日本野生動物医学会誌
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特集
北海道におけるオジロワシHaliaeetus albicillaの生息の現状とその保全
白木 彩子
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1999 年 4 巻 1 号 p. 33-37

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抄録

現在オジロワシ野生復帰プロジェクトが進行し, すでに放鳥も試みられているが, 飼育個体の野外放鳥は, 野生個体群に悪影響をもたらす可能性もあり, その適用は慎重に検討されるべきである。筆者は1991年より, 北海道で繁殖するオジロワシに関する生態学的な調査を行ってきた。その結果, 近年の繁殖状況は良好で, 巣立ち後の生存率も高かった。したがって個体群に対する種の供給量は十分であると推定され, 現時点で放鳥の必要性はないといえる。餌場となる水域の周囲の開発や, 営巣するために必要な大径木を保持する森林の減少によって, 新たなつがいが定着できる好適な営巣環境はほとんど残されていないと考えられる。現行の営巣地の周囲でさえ伐採や開発などが容認される場合もある。また, 多くの繁殖つがいや巣立ち後幼鳥は, 漁船から投棄される雑魚類や水産加工場から捨てられる廃棄物などの, 不安定で永続性の期待できない人為的な餌資源を利用していた。これらの餌の利用によって, 現在の良好な繁殖成績や生存状況が維持されていると考えられることから, この状況が将来にわたって維持される保証はない。将来的に健全な個体群を維持するためには, 繁殖力が旺盛な今, 現行の営巣環境の保護の徹底および餌場としての水域とその周囲林の回復に着手することが必要であるといえる。

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© 1999 日本野生動物医学会
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