日本野生動物医学会誌
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21 巻 , 3 号
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特集論文
  • 坪田 敏男
    2016 年 21 巻 3 号 p. 47-51
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー

     近年,医学および獣医学から生物多様性保全に貢献する学問分野として保全医学が台頭してきている。感染症問題もこの保全医学からの視点で捉えることが大事で,有効な感染症対策を考えるには,人や家畜での病因学や疫学に関する情報に加えて,野生動物を含む自然界での宿主,ベクターおよび病原体(微生物)の生態についての知識が必要である。本稿では,ライム病および回帰熱Borrelia spp.,Anaplasma spp.,Ehrlichia spp.,Candidatus Neoehrlichia sp.およびBabesia spp.といったマダニ媒介性感染症を例にとり,動物宿主-ベクター-病原体の関係を“disease ecology”の観点から眺める。

  • Shannon L. LADEAU, Barbara A. HAN
    2016 年 21 巻 3 号 p. 53-58
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー

     ここ数十年間,ヒトや家畜,野生動物において新たに確認される疾病の数は増加している。これらの疾病の多くは,環境条件が変化した結果,生物種間の接触頻度が変わることで“emerge現れる”のである。従来の疾病生物学あるいは疫学研究は,対象となる1つの生物種におけるアウトブレイクパターンを理解しようとするものである。しかしながら,疾病管理対策には,野生動物,ヒト,家畜,そして潜在的な媒介動物集団にまたがる生態学的相互作用について,より包括的な理解が必要であることが,ますます明らかになってきている。本論文では,生態系における病原体動態の根底にある生態学的原則について紹介し,“disease ecology”分野の最前線の研究について取り上げる。病原体や寄生虫は,生態系に固有のものであるというよりはむしろ生態系を乱すものと考えられがちであるが,“disease ecology”の基本原理は,個体群および群集生態学の古典論に由来するものである。

  • 松山 亮太, 淺野 玄, 鈴木 正嗣
    2016 年 21 巻 3 号 p. 59-63
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー

     これまでに著者らは,タヌキ(Nyctereutes procyonoides)-イヌ(Canis lupus familiaris)間におけるセンコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)の交差感染の有無を明らかにすることを目的に,これらの宿主動物に由来するセンコウヒゼンダニ集団について遺伝学的研究を実施してきた。その結果,タヌキ-イヌ間の交差感染に関する遺伝学的証拠を得ることができた。しかし同時に,狭い調査地域においてセンコウヒゼンダニ集団が2つの遺伝的グループに明確に区分されることも明らかとなった。この現象が生じた要因を考察すると,「イヌや野生動物の移動によりダニの移入が生じた可能性」,「センコウヒゼンダニの行動生態に原因がある可能性」,「宿主-センコウヒゼンダニ間の相互作用により,センコウヒゼンダニの遺伝的差異が形成された可能性」が考えられた。それぞれの可能性を検証するには,疫学研究やセンコウヒゼンダニの生態学的研究に加え,disease ecologyの枠組みの中で研究を行う必要がある。

  • Sarad PAUDEL, 坪田 敏男
    2016 年 21 巻 3 号 p. 65-69
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー

     ゾウにおける結核は,ヒト型結核の病原体であるMycobacterium tuberculosisによって主に引き起こされる再興感染症の1つである。ゾウからヒトへの伝播が,いくつかの動物園で報告されており,公衆衛生上大きな問題となっている。ゾウの鼻腔洗浄によって得られる呼吸器系サンプルの培養が,ゾウ結核診断の最も信頼できる手法である。しかしながら,この手法の適用はあまり現実的でない。世界の動物園やゾウ飼育施設では,ゾウの結核診断法として抗体検査が開発され,広く使われている。ゾウと象使いでの定期的な結核スクリーニング検査が実施されるべきである。結核陽性の象使いはすぐに隔離され,抗結核薬が処方されるべきである。スクリーニング検査,隔離および治療はゾウとヒトと間での結核伝播を防ぐのに有効であり,飼育ゾウ-野生ゾウ間の結核感染の広がりを抑えることが絶滅危惧種である野生ゾウの保全に貢献することにつながる。

  • 森光 由樹, 福井 大祐
    2016 年 21 巻 3 号 p. 71-72
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー

     環境省は,2015年に「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」を改正した。農林水産省が施行した「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」(2013年改正)では,市町村に,捕獲と被害防除のための予算支援が講じられている。一方で,野生動物感染症による家畜衛生・公衆衛生上の問題が懸念されている。これまで,野生動物医学は,絶滅危惧種の保護増殖,傷病鳥獣の救護,野生動物保護管理,感染症の制御,環境問題などに貢献してきた。しかし,時代の大きな変化とともに社会から求められる獣医師の役割は多様化し変わりつつある。大きな転換期を迎えている。

