抄録
ホッキョクギツネ (Vulpes lagopus) の咀嚼筋を肉眼的に解剖し,その構造を検索した。咬筋は,表層,中間層,深層の3つの層に区分することができた。表層は2つの部位に分けられ,その外側部は腱膜によって背側に大きく曲がった頬骨弓から起始し,下顎骨の腹縁と角突起の外側に筋質によって終止していた。また。内側部は下顎骨外側の腹側後方に腱膜によって終止していた。さらに,咬筋深層の前方には,下顎骨筋突起の前縁を覆うよく発達した側頭筋が認められた。ホッキョクギツネは,背側に大きく曲がった頬骨弓によって咬筋の筋量を増し,また下顎骨筋突起に終止する側頭筋を大きく発達させることで,頭骨の小型化に伴う咀嚼力の減少を補っている可能性が考えられる。