシスによりcell free DNAが血液中に漏れ出すことや,妊娠や糖尿病,激しい運動や外傷による損傷でcell free DNA量が上昇するため6, 7,好中球以外の障害臓器・細胞由来のcell free DNAを計測している可能性がある.より特異的なNETs断片の評価として,MPOやNEなどの好中球由来タンパク質とDNAの複合体を測定する方法があり,MPO-DNA複合体やNE-DNA複合体は液体試料の酵素結合免疫吸着検査法(enzyme-linked immuno-sorbent assay:ELISA法)で測定が可能である.これらは動物,ヒト患者検体での報告が多数なされているが,ELISAのポジティブコントロールとなる標準物質が確立されておらず,定量方法に課題がある.一方,Zhaoらはmultispectral imaging flow cytometryを用いてNETs形成好中球の定量を行った8.NETsを形成している好中球に特徴的な核の膨張に着目し,側方散乱強度の減少や脱凝縮した核領域におけるMPOの共局在によりNETsを同定した.また通常のフローサイトメトリーを用いてNETs形成好中球を検出する方法も試みられており,GavilletらはMPOとシトルリン化ヒストンの共局在によりNETs形成好中球を同定した9.FACS(fluorescence-activated cell sorting)による解析は特異的かつ客観性に優れているが,粘着性のある好中球NETsの一部がフィルターを介した処理段階で除外され正確なNETs誘導を評価できない可能性があることも考慮する必要がある.

4.各種疾患におけるNETs測定とその意義

1)感染症

インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染患者(軽症,重症)と健常者の血清のDNA量をPico Greenを用いて測定した.軽症患者は健常人と比較して有意に値は上昇し(mean±SD,353.3±150.0 ng/mL vs 248.6±38.95 ng/mL,P=0.0005),重症患者では軽症患者と比較してさらに値は上昇した(mean±SD,706.3±428.9 ng/mL vs 353.3±150.0 ng/mL,P=0.0032).またELISA法によるMPO-DNAについても類似の結果が示されており本感染症の重症化にNETsの過剰産生が関与していることが想定される10Ex vivoにおいては肺炎球菌TIGR4株を好中球と共培養した上澄みは,コントロールに比べてNE濃度が上昇し,TIGR4株によるマウス肺炎モデルでは,細胞外DNAとヒストンが共局在するNETsが誘導されており病態への関与が示された11.同様にAspergillus fumigatusやβ-glucanも好中球に作用しNETs形成を誘導する12.また,COVID-19感染患者の血清では,MPO-DNA(P=0.0047),NE-DNA(P=0.0015),シトルリン化ヒストン(P<0.0001)が健常者に比べて有意に高く13,COVID-19患者剖検例の肺13や腎臓14の免疫染色ではNETsが同定されており,これらの感染症において過剰なNETs形成が病態の進展に関与する可能性が示されている.

2)悪性腫瘍

様々な悪性腫瘍の病態進展にNETsの制御異常が関わることが知られている.胃癌患者の血清中のMPO-DNA(P<0.001)やNE-DNA(P<0.001)が健常者に比べてステージIII・IVの患者で上昇し,FACSによる末梢血好中球の解析においても,進行胃癌で高いNETs誘導率が示され,消化器癌の進展に関与することが示された15

また大腸癌肝転移患者の血清中のMPO-DNA(ELISA測定)は,健常者と比較して有意な上昇を呈し(P<0.0002),手術検体では腫瘍組織にシトルリン化ヒストン陽性の好中球が同定された16.また非小細胞肺癌患者の末梢血好中球において,MPO-シトルリン化ヒストン,DNAの共局在を有するNETsが健常人より有意に多く認められた(P<0.01)17

