日本血栓止血学会誌
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特集:線溶検査の現状と今後の可能性
トロンビン・プラスミン生成試験(T/P-GA)と凝固線溶波形解析(CFWA)
大西 智子野上 恵嗣
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2023 年 34 巻 3 号 p. 325-331

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Abstract

凝固と線溶にはさまざまな因子が関与し,巧妙にバランスを保っている.これらのバランスが崩れることにより,出血や血栓症といった臨床症状が引き起こされる.従来,凝固と線溶の評価には,個々の凝固因子や線溶因子を個別に測定する方法が行われてきた.しかし,個々の因子の血漿中濃度は,必ずしも臨床的な表現型を十分に反映していない場合があり,さらに線溶機能の低下は各因子の測定では評価は容易ではない.一連の凝固-線溶反応を包括的に評価可能な方法が強く望まれてきた中,近年に凝固-線溶の過程を包括的に評価できるトロンビン・プラスミン生成試験(thrombin/plasmin generation assay: T/P-GA),凝固線溶波形解析clot-fibrinolysis waveform analysis: CFWA)が登場した.本項ではそれぞれの基本的な測定原理と臨床における有用性について述べる.

1.はじめに

凝固と線溶の反応にはさまざまな因子が関与する.凝固能は,凝固を促す「向」凝固因子がアクセルの役割を,凝固を阻害する「抗」凝固因子がブレーキの役割を担ってバランスが保たれている.「向」凝固の因子が強ければ血栓傾向に傾き,「抗」凝固の因子が強ければ出血傾向に傾く.線溶能も同様に,「向」線溶と「抗」線溶がアクセルとブレーキで巧妙にバランスを保っている.そしてさらに,凝固能と線溶能のバランスがうまく制御されることで,血流中の止血機序が常に正常に保たれている.従来,凝固と線溶の評価には,凝固因子や線溶因子を個別に測定する方法が行われてきた.しかし,これらの因子の血漿中濃度は,必ずしも臨床的な表現型を十分に反映していない場合がある13.したがって,一連の凝固-線溶反応を包括的に評価できる測定法の確立が強く望まれてきた.これまで凝固-線溶の過程を反映する検査法として,rotational thromboelastometry(ROTEM)46,トロンビン生成試験(thrombin generation assay: TGA)79,凝固波形解析(clot waveform analysis: CWA)1012の3つの包括的止血検査が臨床応用されてきた.しかし,ROTEMは全血検体を使用するため測定できる時間が限られるということ,またTGAやCWAは,線溶機能を明確に評価することが困難であった.そこで,従来のTGAおよびCWAをさらに発展させた,凝固-線溶の過程を包括的に評価できるトロンビン・プラスミン生成試験(thrombin/plasmin generation assay: T/P-GA),凝固線溶波形解析(clot-fibrinolysis waveform analysis: CFWA)が開発された13, 14.本項ではそれぞれの基本的な測定原理と臨床における有用性について述べる.

2.測定方法と原理

1)トロンビン・プラスミン生成試験(T/P-GA)

T/P-GAは,フィブリン形成の前段階で産生されるトロンビンと,線溶の中心となりフィブリンを分解するプラスミンを測定する方法で,従来のTGAを発展させて,包括的な凝固線溶動態を同時に評価できる測定法である.TGAのトリガー試薬である組織因子/リン脂質(TF: 1.0 pmol/L, PL: 4 μmol/L)に,さらに組織型プラスミノゲンアクチベータ(t-PA: 3.3 nmol/L)を添加し,トロンビンとプラスミンそれぞれの蛍光発色基質を反応させることで,凝固・線溶機能を同時に評価することができる13

