2011 年 57 巻 6 号 p. 490-499
【背景】輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury:TRALI)の病因に,抗HLA Class II抗体による標的抗原陽性単球の活性化が関与していると考えられる.また,TRALIの特徴的な症状である肺水腫は血管透過性の亢進により誘導される.
【方法】TRALIにおける肺水腫の形成に抗HLA Class II抗体と単球が関与する可能性を調べるため,TRALIの原因製剤となった抗HLA Class II抗体陽性血漿(抗HLA-DR血漿)存在下で,ヒト末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell:PBMNC)とヒト肺微小血管内皮細胞(human lung microvascular endothelial cells:HMVEC)を共培養し,血管透過性亢進の有無を調べた.同様の実験を正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells:HUVEC)を用いて行った.血管透過性は,共培養に添加した蛍光標識デキストランの透過性を測定することにより評価した.
【結果】抗HLA-DR血漿存在下でPBMNCsとHMVECsまたはHUVECsを共培養することにより,血管内皮細胞の透過性が亢進した.この作用は抗体の特異性に依存していた.共培養にplatelet activating factor(PAF)のアンタゴニストであるCV-3988を添加することにより,血管透過性亢進作用はほぼ完全に抑制された.抗TNF-α中和抗体単独及び同抗体と抗IL-1β中和抗体の両方を共培養に添加することにより,HMVECsとHUVECの透過性亢進作用はそれぞれ部分的に抑制された.
【考察】抗HLA Class II抗体の存在下で標的抗原を発現する単球と血管内皮細胞を共培養することにより,血管透過性亢進が誘導された.この反応にPAF,TNF-αまたはIL-1βが関与していると考えられた.従って,抗HLA Class II抗体による単球の活性化は,TRALIにおける肺水腫の病態形成に関与することが示唆された.