3)自己免疫疾患

乾癬は好中球を含めた炎症細胞と活性化したケラチノサイトの相互作用を介した慢性炎症性皮膚疾患である18.乾癬患者では末梢血好中球をSytox Greenで評価したNETosis細胞の割合(NETotic cell数/好中球総数)が健常者に比べて有意に高く(健常 vs 乾癬患者;2.33±1.09% vs 11.53±5.77%,P<0.001),重症度の指標であるPASI scoreと相関を認めた19.KessenbockらはAAVにおけるNETsの関与を報告した20.好中球細胞質蛋白に対する自己抗体ANCAにより活性化された好中球がNETsを形成し,そのNETsが腎臓の毛細血管を破綻させ半月体形成性腎炎の病態に関与することをex vivoの実験と腎生検検体のNETs染色で示した.またELISA法で本患者の血清中MPO-DNA複合体が,健常人と比較して有意に高いことを示した(P<0.05).関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)は関節滑膜を主座とする全身性の慢性炎症疾患である.本患者の末梢血好中球をSytox Greenで染色した後5~10視野撮影し,好中球総数に対するSytox陽性細胞数の割合を測定したところ,関節炎増強作用のある抗環状シトルリン化ペプチド抗体(anti-cyclic citrullinated peptide antibody: ACPA)21と正の相関があることが示されている(R=0.56,P=0.005).またRA患者の滑膜組織を免疫染色にてMPO-DNAの共局在NETsが同定され,病態との関連が示唆された22.SLEは健常人に比べてNETsの分解障害を呈するが,原因として血清中のDNase1阻害物質の増加や抗DNase1抗体の存在によりDNase1活性を低下するためと考えられている23.好中球をPMA刺激してNET形成を誘導し,SLE患者(活動期,寛解期)と健常人の血清を添加してNETsの分解能を評価したところ,健常人血清は高い分解能を示したが,活動期SLE血清では29%,寛解期SLEでは12%の患者で分解能が低く,本疾患ではNETsの分解障害が病態の進展に関与していることが示唆されている24

4)心血管疾患

動脈硬化の病態の進展には脂質を貪食するマクロファージの関与が示されていたが,好中球NETsも関与することがわかってきた.内膜切除術で得られたヒトのプラークを免疫染色したところ,NEと好中球表面マーカーのCD177,DAPIの共局在を認め動脈硬化部位の内腔にNETsの存在が示された25.ST上昇型心筋梗塞で経皮的冠動脈インターベンションを施行された患者の病巣周辺と大腿由来の血液を用いた検討では,NE濃度(IQR,138.2[92.8–213.0] vs 75.4[60.0–104.2]ng/mL,P<0.0001),MPO-DNA濃度(IQR,102.3[71.3–189.0]vs 80.0[40.2–144.7]ng/mL,P=0.0009)が病巣周辺で有意に増加していた.また,冠動脈血栓の免疫染色によるNETs(DNA-ヒストンの共陽性領域)の割合は血栓の大きさと正の相関を示し(r=0.689,P=0.003),再灌流の指標であるST-segment elevation resolutionと負の相関を示した(rs=−0.608,P=0.003).これらの報告からNETsが虚血性心疾患の病態にも関与することが想定される26

5.好中球サブセット

末梢血好中球は大部分を占めているnormal density granulocyte(NDG)と単核球細胞層に存在するlow density granulocyte(LDG)に大別される.NDGは成熟したサブセットであり,刺激による遺伝子発現変動は小さく,貪食作用やNETs形成による殺菌を行う.LDGは健常者の末梢血では極めて少ないが,感染症や自己免疫疾患などで増加する.これらの疾患で見られるLDGは骨髄から遺伝子学的に未成熟の状態で抹消循環に動員され,炎症を助長する作用があると想定されている.自己免疫疾患では,AAV患者やSLE患者でLDGが増加し,このLDGは無刺激の状態でSytox Green陽性の自然発生NETsが認められ,病態の進展に関与すると考えられている27.SLEやAAVなどの自己免疫疾患以外にも,悪性腫瘍,感染症でもLDG数,LDG自然発生NETsの増加が確認されており,新たな疾患活動性マーカーになる可能性がある.

6.おわりに

本稿ではNETsの測定方法と関連する疾患について概説した.好中球NETsの評価が病態解明の一助となり,各種疾患との関連性が示されてきた.今後はNETsのシグナル経路に関する研究が益々進み,かつ疾患固有のNETs誘導機序が解析され,疾患に即したNETsの役割が解明されることを期待する.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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