日本野生動物医学会誌
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原著論文
ソマリノロバにおける糞中の性ステロイドホルモン代謝物の同定とその排泄パターンからみた卵巣周期と妊娠
木仁楠田 哲士柴田 枝梨土井 守
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2014 年 19 巻 2 号 p. 49-56

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抄録

 雌ソマリノロバの生殖状態を非侵襲的にモニタリングする内分泌学的手法の確立を目的とした。プロジェステロン(P4),エストラジオール-17β(E2)およびエストロン(E1)抗体を用いた酵素免疫測定(EIA)法により糞中のプロジェスタージェンとエストロジェンを測定した。また,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と EIA法を併用し,妊娠の各ステージの糞中に排泄されるこれらの性ステロイドホルモン代謝物の同定を行った。非妊娠期のソマリノロバの糞中プロジェスタージェン含量の変化は卵巣周期を示したが,エストロジェンでは周期的な変動が認められなかった。糞中のプロジェスタージェン含量の動態から算出した卵巣周期(±SD)は 22.2±2.9日間であった。妊娠期を通して糞中プロジェスタージェン含量が変化し,特に妊娠 67日と 347日に 2回の急激な増加が認められ,出産(死産)の直前にピーク値を示した。この動態によって算出した妊娠期間は 390日間であった。糞中エストロジェン含量は妊娠 95日から急激な増加を開始し,妊娠中期にピークが認められ,その後出産(死産)までに徐々に減少した。妊娠各ステージの糞中から主に5α-pregnane-3β-ol-20-one,5α-pregnan-3,20-dione,E2および E1が検出された。これらのことから,糞中 5α-pregnane-3β-ol-20-oneまたは 5α-pregnan-3,20-dioneの測定は,卵巣周期と妊娠期のモニタリングに有用であり,糞中 E2または E1の測定は,胎盤内分泌能を捉えるのに有用であると考えられた。

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© 2014 日本野生動物医学会
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