抄録
北海道の各地で1985年から1990年にかけて捕獲されたアカギツネVulpes vulpesにおける多包条虫(タホウジョウチュウ)Echinococcus multilocularisの感染率と,地域ごとの環境因子の関係を単回帰および重回帰分析法を用いて分析した。8つのカテゴリーに属する15種類の説明変数のうちから,単回帰分析によってカテゴリーごとに1つ,計8つの変数を選択した。それらを用いたステップワイズ重回帰分析において,以下の重回帰モデルが得られた:Y=0.00979X_1-0.00037X_2+0.23833(Y:平方根-逆正弦変換を行ったキツネにおける多包条虫の感染率,X_1:9月におけるヤチネズミ類Clethrionomys spp.の捕獲数,X_2:50cm以上の積雪のあった日数,r=0.32180,P=0.0001)。ヤチネズミ類の密度が高いほど多包条虫の生活環が成立しやすくなり,積雪による本条虫の感染率への負の効果は,積雪がキツネの捕獲行動を妨げるためであると考えられた。