日本血栓止血学会誌
Online ISSN : 1880-8808
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34 巻, 5 号
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Editorial
特集:がんと血栓症
  • 向井 幹夫
    原稿種別: 特集:がんと血栓症
    2023 年 34 巻 5 号 p. 538-548
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/24
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    がんと血栓症の関係は古くはトルソー症候群として,そして現在はがん関連血栓症と定義され,両者は密接な関係にあることが知られている.さらに,がん治療において出現する心血管合併症の中で最も発症頻度が高いがん関連静脈血栓症に対する治療は直接経口抗凝固薬の登場により大きく進化しており,各学会において予防と治療を中心とした診療ガイドラインが作成され,最新のアップデートがなされている.その一方で,Onco-Cardiologyのような新しい領域ではがん治療の進歩のスピードに実臨床でのエビデンスの創出が追いついていないため,臨床の現場で鍛えられたエキスパートオピニオンによる臨床実践判断が重要である.そして,抗凝固療法に制限が存在する本邦では「がんと血栓症」対する独自のエビデンスの蓄積とエキスパートオピニオンを生かしたフレキシブルなガイドラインが策定されることが期待される.

  • 横山 健次
    原稿種別: 特集:がんと血栓症
    2023 年 34 巻 5 号 p. 549-555
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/24
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    がん細胞と血小板には相互作用があり,がん細胞が血小板を活性化するとともに活性化された血小板はがんの成長,進行を促進する.活性化された血小板はがん関連血栓症(cancer-associated thrombosis: CAT)発症に関与しており,血小板数高値は固形がんでは静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)発症のリスク因子である.一方で抗血小板薬であるアスピリンがCAT予防に有効とされるのは,一部の造血器腫瘍に限られている.CATを発症したがん患者では,抗凝固療法,抗血小療法が必要になるが,がん患者ではしばしば血小板が減少することがあり,薬剤の選択,投与量は考慮する必要がある.アスピリンは,血小板活性化により促進されるがんの成長,進展を抑制する可能性があり,実際アスピリン投与によりがん,特に大腸がんの発症率・死亡率が低下するとの報告もある.一方でアスピリンの有効性を否定する報告もあり,アスピリンががんの進展を抑制する効果はあったとしても限定的であろう.

  • 窓岩 清治
    原稿種別: 特集:がんと血栓症
    2023 年 34 巻 5 号 p. 556-565
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/24
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    がんに伴う血栓の形成には,腫瘍による圧排や患者の臥床などによる血流の停滞,がん薬物療法やカテーテル留置などによる内皮傷害とともに,がんが増殖し進展する過程で生じる血小板-血液凝固系の活性化や線維素溶解(線溶)系の抑制,免疫機構などが関わる.組織因子はがん化の過程で発現が亢進し,選択的スプライシングによる可溶型組織因子はがんの増殖や血管新生を促進する.がん由来のマイクロパーティクルは,血小板などと膜の融合を介してRNA情報を付与しがんの進展に関与する.がん-フィブリン-血小板凝集塊は,上皮間葉様転換により可塑性と運動性を獲得した循環がん細胞が脆弱性を克服し免疫監視機構から逃れる術であるが,宿主の止血機構に大きな負荷を与える.MET oncogeneはがんの進展と組織因子を関連付けるとともに,がんに合併する播種性血管内凝固の発症に関わる.

  • 勝見 章
    原稿種別: 特集:がんと血栓症
    2023 年 34 巻 5 号 p. 566-571
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/24
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    人口の高齢化,がん薬物療法の進歩により,心血管リスクを有する化学療法や,がんサバイバーが増加している.複数の研究により心血管疾患を持つがんサバイバーの長期予後が,心血管疾患を持たない場合よりも不良であることが報告されていることから,がん治療関連心機能障害cancer therapy-related cardiac dysfunction(CTRCD)の重要性が注目されている.本稿ではESCガイドラインを中心に,CTRCDの定義,疫学,化学療法前のリスク評価,心血管マネージメントの重要性,心筋保護につき概説する.

  • 山下 侑吾
    原稿種別: 特集:がんと血栓症
    2023 年 34 巻 5 号 p. 572-578
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/24
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    がん治療中に発生する血栓塞栓症は,これまでにも重要な問題であったが,がん患者の予後の改善に伴い,その対応が,益々重要になってきている.近年では,腫瘍領域と循環器領域が融合する腫瘍循環器の一分野としても,その重要性が認識されており,医療現場では,腫瘍系および循環器系の診療に携わる者が,互いに協力して対応する必要があると考えられる.がん関連血栓症の中で,日常臨床において遭遇する機会が特に多いのは静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)であるが,がん関連VTEは,再発リスクおよび出血リスクのいずれも高く,抗凝固療法の管理に難渋する事が多い.がん関連VTEに対しても,近年,直接型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant: DOAC)とよばれる新しい抗凝固薬が登場し急速に普及しつつあるが,同分野でのエビデンスは未だに不足しており,今後,さらなる臨床経験を蓄積し,日本からも世界に向けた情報発信が強く期待される.

  • 川口 龍二
    原稿種別: 特集:がんと血栓症
    2023 年 34 巻 5 号 p. 579-583
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/24
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    悪性腫瘍(がん)が存在すると血栓傾向になることは古くから知られている.いわゆるトルソー症候群とは,本来,「悪性腫瘍に合併する凝固能亢進状態(hypercoagulable state)あるいは汎発性血管内血液凝固症候群(disseminated intravasicular coagulatiom: DIC)とそれに伴う遊走性血栓性静脈炎」のことを指すが,現在では「がん患者に発症する血栓症」というもう少し広い意味でも使用されている.このトルソー症候群の概念は,近年では,がん関連血栓症(cancer associated thrombosis: CAT)として知られ,がん治療医だけでなく,循環器内科医にとっても重要な疾患と認識されるようになってきた.近年のがん患者の増加やがんに罹患する患者の高齢化にともない,今後,ますますがん患者に合併する血栓症の頻度は高くなると考えられており,CATの概念とその取扱いについて熟知する必要がある.

  • 畑 泰司
    原稿種別: 特集:がんと血栓症
    2023 年 34 巻 5 号 p. 584-589
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/24
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    消化器がん治療におけるvenous thromboembolism(VTE)は大きく,1次予防と治療及び2次予防に分けて考える必要がある.1次予防としては主たる治療である手術時の予防があげられる.欧米においてVTEは循環器疾患の中でも3大致死的血管疾患と認識されており,多くのデータが蓄積されて周術期の予防ガイドラインにも反映されてきた.一方本邦では2004年に初のガイドラインが発刊されたが,内容は海外のデータを参考に日本の現状に合わせたものとして作成され,現在でも内容にはあまり変更はない.しかし血栓形成や出血傾向には人種差もあることから今後は日本人でのデータの蓄積とそれを踏まえたガイドラインの改訂が望まれる.治療及び2次予防において,海外ではがん患者のVTE治療や2次予防薬としてdirect oral anticoagulants(DOAC)がすでに推奨されている.このDOACの登場によってより安全で効果的にがん治療と並行したVTE治療や2次予防ができるようになってきた.

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