トロンビン・プラスミン生成過程は経時的に変化し,そのパターンは波形で描出される.この波形を一時微分することで各種パラメータによる評価が可能である.トロンビン生成は一定時間のlagtime(min)の後,トロンビン生成率が上昇してピーク値に至った後,低下していく山形の波形が得られる(図1A inset).凝固初期の凝固開始相ではトロンビンは検出感度以下であり,この立ち上がりまでの時間がlagtimeに相当する.その後,凝固増幅相を経てトロンビンバーストが起こる.プラスミン生成はlagtimeでみると,トロンビンが立ち上がった後にプラスミン生成が立ち上がる.生成率が上昇してピークに至った後,なだらかに低下する山形の波形が得られる(図1A).それぞれのピークをTh-peak(nmol/L),Plm-peak(nmol/L),ピークに至るまでの時間をtime to peak(tt Peak)(min)とし,総生成量をEndogenous potential of thrombin or plasmin(Th-EP or Plm-EP)として示す.T/P-GAは,測定の際に手技や解析の煩雑さはあるものの,幅広い疾患に対する有用性が報告されている13, 1520

図1

正常血漿におけるトロンビン・プラスミン生成試験(T/P-GA)および凝固線溶波形解析(CFWA)

(A)トロンビン生成(挿入図)とプラスミン生成の一次微分(速度)を示す.

LT; lag time, Peak; peak thrombin or peak plasmin, ttPeak; time to peak, EP; endogenous potential of thrombin or plasmin

(B)正常血漿から得られるtPA非存在下および存在下の凝固線溶波形(a)とそのパラメータを示す.

(b)(a)の一次微分波形

(c)(b)の線溶部分の逆波形を示す.

tPA; tissue-type plasminogen activator, CT; clot time, FLT; fibrinolysis lag time, |min1|; maximum coagulation velocity, |FL-min1|; maximum fibrinolysis velocity

2)凝固線溶波形解析(CFWA)

凝固スクリーニング検査として汎用性が高いプロトロンビン時間(PT)および活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time: APTT)は,CaCl2の添加から凝固開始までの時間(凝固前相)で評価することになる.しかし,その後に一定の速度でフィブリンが形成し(凝固相),凝固反応の終結後(凝固後相)に至るまでの過程が存在する.そこで,自動分析装置を用いたAPTT測定時に,フィブリン形成による透過光の変化を経時的にモニタリングしたCWAが開発され,凝固各相を観察できるようになった1012.さらにAPTT測定時に組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)を加えることで,フィブリンが溶解される過程までモニタリングし,凝固から線溶までの全過程を凝固線溶波形として描出し,凝固-線溶の全体像を評価できるCFWAが開発された14

実際の測定方法として,血漿検体にAPTT試薬を混合加温後,CaCl2添加時にt-PA(終濃度約0.6 μg/mL)を加えると,500秒以内に凝固波形からフィブリン溶解反応の完了までを評価することができる.横軸は時間(秒),縦軸は透過光強度として定義される透過率(%)である.透過率が所定のレベルまで低下するまでの時間を凝固時間(CT)とし,その後正常血漿では約100秒後にフィブリンクロットが溶解し始め,透過光量が低下した凝固波形がベースラインに戻る(図1B-a).透過率の1次微分(dT/dt)は,各時点での凝固・線溶速度を反映している(図1B-b).一次微分の最大値|min1|は凝固の最大速度であり,凝固機能を定量的に評価できる.凝固時間から線溶開始までの時間を線溶開始時間(FLT),フィブリン溶解のピーク値を最大線溶速度(|FL-min1|),総溶解量(endogenous fibrinolysis of potentials: EFP)として,線溶能も定量的に評価できる(図1B-c).CFWAは,T/P-GAと比較すると測定が簡便で汎用性の高いツールであり,本法もさまざまな疾患に臨床応用されている14, 20, 21

