日本野生動物医学会誌
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特集論文
データを目の前にして感じるDisease Ecologyの必要性 -タヌキの疥癬を事例として
松山 亮太淺野 玄鈴木 正嗣
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2016 年 21 巻 3 号 p. 59-63

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抄録

 これまでに著者らは,タヌキ(Nyctereutes procyonoides)-イヌ(Canis lupus familiaris)間におけるセンコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)の交差感染の有無を明らかにすることを目的に,これらの宿主動物に由来するセンコウヒゼンダニ集団について遺伝学的研究を実施してきた。その結果,タヌキ-イヌ間の交差感染に関する遺伝学的証拠を得ることができた。しかし同時に,狭い調査地域においてセンコウヒゼンダニ集団が2つの遺伝的グループに明確に区分されることも明らかとなった。この現象が生じた要因を考察すると,「イヌや野生動物の移動によりダニの移入が生じた可能性」,「センコウヒゼンダニの行動生態に原因がある可能性」,「宿主-センコウヒゼンダニ間の相互作用により,センコウヒゼンダニの遺伝的差異が形成された可能性」が考えられた。それぞれの可能性を検証するには,疫学研究やセンコウヒゼンダニの生態学的研究に加え,disease ecologyの枠組みの中で研究を行う必要がある。

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© 2016 日本野生動物医学会
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