日本野生動物医学会誌
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総説
ワクチニアベクターワクチン開発と野生動物への適用の可能性
大石 和恵丸山 正
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2022 年 27 巻 2 号 p. 111-118

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抄録

パンデミックをもたらした新型コロナウイルス感染症COVID-19に対して,これまでに使用実績のない新型ワクチンが使われている。これには、抗原を発現する系として,核酸を用いるタイプとベクターウイルスを用いるタイプがあり,どちらも大きな効果を挙げているが,熱安定性が低く,保存や輸送に超低温を含む厳格な温度管理を必要とするのが課題である。ワクチニアウイルス(Vaccinia virus, VAC)をベースにしたワクチニアウイルスベクターワクチン(VACV)は,遺伝子工学技術による新型ワクチンの先駆けで,熱安定性・免疫持続性の高さなど天然痘根絶に威力を発揮した種痘の優れた性質を引き継ぎ,自然感染との区別が可能なワクチンである。私たちは35年以上前に,国産の弱毒VACをベースにした安全性の高いVACVの開発研究を開始した。大型動物での評価実験で有効性を示した牛伝染性リンパ腫と牛疫のVACVについて,開発初期の研究としてまず紹介した。野外では欧米で,既に狂犬病のVACVが実用化され,大きな威力を発揮している。現在ではさらに,安全性の高い複製欠損型VACVが開発され,その一部はヒトや獣医領域で使用されている。本稿では,VACVの開発と現況を概説し,野生動物への応用の将来の可能性について考えたい。

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© 2022 日本野生動物医学会
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