3.結果の解釈

1)T/P-GA

先天性の重症血友病AにおけるT/P-GAは,Th-peakが著明に低下し,ピークに至るまでの時間(Th-ttPeak)が延長する(図2-a)13.線溶機能は維持され,血友病A患者は凝固能と線溶能の不均衡が生じていることがわかる.一方,後天性血友病A患者の重篤な出血症状時は,トロンビン生成だけでなく,プラスミン生成も極めて低下している(図2-b).これは,線溶能が低下しているというより,線溶が発揮できるまでのフィブリン生成が十分できていないことを表している.一方,トロンビンよりプラスミン生成の方が早期に回復するため,プラスミン生成が患者の臨床症状の評価に有用であることも報告されている16.線溶機能異常として知られているプラスミノゲン欠乏症での血漿は,プラスミン生成の立ち上がりはなく(図2-c),一方,α2-PI(α2-plasmin inhibitor)欠乏症の血漿では,プラスミン生成が阻害されず,Plm-peakは高値となり,Plm-ttPeakは短縮する(図2-d).それぞれ凝固能への影響はないため,凝固能と線溶能の不均衡が生じる13

図2

各疾患,および凝固因子欠乏血漿における代表的なトロンビン・プラスミン生成試験(T/P-GA)(文献13から引用)

(a)先天性重症血友病A:トロンビン生成(挿入図)の著明な低下を認める.

(b)後天性血友病A:トロンビン生成,プラスミン生成ともに著明な低下を認める.

(c)プラスミノゲン欠乏血漿:プラスミンの立ち上がりを認めない.

(d)α2-PI欠乏血漿:プラスミン生成の上昇を認める.

α2-PI; α2-Plasmin Inhibitor

2)CFWA

先天性重症血友病Aでは,正常血漿に比べ透過率(%)が徐々に低下しており,フィブリン形成が完了する前に線溶反応が開始される(図3A-a)14.凝固相では,CTが延長し,|min1|が低下しており,結果として凝固機能の低下を反映する(図3A-b).線溶相では正常血漿と同様の時間帯に開始するが二相性の経過を辿る(図3A-b,c).血友病血漿由来のフィブリン線維は正常血漿に比べて粗く太く2224,フィブリン凝血塊が非常に脆弱となった結果,凝血塊形成や線溶が独特のパターンを示す.プラスミノゲン欠乏血漿の線溶相では|FL-min1|の立ち上がりがみられないが,プラスミノゲン濃度上昇に伴いFLTは短縮,|FL-min1|は上昇し,線溶機能が正常化した(図3B).

図3

各疾患,および凝固因子欠乏血漿における代表的な凝固線溶波形解析(CFWA)(文献14から引用)

A:先天性重症血友病Aの凝固線溶波形(a)と,一次微分を行った凝固相(b)および線溶相(c).凝固機能の著明な低下と,線溶機能の二相性パターンがみられる.

B:さまざまな濃度のプラスミノゲンの存在下でのCFWAの線溶相.プラスミノゲン濃度の上昇に伴い,線溶機能が正常化する.

C:α2-PI欠乏血漿におけるCFWAの線溶相.|FL-min1|の増加がみられ,線溶機能の亢進を示している.

D:PAI-1欠乏血漿におけるCFWAの線溶相.EFPの増加がみられ,線溶機能の亢進を示している.

NP; Normal Plasma, HA; Hemophilia A, Plg; Plasminogen, α2-PI; α2-Plasmin Inhibitor, PAI-1:

その他,線溶関連因子として,α2-PI欠乏血漿やPAI-1欠乏血漿のCFWA(図3C,D)では,α2-PI欠乏血漿の線溶相では,正常対照に比して,|FL-min1|までの時間短縮,|FL-min1|増加がみられ,線溶機能の亢進を示した(図4C),これはT/P-GAと同様の結果であった(図3d).一方,PAI-1欠乏血漿では,|FL-min1|への影響は認めなかったが,EFPはα2-PI欠乏血漿より増加していた(図4D).両因子の欠乏は線溶機能の亢進を呈するが,各々作用の異なる線溶調節がみられた.一方,両因子は凝固能への影響はなく,凝固相のパラメータは正常血漿と同等であった.

