日本野生動物医学会誌
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特集
野生動物の致死調査
石川 創
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2010 年 15 巻 1 号 p. 9-14

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抄録

野生動物の研究においては,致死的な捕獲を伴う研究が必要な場合がしばしばある。致死的な捕獲は,動物分類学,比較解剖学,疾病の評価,食物嗜好の研究,環境汚染物質の評価,その他多くの科学的必要性から行われる。現在行われている致死的な調査の対象種は,日本産哺乳類に限っても,小さなものはネズミ・モグラ類から大きなものはクマ,シカ,クジラ類までさまざまである。捕獲を伴う調査は,致死・非致死を問わず,通常は研究者が都道府県に申請して捕獲許可を得る必要がある(一部種類については環境大臣,農林水産大臣許可)。動物福祉の観点からは,致死的調査の計画作成にあたって,(1)標本から得られる科学データが過去の文献で得られる情報で代替できない,あるいは過去すでに採集され利用可能な標本が存在しないこと,(2)必要な情報が他の非致死的手法では得られないこと,(3)目的以外の種の捕獲可能性を最少にすること,(4)採集される標本の数,性別,年齢層などが目的の達成に適切であるにと,(5)捕獲によってその対象種,地域個体群,系統群などに影響を及ぼさないこと,(6)捕獲される標本は可能な限り早く殺されることなどが求められる。特に(6)に関しては,動物種に応じた野外における安楽殺法の選択が必要となる。野生動物の致死調査に関する動物福祉面の評価は,国内では法的根拠がないこともあり,研究者・研究機関によって対応に違いがある。今後客観的な評価を可能とするためには,国内の事情に応じたガイドラインの充実が必要である。

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© 2010 日本野生動物医学会
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