日本野生動物医学会誌
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原著論文
ツシマテン(Martes melampus tsuensis)における精巣および陰茎骨形態の 経時的変化と陰茎骨を用いた齢査定
岡野 司大沼 学
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2015 年 20 巻 1 号 p. 1-7

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抄録

ツシマテン(Martes melampus tsuensis)は長崎県対馬にのみ生息するイタチ科の中型陸棲哺乳類で,環境省の準絶滅危惧種および国の天然記念物に指定されている。本研究では本亜種において,精巣の経時的変化により繁殖季節および性成熟を推測すること,また,陰茎骨の形態に関する知見を得て,それを用いて齢査定を行うことができるかを調べることを目的とした。長崎県対馬において,雄ツシマテン 21頭の交通事故死体を, 1994~ 2012年まで回収した。精巣および陰茎骨を採取,計測し,組織学的または肉眼的に観察した。犬歯のセメント質の暗層を数える方法により年齢を推定した。 1歳以上の精巣長径および精細管直径の値は, 7~ 9月で 1~ 3月および 10~ 12月の値より有意に高かった。 1歳以上の 1~ 6月および 10~ 12月の精細管では,少なくとも減数分裂以降の精細胞がいくらか認められ,7~ 9月では精祖細胞から精子までが認められた。これらより,ツシマテンの繁殖期は 7~ 9月の間であり,生まれの翌年の繁殖期,つまり生後 13~ 15ヵ月後に性成熟に達するものと推測された。ツシマテンの陰茎骨形態は,テン属の一般的な形態であると考えられた。陰茎骨重量は加齢に伴い増加し, 0歳, 1歳,および 2歳以上の各齢区分間で有意な差が認められた。これより,若齢個体において陰茎骨重量をある程度齢査定の指標として用いることができることが判明した。

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