2023 年 34 巻 5 号 p. 572-578
がん治療中に発生する血栓塞栓症は,これまでにも重要な問題であったが,がん患者の予後の改善に伴い,その対応が,益々重要になってきている.近年では,腫瘍領域と循環器領域が融合する腫瘍循環器の一分野としても,その重要性が認識されており,医療現場では,腫瘍系および循環器系の診療に携わる者が,互いに協力して対応する必要があると考えられる.がん関連血栓症の中で,日常臨床において遭遇する機会が特に多いのは静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)であるが,がん関連VTEは,再発リスクおよび出血リスクのいずれも高く,抗凝固療法の管理に難渋する事が多い.がん関連VTEに対しても,近年,直接型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant: DOAC)とよばれる新しい抗凝固薬が登場し急速に普及しつつあるが,同分野でのエビデンスは未だに不足しており,今後,さらなる臨床経験を蓄積し,日本からも世界に向けた情報発信が強く期待される.