野生鳥類は陸上における最も身近な野生動物でありながら,
必ずしも充分な研究が行われているわけではない。しかし,世
界的にダイオキシン類,金属類,農薬など,様々な化学物質に
よる野生鳥類の中毒事故が絶えない。通常,生物は環境化学物
質に対抗するための生体防御機構を有しているが,鳥類では哺
乳類に比較して多くの環境物質に対する感受性が高いことが報
告されている。一方,野生鳥類が高度に濃縮する化学物質も知
られており,事故による犠牲を含めて,回収された死体は生息
域の汚染状況を物語る貴重な試料であるとも言える。
本特集は,2015 年7 月30 日(木)~ 8 月2 日(日),酪
農学園大学で開催された第21 回日本野生動物医学会大会にお
ける学会主催シンポジウム『野生鳥類の化学物質汚染とその影
響』(7 月31 日)を契機として企画されたものである。本シ
ンポジウムでは,実際に頻発している中毒事故や化学物質汚染
の実態,さらに野生鳥類の化学物質感受性のメカニズムに関す
る最新の知見が報告された。
特集記事は以下の4 編の総説から構成される。
1.ダイオキシン感受性因子としての鳥類AHR1 遺伝子型と生
態要因の関係
Ji-Hee Hwang1),Hisato Iwata2),Eun-Young Kim1, 2)
(1)Department of Life and Nanopharmaceutical Science and
Department of Biology, Kyung Hee University,2)愛媛大学沿
岸環境科学研究センター)
2.野生鳥類におけるダイオキシン類のエコトキシコロジー
久保田 彰(帯広畜産大学獣医学研究部門基礎獣医学分野,
動物・食品検査診断センター)
3.鳥類で起こっているケミカルハザードとそのメカニズム
中山翔太,水川葉月,池中良徳,石塚真由美(北海道大学大
学院獣医学研究科)
4.北海道における野生鳥類の石油汚染・中毒とサハリン開発
がもたらす脅威
齊藤慶輔(猛禽類医学研究所)
本特集が野生鳥類の化学物質汚染に関する研究の発展に少し
でも寄与することを願ってやまない。
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