日本野生動物医学会誌
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25 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
特集論文
  • 森光 由樹, 淺野 玄
    原稿種別: 特集
    2020 年25 巻2 号 p. 41
    発行日: 2020/06/23
    公開日: 2020/08/24
    ジャーナル フリー
  • 川瀬 啓祐, 椎原 春一
    原稿種別: 特集
    2020 年25 巻2 号 p. 43-47
    発行日: 2020/06/23
    公開日: 2020/08/24
    ジャーナル フリー

     近年,動物園や水族館における野生動物の飼育に対する疑念が世界的に広まりつつある。2015年に世界動物園水族館協会は「野生生物への配慮 世界動物園水族館動物福祉戦略」を打ち出し,動物園水族館における動物福祉向上に取り組んでいく姿勢を強めている。上述の戦略の中で,動物福祉向上の具体的な取り組みとして環境エンリッチメントとハズバンダリートレーニングを推奨しており,現在,日本の多くの動物園や水族館で取り組まれている。近年,日本の動物園では飼育動物の高齢化などの多くの課題があげられており,今後こうした課題に対してガイドラインの策定などが必要であると考えられる。

  • 赤木 智香子
    原稿種別: 特集
    2020 年25 巻2 号 p. 49-55
    発行日: 2020/06/23
    公開日: 2020/08/24
    ジャーナル フリー

     動物の福祉とはその個体の身体的・精神的健全性を指す用語であり,「5つの自由」や「5つの領域モデル」がその世界的な基本として知られている。欧米各国の動物福祉基準のベースである動物福祉法は,英国では全脊椎動物が対象であるのに対して,米国では基本的に哺乳類のみである。救護動物の福祉に関しては,救護施設の最低要件全般をまとめたもの,あるいは動物群別に各種要件を記載したものなどNGOによる詳細な基準が欧米には存在している。一方,優れた救護施設の基準が国の基準として採用されているケースもある。個別に発展してきた動物の福祉と倫理ではあるが,現在では両者は複雑に絡み合い切り離すことはできないとの認識であり,動物倫理からさらに大きな枠組みの環境倫理へと視点が移りつつある。このような欧米の状況と比較して,日本の救護動物の福祉は後れを取っている。法律や福祉基準が十分に整備されておらず,収容動物のQOL改善もままならないケースも少なくない。今後はフリーレンジの野生動物としての尊厳を担保しつつ,良い動物福祉の達成を生物多様性保全へとつなげていけるよう,安易な終生飼育の回避などの救護動物の最終処遇も含め,広い視野に立った救護動物の福祉への取り組みが求められる。

  • 齊藤 慶輔
    原稿種別: 特集
    2020 年25 巻2 号 p. 57-60
    発行日: 2020/06/23
    公開日: 2020/08/24
    ジャーナル フリー

     猛禽類医学研究所が活動拠点としている環境省釧路湿原野生生物保護センターには,絶滅の危機に瀕した猛禽類が様々な原因により傷病収容されており,一命を取り留めたものの後遺症により野生復帰が困難になったものも多い。国内希少野生動植物種については,重要感染症に罹患しているなどの特別な理由がない限り,安楽殺という選択肢が無いに等しい。動物園などに譲渡を打診しているものの,外見上明らかに後遺症がわかる動物についてはほとんど引き取り手がないのが実情だ。動物福祉の観点から,終生飼育となった個体が可能な限り快適な余生を過ごせるよう努力しているが,これらの動物の飼育管理に割り当てられる専用の予算は環境省から支給されていない。2017年4月,同研究所は終生飼育個体を環境省の事業対象から切り離す手続きを経て,個体の活用許可と引き替えに,飼育管理や餌に要する費用一切を独自に調達することを引き受けた。現在,これらの個体を用いて,事故防止器具の開発や輸血のドナーとして活用している。平成30年に種の保存法が改定された際,同法の施行規則で傷病個体の殺傷(殺処分)が適用除外行為として位置づけられた。致死的研究や殺処分が種の保存法において明文化されたものの,安易な希少種の殺傷が行われることの抑止として,根拠に基づく適切な判断が運用段階で行われるためのガイドラインの策定が早急に求められている。

  • 森光 由樹
    原稿種別: 特集
    2020 年25 巻2 号 p. 61-66
    発行日: 2020/06/23
    公開日: 2020/08/24
    ジャーナル フリー

     日本野生動物医学会で扱う対象種は,脊椎動物全般と多岐にわたり,それぞれの種で生命倫理の考えは異なっており,すべての種で統一した倫理規定を策定することは難しい状況にある。日本野生動物医学会では,「野生動物医学研究における動物福祉に関する指針」を2010年度施行している。しかし,近年の国際動向と合わない内容も含まれており,野外研究におけるガイドラインの改訂は急務である。

  • 淺野 玄
    原稿種別: 特集
    2020 年25 巻2 号 p. 67-70
    発行日: 2020/06/23
    公開日: 2020/08/24
    ジャーナル フリー

     野生動物における動物福祉に関する法律や規則の整備は,家畜や実験動物に比べて遅れているといっても過言ではないだろう。日本野生動物医学会では,野生動物の福祉や倫理の現状と課題についての議論を重ね,「野生動物医学研究における動物福祉に関する指針」(2010)を策定している。しかし,野生動物福祉に関する近年の国際動向の変化などから,現在の指針の改定が求められていた。本学会が対象種とする野生動物は,魚類から哺乳類まで多種に及ぶだけでなく,研究・飼育動物実験・飼育展示・傷病鳥獣・教育・愛玩飼育などの取り扱いの状況も多様である。そのため,対象とする野生動物の種や取り扱いの状況によらない基本的な指針を策定した後,分類群や取り扱い状況に応じた個別のプロトコルを順次策定する予定である。改定にあたっては,国内外の関係学術団体や教育・研究機関との連携も必要だろう。

原著論文
  • 若松 小百合, 中村 美里, 松代 真琳, 角川 雅俊, 嶋本 良則, 遠藤 大二, 郡山 尚紀
    原稿種別: 原著論文
    2020 年25 巻2 号 p. 71-80
    発行日: 2020/06/23
    公開日: 2020/08/24
    ジャーナル フリー

     海棲哺乳類の排泄物は海洋環境において重要な栄養源となっているが,飼育下の海棲哺乳類はその水質によって健康を損なう可能性がある。本研究ではその水質に着目し,細菌の群集解析を行うことで,それぞれの動物種の飼育水の細菌学的特徴を明らかにすると共に感染症を引き起こす原因菌のスクリーニングを行うことを目的とした。おたる水族館で飼育されている鰭脚類と鯨類を含む計10の飼育水と元の海水について次世代シークエンサにて細菌の塩基配列を調べ,細菌の群集解析を行った。その結果,飼育水の特徴としては,Proteobacteria,Bacteroidetes,Firmicutesが元海水と共通して見られたが,FusobacteriaおよびOD1・GNO2といった培養不能細菌門は飼育水に特徴的であった。各動物の飼育水細菌叢は鯨類や鰭脚類においてそれぞれ特徴的であったが,鰭脚類においてワモンアザラシは他との類似性が低かった。飼育水には環境中に存在する日和見菌がわずかに見つかったが,伝染性細菌やその他公衆衛生上特に注意すべき細菌は認められなかった。今後,他の水族館の飼育水についても調べることで,より理想的な海棲哺乳類の飼育環境づくりに繋がることが期待される。

研究短報
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