日本野生動物医学会誌
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特集論文
冷凍庫と現場をつなぐために ~釧路市動物園におけるタンチョウの保護と死体の活用~
吉野 智生
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2017 年 22 巻 1 号 p. 9-14

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抄録

 釧路市では動物園設立以前から長年タンチョウの保護活動や生態研究が行われ,現在動物園では主に保護収容,傷病治療,死因検索,標本保管,飼育展示や繁殖を実施している。しかし近年の収容件数の増加や,実施主体や所管部署の変更等による過去の記録の散逸が課題である。収容件数増加に伴って蓄積される死体も増加しており,これらを単なる生ゴミや冷凍庫の肥やしのままに貶めないために当園が果たすべき役割は大きい。過去から続く膨大なデータは生息地や個体の変遷を反映し,飼育管理あるいは野外での保全に資する様々な可能性を秘めている。今までにも大学等他機関と連携した標本作製,展示,教育,分析等が行われてきたが,まだ不十分であり,更なる利用のためには統一性のあるデータの整理と標本管理,利用ルール,適切な保管施設が求められる。一方,収容要因の7割は何らかの事故であり,また全体の6割は死体で収容され残りの多くも手の施しようがなくなってから収容される。治療や飼育技術の向上もあり生残例も増えたが,受入れには限界もある。タンチョウの分布拡大に伴い収容地域も拡大し,地域ごとに保護要因は異なるため,事例分析により発生の予測や防止を行い,収容件数を減らす必要がある。またこのような現状はあまり知られていないため,死体,傷病個体,治療経過,各種標本,データ等,様々なものを利用した情報公開や普及啓発が必要である。

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© 2017 日本野生動物医学会
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