日本野生動物医学会誌
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特集論文
希少種における倫理的課題 -鳥類における事例-
齊藤 慶輔
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2020 年 25 巻 2 号 p. 57-60

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抄録

 猛禽類医学研究所が活動拠点としている環境省釧路湿原野生生物保護センターには,絶滅の危機に瀕した猛禽類が様々な原因により傷病収容されており,一命を取り留めたものの後遺症により野生復帰が困難になったものも多い。国内希少野生動植物種については,重要感染症に罹患しているなどの特別な理由がない限り,安楽殺という選択肢が無いに等しい。動物園などに譲渡を打診しているものの,外見上明らかに後遺症がわかる動物についてはほとんど引き取り手がないのが実情だ。動物福祉の観点から,終生飼育となった個体が可能な限り快適な余生を過ごせるよう努力しているが,これらの動物の飼育管理に割り当てられる専用の予算は環境省から支給されていない。2017年4月,同研究所は終生飼育個体を環境省の事業対象から切り離す手続きを経て,個体の活用許可と引き替えに,飼育管理や餌に要する費用一切を独自に調達することを引き受けた。現在,これらの個体を用いて,事故防止器具の開発や輸血のドナーとして活用している。平成30年に種の保存法が改定された際,同法の施行規則で傷病個体の殺傷(殺処分)が適用除外行為として位置づけられた。致死的研究や殺処分が種の保存法において明文化されたものの,安易な希少種の殺傷が行われることの抑止として,根拠に基づく適切な判断が運用段階で行われるためのガイドラインの策定が早急に求められている。

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