日本血栓止血学会誌
Online ISSN : 1880-8808
Print ISSN : 0915-7441
ISSN-L : 0915-7441
34 巻, 3 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
Editorial
特集:線溶検査の現状と今後の可能性
  • 浦野 哲盟, 鈴木 優子
    原稿種別: 特集:線溶検査の現状と今後の可能性
    2023 年 34 巻 3 号 p. 286-291
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/14
    ジャーナル フリー HTML

    線維素溶解(線溶)系は様々な要因で活性化が時空間的に制御されており,その破綻が血栓症発症や出血のような病態につながる.線溶系は基本的にフィブリン(線維素)形成後に発動するため,血小板および凝固系活性化,フィブリン形成,また血管内皮細胞の影響を強く受ける.従って播種性の血管内凝固や,炎症および広範な内皮障害等では,線溶系も大きく変動する.刻々と変化する病態の正確な把握には,線溶系の精緻な制御系の理解と,必要に応じた検査の実施と結果の適切な解釈が不可欠である.各因子の抗原量,活性に関しても凝固系も含めた全体像の中での解釈が必要である.凝固系とは異なり線溶系では活性の包括的測定法がまだ確立されていない.最近提唱されているいくつかの新規測定法が本特集でも紹介されている.各々が時空間的制御機構のどの部分に焦点を当てた検査方法であるかを理解し,結果を正しく解釈することが必要である.

  • 浦野 哲盟, 鈴木 優子, 岩城 孝行
    原稿種別: 特集:線溶検査の現状と今後の可能性
    2023 年 34 巻 3 号 p. 292-298
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/14
    ジャーナル フリー HTML

    線維素溶解(線溶)活性は複数の抑制系で制御されている.これらの破綻は出血や血栓症を来すため,迅速な評価と適切な介入が必要である.線溶時間検査は線溶の制御系を包括的に評価できる基本的な検査法である.しかし操作が煩雑で,また個々の抑制系の関与の評価が難しいため実臨床での実施は少ない.しかし各抑制系固有の阻害薬等を併用すればその評価が可能である.例えばユーグロブリン溶解時間は組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)とPAインヒビター1型(PAI-1)の量的バランスで決まるtPA活性を表すが,カルシウムイオン存在下及び非存在下の実施によりPAI-1活性評価とその欠損症のスクリーニングが可能である.tPA添加血漿クロット溶解時間は線溶活性を包括的に表すが,活性型トロンビン活性化線溶阻害因子(TAFIa)阻害薬を使用によりトロンボモジュリン/TAFI系の特異活性の評価が可能である.これらを紹介する.

  • 内場 光浩
    原稿種別: 特集:線溶検査の現状と今後の可能性
    2023 年 34 巻 3 号 p. 299-303
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/14
    ジャーナル フリー HTML

    α2-アンチプラスミン(α2-antiplasmin: α2-AP)は線溶反応の重要な制御因子で,プラスミン活性を阻害するとともに,プラスミノゲンのフィブリンへの集積を抑制することでプラスミン産生も抑制する.α2-APはC端及びN端の翻訳後修飾をそれぞれ受け,4種類の分子種から構成される.α2-APの測定法は,合成基質を用いて残存プラスミン活性を測定する方法であり,即時反応性のプラスミン不活化能を測定するものであるため,全ての分子種のプラスミン阻害能を測定しているものではない.またプラスミノゲンのフィブリン集積抑制効果に対しても十分には反映されているものではない.α2-APが低下している病態では出血傾向を呈するが,先天的に低下している場合と,後天的に低下している場合がある.後天的な低下は肝合成能低下の場合と,線溶活性化に伴う消費性の低下がある.一方,炎症性疾患においてはα2-APは上昇する.

  • 岩城 孝行, 梅村 和夫, 鈴木 優子, 浦野 哲盟
    原稿種別: 特集:線溶検査の現状と今後の可能性
    2023 年 34 巻 3 号 p. 304-309
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/14
    ジャーナル フリー HTML

    Plasminogen(Plg)Activator Inhibitor-1(PAI-1)高値は様々な病態で予後に悪い影響を与える可能性がある事から,トータルPAI-1の基準値は50 ng/mL未満と規定され上限は設定されていない.しかしこの値未満であれば異常がないという事ではなく,致死的な出血を呈するPAI-1欠損症では,当然のことながらトータルPAI-1は基準値未満となる.外注検査で測定可能なPAI-1の測定限界は10 ng/mL程度であるが,この値は測定限界を示すだけで出血傾向を示すPAI-1の限界値を反映したものではない.我々はラボベースで実施するトータルPAI-1の超微量測定と特殊な線溶活性検査を実施し,その陽性対象に対して遺伝子解析を実施し,現在世界で3家系しかいないPAI-1欠損症のうち2家系の同定に成功している.トータルPAI-1測定は様々な分子形態のPAI-1を測定しているので,高値な時に病態把握に活用するのは難しい側面もあり,今後の測定技術の向上が必要である.また測定感度未満と出血傾向の関連付けも一般診療では困難なので,専門的検査ができる施設に相談する必要がある.

