日本野生動物医学会誌
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原著
マレーバク(Tapirus indicus)糞便中に認められた虫卵のCOX1およびITS領域塩基配列を指標とした寄生蠕虫類同定の試み
大塚 浩子大沼 学福本 真一郎向井 猛白水 彩千葉 司浅川 満彦
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キーワード: マレーバク, 糞便, 嬬虫卵, COX1, ITS
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2004 年 9 巻 1 号 p. 31-37

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抄録

マラッカ動物園(マレーシア)より札幌市円山動物園に搬入された一頭のマレーバク(Tapirus indicus)の糞便検査を行ったところ,線虫卵と多数の条虫卵を検出した。プラジクアンテル投与後,糞中より条虫片節が採取されたが老熟片節であった。そこで,糞便中の虫卵および駆虫後排泄された片節からDNAを抽出し,ミトコンドリアのcytochrome c oxidase subunit 1(COX1)遺伝子および核ゲノム中に存在するInternal transcrbed spacer領域(ITS)を対象にPCRを行った。このとき,条虫類と線虫類に共通して使用できるプライマーを用いた。その後PCR産物の塩基配列を決定し,BLASTによるホモロジー検索を行った。その結果,ITS領域用プライマーによって得られた,虫卵および片節由来のPCR産物はすべて真菌類ITSの配列と類似していた。一方,COX1用プライマーによって得られた虫卵由来のPCR産物からは2種類の配列が得られ,一つは裸頭条虫科(Anoplocephalidae)のParanoploaephala属に,もう一つは鈎虫科(Ancylostomidae)のAncylostoma属に近縁の配列であった。このことから本研究において応用された方法は,寄生嬬虫相の情報が少ない野生動物の寄生嬬虫症診断法として有用である可能性が示唆された。

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© 2004 日本野生動物医学会
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