日本野生動物医学会誌
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特集論文
野生鳥類の化学物質汚染とその影響:特集記事の趣旨説明
石塚 真由美寺岡 宏樹
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2017 年 22 巻 4 号 p. 55

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抄録

野生鳥類は陸上における最も身近な野生動物でありながら,

必ずしも充分な研究が行われているわけではない。しかし,世

界的にダイオキシン類,金属類,農薬など,様々な化学物質に

よる野生鳥類の中毒事故が絶えない。通常,生物は環境化学物

質に対抗するための生体防御機構を有しているが,鳥類では哺

乳類に比較して多くの環境物質に対する感受性が高いことが報

告されている。一方,野生鳥類が高度に濃縮する化学物質も知

られており,事故による犠牲を含めて,回収された死体は生息

域の汚染状況を物語る貴重な試料であるとも言える。

 本特集は,2015 年7 月30 日(木)~ 8 月2 日(日),酪

農学園大学で開催された第21 回日本野生動物医学会大会にお

ける学会主催シンポジウム『野生鳥類の化学物質汚染とその影

響』(7 月31 日)を契機として企画されたものである。本シ

ンポジウムでは,実際に頻発している中毒事故や化学物質汚染

の実態,さらに野生鳥類の化学物質感受性のメカニズムに関す

る最新の知見が報告された。

 特集記事は以下の4 編の総説から構成される。

1.ダイオキシン感受性因子としての鳥類AHR1 遺伝子型と生

態要因の関係

  Ji-Hee Hwang1),Hisato Iwata2),Eun-Young Kim1, 2)

  (1)Department of Life and Nanopharmaceutical Science and

Department of Biology, Kyung Hee University,2)愛媛大学沿

岸環境科学研究センター)

2.野生鳥類におけるダイオキシン類のエコトキシコロジー

  久保田 彰(帯広畜産大学獣医学研究部門基礎獣医学分野,

動物・食品検査診断センター)

3.鳥類で起こっているケミカルハザードとそのメカニズム

  中山翔太,水川葉月,池中良徳,石塚真由美(北海道大学大

学院獣医学研究科)

4.北海道における野生鳥類の石油汚染・中毒とサハリン開発

がもたらす脅威

 齊藤慶輔(猛禽類医学研究所)

 本特集が野生鳥類の化学物質汚染に関する研究の発展に少し

でも寄与することを願ってやまない。

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