  • 関 泰一郎, 細野 崇
    原稿種別: 特集:線溶検査の現状と今後の可能性
    2023 年 34 巻 3 号 p. 310-316
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/14
    ジャーナル フリー HTML

    Thrombin activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)は,カルボキシペプチダーゼのチモーゲンとして主に肝臓で合成され,フィブリンのC末端リシン残基を除去することにより線溶を抑制する.TAFIは,トロンビン/トロンボモジュリンによって活性化されTAFIa(活性型酵素),その後TAFIai(不活性型:inactivated form)へと変化するが,遺伝子多型により4種類のアイソフォームが存在し,これらの安定性,血中半減期は異なる.TAFIaには生理的なインヒビターが存在せず,TAFIaiへの変換によりその作用が制御されている.したがってTAFI,TAFIa,TAFIaiを的確に区別して測定する必要がある.本稿では,ELISA,酵素学的な活性測定法,functional fibrinolysis assayによるこれらの分子種の測定法とその原理の概略,測定上の注意点について解説する.

  • 窓岩 清治
    原稿種別: 特集:線溶検査の現状と今後の可能性
    2023 年 34 巻 3 号 p. 317-324
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/14
    ジャーナル フリー HTML

    線溶検査は,フィブリン分解というダイナミックに変化する動態を把握するための生体情報ツールである.多くの血栓性疾患において線溶系マーカーであるプラスミンとα2プラスミン インヒビター複合体(plasmin-α2plasmin inhibitor complex: PIC)は,凝固系マーカーのトロンビン-アンチトロンビン複合体(thrombin-antithrombin complex: TAT)と比較的良好な相関を示す.D-dimerは,架橋化フィブリンが形成され主にプラスミンにより分解されたことを示す凝固線溶系マーカーである.フィブリノゲン・フィブリン分解産物(fibrinogen and fibrin degradation products: FDP)は,プラスミンなどがフィブリノゲンや架橋化フィブリンを分解することにより生じる.いずれも特異抗体を用いて免疫学的に定量されるため,異なる測定試薬間で測定結果を評価することが困難であるが,PICとTATを経時的に比較することや,FDPとD-dimerの乖離の有無を知ることにより線溶系の動態を詳細に知り得る.関連学会や測定試薬に関わる企業の横断的かつ精力的な作業により線溶系マーカーの標準化へと結実することを期待したい.

  • 大西 智子, 野上 恵嗣
    原稿種別: 特集:線溶検査の現状と今後の可能性
    2023 年 34 巻 3 号 p. 325-331
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/14
    ジャーナル フリー HTML

    凝固と線溶にはさまざまな因子が関与し,巧妙にバランスを保っている.これらのバランスが崩れることにより,出血や血栓症といった臨床症状が引き起こされる.従来,凝固と線溶の評価には,個々の凝固因子や線溶因子を個別に測定する方法が行われてきた.しかし,個々の因子の血漿中濃度は,必ずしも臨床的な表現型を十分に反映していない場合があり,さらに線溶機能の低下は各因子の測定では評価は容易ではない.一連の凝固-線溶反応を包括的に評価可能な方法が強く望まれてきた中,近年に凝固-線溶の過程を包括的に評価できるトロンビン・プラスミン生成試験(thrombin/plasmin generation assay: T/P-GA),凝固線溶波形解析clot-fibrinolysis waveform analysis: CFWA)が登場した.本項ではそれぞれの基本的な測定原理と臨床における有用性について述べる.