  • 常田 邦彦
    2016 年 21 巻 3 号 p. 73-79
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー

     狩猟の主な目的は時代とともに変化してきた。近代に入って重要な位置を占めた商業的狩猟の時代はすでに終わり,被害防除のための捕獲の拡大と,レクリエーション狩猟の縮小が現在の特徴となっている。明治時代初期に整備が始まった狩猟法とそれを引き継いだ鳥獣保護法は鳥獣の捕獲に対する規制法であったが,1999年の改正以降性格が変わりつつある。それは,生物多様性の保全を目的とした自然保護法的な性格と,計画制度や事業制度の拡充による科学的計画的な事業の推進という性格が強まっていることである。2014年の鳥獣保護法の改正は,「保護」と「管理」を対立的な狭い概念として法律的に定義したという問題点を持つ一方,個体群コントロールを促進するための指定管理鳥獣捕獲等事業や,事業の適切な担い手確保を意図した認定鳥獣捕獲等事業者制度が創設されるなど,時代の要請に応える内容となっている。改正法の実効性の評価はまだできないが,今後の展開を期待したい。ただし,この改正はやはり対症療法の域に止まっており,現在の社会的状況は鳥獣保護管理の基本的な枠組みの再検討を必要としている。

  • 須藤 明子
    2016 年 21 巻 3 号 p. 81-90
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー

     コロニーにおけるカワウの銃器捕獲は,カワウを拡散させ個体数を増加させる危険があり,カワウでは個体数調整が困難と考えられてきた。しかし,専門的・職能的捕獲技術者による少数精鋭の捕獲体制(シャープシューティング)による,科学的根拠に基づく計画的捕獲は,カワウの個体数調整を可能にすることがわかった。滋賀県では,カワウによる漁業被害,ならびにコロニーにおける植生破壊が深刻であった。様々な被害対策が実行されたが,カワウの個体数も被害も増加し続けた。筆者らは,滋賀県水産課事業として,プロジェクトKSS(カワウシャープシューティング)を開始し,2大コロニー(竹生島と伊崎半島)において,2009~2015年の7繁殖期に,165日間(射手373人日)で, 54,585羽を捕獲した。その結果,県内のカワウ生息数は,繁殖前期(5月)で,37,066羽(2008年)から7,659羽(2015年),繁殖後期(9月)で,74,688羽(2008年)から5,940羽(2015年)に低減した。個体数の減少と連動して,漁業被害は軽減し,植生被害も回復傾向にある。被害の減少によって,カワウを撲滅すべきという声は小さくなった。ほどほどのカワウとなら,共に暮らせるかもしれないという意見が聞かれるようになった。目指すべきゴール「カワウとの共存」は,大規模捕獲によって現実味を帯びてきた。鳥獣保護法の改正に象徴される「捕獲の強化」という社会の要請に応じた,科学的・計画的捕獲の推進は,野生動物医学が果たすべき大きな役割である。

  • 森光 由樹
    2016 年 21 巻 3 号 p. 91-96
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー

     野生動物と人との軋轢は,農業被害だけにとどまらず,近年は「人家侵入」,「器物の破壊」および「人への威嚇」など,生活被害や人身被害にまで拡大し始めている。これらの動物を捕獲する場合,まず猟銃による捕獲が考えられるが,「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」並びに「銃刀法」などの規制から市街地で発砲し捕獲することはできない。そこで,猟銃に比べて極めて威力が小さく,器物破損等の恐れがほとんどない麻酔銃による捕獲が法律改正により使用可能となった。麻酔銃捕獲は,安全な捕獲法ではある。しかし,いくつか課題がある。麻酔銃を所持するには,管轄する都道府県公安委員会(警察)から審査を受けて許可を受けねばならない。また,ガンロッカー等頑丈な保管庫で管理する必要もある。年1回,管轄する警察署による銃検査が行われ使用実績や管理状況について報告する義務が生じる。その一方で麻酔銃は産業銃であるため,猟銃の所持には必要な筆記試験と実技試験が課せられず,銃の基本的な扱いを修得していない者であっても警察の審査さえ通れば所持可能である。安易な導入と使用により,思わぬ事故が誘発されるおそれもある。以上のことから,改正法における麻酔銃の位置づけや運用には,その特徴に起因する様々な問題点の整理と留意とが不可欠と考えられる。

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