日本輸血細胞治療学会誌
Online ISSN : 1883-0625
Print ISSN : 1881-3011
ISSN-L : 1881-3011
コンピュータクロスマッチの導入効果
交差適合試験で抗グロブリン法を省略した利点とリスクの検討
湯本 浩史内林 佐知子山下 朋子茂籠 弘子程原 佳子岡部 英俊
著者情報
ジャーナル フリー

2006 年 52 巻 6 号 p. 669-677

詳細
抄録

コンピュータクロスマッチは, ヒューマンエラーによるABO型不適合輸血の防止が最大の目的であるが, コンピュータクロスマッチ導入により, 検査業務の大幅な省力化や血液製剤準備時間の大幅な短縮が期待でき, 余剰な血液製剤の準備が削減できる. 当院では2002年6月, 輸血業務24時間体制の構築を目指しコンピュータクロスマッチを導入した.
コンピュータクロスマッチによる出庫適合条件は, 患者輸血検査が下記 (1) かつ (2) の条件を満たす場合にコンピュータクロスマッチ適合とした. (1) 異なる時間に (緊急時においても, 少なくとも10分以上の間隔をあけて) 採取した検体で2回以上血液型検査を実施し, 血液型が確定していること. (2) 不規則抗体検査が輸血予定日の7日以内に実施され抗体陰性 (過去においても抗体陰性) であること
2002年6月1日から2004年12月31日までの期間において赤血球製剤の輸血を受けた患者1,311名を対象に調査した. 対象期間中の赤血球製剤総輸血本数は9,181本, その内コンピュータクロスマッチで出庫したのは8,936本 (97.3%) であった. コンピュータクロスマッチによって輸血された全症例で溶血性輸血副作用の報告はなかった. 不規則抗体検査を7日以内の間隔で実施して, コンピュータクロスマッチで出庫し輸血後に不規則抗体が陽性になった症例が11例あった. その中で抗Jka抗体の症例で輸血後に軽度の溶血所見が確認された. しかし, 輸血前の保存血清を用いて抗体スクリーニング検査をPEG抗グロブリン法で再検査したが, 抗体は検出不可能であった. そのため, 血清学的交差適合試験を実施しても不適合血の検出は困難であったと考えられた. また, コンピュータクロスマッチの導入効果として手術室への血液製剤搬送に導入前は平均45分要していたが, 導入後は交差適合試験時に抗グロブリン法省略したことにより, オーダーから手術室への搬送が5分以内に短縮された. さらに, 抗グロブリン法を省略したことにより, 平均1日4.5時間の業務量を省力化することができ, 日当直技師の輸血検査に対する精神的負担も軽減された. 廃棄血はコンピュータクロスマッチ導入前5年間の平均4.6%から, 導入後は2003年度1.8%, 2004年度1.6%となり減少した.
コンピュータクロスマッチは, 迅速に血液製剤が出庫でき, ABO型不適合輸血防止にも有用であった. また, 赤血球製剤の廃棄率が減少し, 血液製剤の有効利用にもつながった.

著者関連情報
© 日本輸血・細胞治療学会
前の記事 次の記事
feedback
Top