  • 香取 信之
    原稿種別: 特集:線溶検査の現状と今後の可能性
    2023 年 34 巻 3 号 p. 332-337
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/14
    ジャーナル フリー HTML

    血液粘弾性検査(viscoelastic test: VET)は全血を検体として凝固過程における血液粘弾性の変化を経時的に測定する検査であり,複数の試薬を使用して複数チャネルで並行して検査を行うことができる.VETの特徴は血液凝固能を包括的かつ分画的に評価できる点にあり,凝固過程だけでなく線溶過程も評価できる.凝固波形が描出されたのちの波形の減衰を線溶亢進としてとらえ,減少幅を線溶亢進パラメーターとして表示するが,線溶亢進の確定診断としてはアプロチニンやトラネキサム酸を加えた試薬を使した線溶検出検査を用いる.しかし,D-dimerなどのバイオマーカーの値や臨床所見からは線溶亢進と判断できるにもかかわらず,VETでは検出できない症例も報告されている.現時点では軽度または中等度の線溶亢進の診断をVETで行うのは困難である.

  • 鈴木 優子, 浦野 哲盟
    原稿種別: 特集:線溶検査の現状と今後の可能性
    2023 年 34 巻 3 号 p. 338-344
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/14
    ジャーナル フリー HTML

    本項では臨床応用につながる線溶検査としての可能性をリアルタイムイメージングの側面から探る.筆者らは線溶調節機構の可視化解析として,精製系・血漿・細胞成分を含む静止評価系における蛍光顕微鏡解析,流速存在下,さらに生体顕微鏡による血管内微小血栓動態評価系を用いてきた.これまでに提唱してきた時空間的に制御された線溶活性調節機構とその意義に関して,項目1では,血管内皮細胞からの線溶反応開始因子(tissue-type plasminogen activator: tPA)の分泌過程の可視化から推察される改変tPA,テネクテプラーゼの特性,項目2,3,5では,細胞表面あるいは血栓内部から開始される線溶反応におけるトロンビン活性の役割を考察する.また,最近血小板凝集測定装置として特定保守管理医療機器登録された,全血流下血栓形成能解析システム(Total Thrombus-formation Analysis System: T-TAS®)では,経時的な血栓動態の定量解析が可能であり,これを用いて全血流下で作成された血栓における線溶活性定量評価の可能性を紹介する(項目4).

総説
  • 髙見 英輔, 中野 宏俊, 友清 和彦, 白幡 聡
    原稿種別: 総説
    2023 年 34 巻 3 号 p. 345-354
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/14
    ジャーナル フリー HTML

    活性化血液凝固第VII因子(FVIIa)の血中半減期は約2.8時間なのに対して,血液凝固第X因子(FX)の半減期は約22.7時間と約8倍長い.酵素反応速度論的観点から,血漿中FXを高濃度で維持することによりFVIIaが誘導する外因系凝固活性の増強と持続を目的に,FVIIaとFXを1:10の重量比で配合したFVIIa/FX配合製剤が新規バイパス止血製剤として開発された.本剤は2014年の上市以降,インヒビター保有先天性血友病患者と後天性血友病患者の止血管理に広く用いられてきた.さらに,定期投与の臨床試験が実施され,2022年に「出血傾向の抑制」が適応追加された.一方,emicizumabや他のバイパス止血製剤との併用時の安全性に関する情報の集積は今後の課題である.

トピックス
トピックス 新型コロナウイルス関連シリーズ
症例報告
原著
  • 竹谷 英之, 白幡 聡, 酒井 道生, 德川 多津子, 岩崎 勝彦, 坂下 尚孝, 正路 章子, 吉原 圭亮
    原稿種別: 原著
    2023 年 34 巻 3 号 p. 381-393
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/14
    ジャーナル フリー HTML

    背景:血友病患者の身体活動の阻害要因を理解することは,身体活動の活性化による長期的な生活の質の向上を図る上で鍵となるが,患者報告アウトカムで阻害要因を評価しうる言語検証済みの日本語の質問票は存在しない.

    目的:Barriers to Being Active Quiz(BBAQ-21)の英語版原文から日本語版を作成し,日本人血友病患者における言語的妥当性を検証する.

    方法/結果:独立した2つの順翻訳を基に1つの順翻訳を作成した.順翻訳から逆翻訳を作成し,英語版原文との文章表現的同義性を確認した.血友病患者を対象に認知インタビューを行い,順翻訳の言語的妥当性を検証して修正すべき点を特定し,BBAQ-21日本語版を最終化した.

    結論:BBAQ-21日本語版を作成し,言語的妥当性を確認した.BBAQ-21を利用することで,日本人血友病患者の身体活動の阻害要因を評価することが可能となった.

研究四方山話
海外研究室Now
ジャーナルクラブ
feedback
Top