2021 年 26 巻 3 号 p. 87-101
ハンドウイルカ(Tursiops truncatus)は,国内の水族館で一般的に飼育されている鯨種である。本種は,呼吸器感染症の罹患率が高い。その主な病原体(起因菌)は細菌であるが,その他に真菌も起因菌になることがある。国内の水族館では,カンジダ(Candida)属やアスペルギルス(Aspergillus)属の真菌が起因真菌として最も重要である。これらの真菌は,水族館を含むあらゆる環境中に常在し,容易に周囲の環境から本種の飼育環境に飛散するため,飼育環境中の真菌を清浄化することは困難である。以上より,国内の水族館では,現飼育個体群の健康および飼育頭数を維持,確保するために,呼吸器細菌感染症と同様,妊娠,授乳中の母獣やその子獣を含む本種の呼吸器真菌感染症についても予防し,また,適切に診断,治療することが必要である。本稿では,本種の呼吸器真菌感染症についてより一層の理解を深められるように,その現状および名古屋港水族館における臨床研究成果を中心に解説する。さらに,妊娠,授乳中の母獣やその子獣を含む本種の呼吸器真菌感染症の治療を通して見えてきた今後の課題についてもあわせて解説する。