図4

敗血症性DICおよびCOVID-19症例におけるCFWA(文献2026から引用)

(A)代表的な敗血症性DICの凝固線溶波形(a)と,一次微分した凝固相(b)および線溶相(c)を示す.正常血漿と比較して症例1では凝固能は亢進しているが線溶能が低下しており,相対的に凝固優位の状態である.症例2では,凝固能,線溶能ともに著明に低下していることがわかる.

(B)軽症~重症の代表的なCOVID-19の凝固線溶波形(a)と,一次微分した凝固相(b)および線溶相(c)を示す.全ての重症度で凝固能,線溶能は上昇しているが,重症度が上がるにつれ凝固能の亢進が強くなるため相対的に凝固優位の状態であることがわかる.

4.ピットフォールと限界

両測定法は凝固・線溶の過程を包括的に反映する検査法であり,どの過程で異常が生じているかの判断が難しい点がある.フィブリンが形成されるまでには,「向」凝固の役割を果たす組織因子(TF)やフィブリノゲン,「抗」凝固の役割を果たすアンチトロンビン(AT),プロテインC/S(PC/PS)経路などが作用し,形成されたフィブリンの溶解には,「向」線溶であるtPAやPC/PS経路,または「抗」線溶の役割を果たすα2-PI,PAI-1(plasminogen activator inhibitor 1),TAFI(thrombin-activatable fibrinolysis inhibitor)等が存在する.どの因子が欠落してもフィブリン形成や溶解,またはその両者に異常を呈する.T/P-GA,CFWAでパラメータの異常が見られたら,どの過程の異常であるか,臨床経過や個々の凝固/線溶因子の血中濃度も参考に判断する必要がある.しかしながら,「結果の解釈」で述べたように,各因子の欠乏血漿における波形にはある程度パターンがみられるため,どの因子が欠乏しているか推察することが可能である.

5.最近のトピックス

凝血学的異常を引き起こす疾患はあらゆる領域においても存在しており,例えば,血液・固形腫瘍,川崎病,ネフローゼ症候群,敗血症など多岐にわたる.当教室では包括的凝固線溶機能検査を応用し,凝固-線溶バランスに注目して各疾患の病態を解明し,その有用性を報告してきた.

小児急性リンパ性白血病のkey drugであるL-アスパラギナーゼ(L-Asp)療法では,その合併症として凝固障害症が知られている.T/P-GAではL-Asp治療相の後半は凝固亢進かつ線溶抑制状態にあり,相対的に凝固優位なアンバランスな凝血学的状態であり,血栓傾向に陥りやすいことが示唆された18.播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)では,凝固系のみならず線溶系も活性化され,血栓症および出血症状の程度は,個々の凝固/線溶動態のバランスにより決定される.DIC症例についてCFWAを用いて評価したところ,DICの病態として,凝固優位,凝固/線溶均衡.線溶優位,崩壊型の4パターンに分類されることがわかった.多くは線溶機能の強い抑制が見られ,相対的に凝固優位のパターンを示していた(図4A).近年,凝固障害が問題となっているCOVID-19(coronavirus disease 2019)についてCFWAで解析したところ,重症度の悪化に伴い凝固が亢進することが明らかになった.敗血症と異なり,線溶抑制はみられなかったが,凝固亢進が強く相対的には凝固優位となり,血栓症のリスクになると考えられた(図4B).このように凝固/線溶バランスに基づく凝血学的評価を行うことで,さまざまな疾患における治療薬の選択,治療効果の判定や治療期間の設定への貢献が期待できる20, 25, 26

著者全員の利益相反(COI)の開示:

大西智子:研究費(受託研究,共同研究,寄付金等)(中外製薬,旭化成)

野上恵嗣:講演料・原稿料など(中外製薬,Sanofi,NovoNordisk,Takeda,CLS Behring),臨床研究(治験)(中外製薬,NovoNordisk,Sanofi,Takeda,KMB,Pfizer),研究費(受託研究,共同研究,寄付金等)(中外製薬,NovoNordisk,Sanofi,Takeda,CLS Behring,Bayer,Sysmex,積水メディカル,KM Biologics),企業などが提供する寄附講座(CLS Behring)

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