2025 年 25 巻 p. 38-44
関西理学 25: 38-44, 2025
トップダウン評価の学生や新人セラピストへの指導方法
高橋 優基 1, 2) 前田 剛伸 1,2) 福本 悠樹 3, 4)
東藤真理奈 3, 4) 嘉戸 直樹 1,2) 鈴木 俊明 5)
AbstractYuki TAKAHASHI, RPT, Ph.D.1,2), Takenobu MAEDA, RPT, MS1,2), Yuki FUKUMOTO, RPT, Ph.D.3, 4), Marina TODO, RPT, Ph.D.3, 4), Naoki KADO, RPT, Ph.D.1,2), Toshiaki SUZUKI, RPT, DMSc5)
はじめにPhysical therapists are motion experts who aim to improve the basic movements of daily life, such as turning over, getting up, standing up, and walking. In this paper, we will first introduce the key points we make when teaching students and newcomers about the practicality of movement and its relation to joint movement and life, the story of movement and hypotheses about problems, and innovations in teaching movement analysis through case studies. These topics are important for learning about posture and movement analysis. Next, regarding gradual post-graduate education from student teaching to new and mid-career physical therapists, effective teaching methods and development of clinical skills, importance of on-the-job training and in-hospital training leading to continuous learning, importance of improving clinical reasoning skills through the use of video materials and movement analysis, establishment of team conferences and research groups and relationship between education and skill development will be explained.
————————————————————————————————— J. Kansai Phys. Ther. 25: 38-44, 2025
Keywords: top-down assessment, posture/motion analysis, teaching method
理学療法士は、起き上がる、立ち上がる、歩くなどの 日常生活をおこなううえで基本となる動作の改善を目指 す「動作の専門家」である。著者らが在籍する神戸リ ハビリテーション衛生専門学校および関西医療大学では、
「治せるセラピスト」を養成すべくトップダウン過程での理学療法評価のなかで「姿勢・動作分析」を重点的に指導している。また、神戸リハビリテーション衛生専門学校に卒後教育の場として設置している「研究教育センター」では、動作分析に基づく理学療法の効果を学会で
神戸リハビリテーション衛生専門学校 理学療法学科
神戸リハビリテーション衛生専門学校 研究教育センター
関西医療大学 保健医療学部 理学療法学科
関西医療大学大学院 保健医療研究科
関西医療大学
発表することを新人教育の目標にしている。
姿勢や動作を正確に分析するためには、動作観察が重 要である。理学療法士には症例の生活を理解し、改善が 必要な基本動作の実用性を低下させている現象を関節運 動で捉える能力が求められる。本稿では、姿勢・動作分 析を学ぶうえで重要となる基本動作と生活とのつながり、動作のストーリーと問題点の仮説、動作分析の実践に関 して、学生や新人セラピストを指導する際に工夫してい る点を紹介する。つぎに、学生教育から新人・中堅セラ ピストへの段階的な卒後教育について解説する。具体的 には、効果的な指導方法や臨床スキルの育成、継続的な
Department of Physical Therapy, Kobe College of Rehabilitation and Health
Center for Research and Education, Kobe College of Rehabilitation and Health
Department of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Kansai University of Health Sciences
Graduate School of Health Sciences, Graduate School of Kansai University of Health Sciences
基本動作と生活とのつながり学びにつながる職場内研修(OJT: on the job training)や院内研修の重要性について、広島県や東京都での調査結果を踏まえて紹介する。また、動画教材の活用や、動作分析を通じた臨床推論能力の向上の重要性、チームカンファレンスや研究班の設置が教育とスキル向上に及ぼす影響について解説する。
理学療法評価には、トップダウン過程での評価とボトムアップ過程での評価がある。トップダウン過程での評価には、基本動作と生活の関連が明確になり、仮説された問題点に対して必要な検査測定のみをおこなうため患者への負担が少ないといった特徴がある。著者らはトップダウン過程での理学療法評価を推奨し、学生や新人セラピストを指導している。トップダウン過程での理学療法評価を実践するには、評価の流れや特徴、動作の実用性の要素を理解すること、基本動作と生活とのつながり
(観察する動作の選定理由)を明確にすること、実用性の低下に関連する現象を関節運動で捉えることが必要になる。そのなかでも、著者らは基本動作と生活とのつながりを明確にし、実用性の低下に関連する現象を関節運動で捉えることが重要だと考えている。
トップダウン過程での評価の流れや特徴、動作の実用性の要素(安定性、安全性、スピード、耐久性、社会に容認される方法)については、成書1)や著者らが執筆した本誌第24 巻のトピックス2)をご参照いただきたい。

動作のストーリーと問題点の仮説図1 右荷重反応期
基本動作と生活のつながり(観察する動作の選定理由)については、患者の社会的背景を把握して基本動作と生活の関連を考えることが大切である。学生や新人セラピストは、姿勢や動作の分析から抽出される改善すべき機能障害ばかりに着目してしまう傾向がある。しかしながら、年齢や仕事などによって患者それぞれの生活の認識が異なるため、動作を分析する前に患者の社会的背景を把握する必要がある。また、社会的背景を把握する際には、問診や診療記録から情報を収集するが、これだけでは患者の生活を100%理解することはできない。そのため、収集した情報から想像を膨らませて、患者の生活の質を高めるにあたり、獲得すべき動作がどのような基本動作で構成されているかを明確にする必要がある。
動作の実用性を低下させている要因については、現象 ではなく関節運動で捉えることが大切である。図1に歩 行の右荷重反応期を示す。学生や新人セラピストの動 作観察では、「右の歩幅が短く、歩行のスピードが低下 していた。右初期接地では、右足尖が外側を向いてい た。右荷重反応期には、右下腿が外側に傾斜していた。」のように、生じている現象のみが記載されていることが ある。この動作観察では、右の歩幅の短縮がスピードの 低下に関連していることはわかるが、右の歩幅の短縮が どの関節運動によって生じているかがわからない。また、右初期接地で右足尖が外側を向くことや右荷重反応期に 右下腿が外側に傾斜することも現象であり、どの関節運 動で生じているかが明確になっていない。歩行の両脚支 持期において、右足尖が外側を向くことに関連する関節 運動は4つ、右下腿の外側への傾斜に関連する関節運動 は3つ存在する2)。図1の動作観察であれば、「右の歩幅 が狭く、歩行のスピードは低下していた。左立脚終期に は、左股関節の外旋に伴って骨盤が右回旋していた。右 初期接地では、この骨盤の右回旋によって右足尖が外側 を向いた状態で右踵部から接地していた。右荷重反応期 には、右足関節の背屈によって右下腿が前外側に傾斜し ていた。」と表現すると、機能障害レベルの問題点の仮 説を立てるための異常な関節運動が明確になる。
動作分析の指導方法の工夫動作を解釈する際には、観察された異常な関節運動から機能障害レベルの問題点を考えるが、学生や新人セラピストは、異常な関節運動がすべて機能障害レベルの問題から生じているように考える傾向がある。このような場合には、「動作のストーリー」を立てることが大切である。動作のストーリーを立てるには、「関連図」の作成が有用である。関連図とは、動作の問題点(能力障害)から機能障害の問題点を抽出するまでの過程を図式化したものである。この関連図で明確にすべきことは、①問
題となる動作の実用性の要素、②動作でみられた異常な 関節運動、③正常動作との相違、④異常動作の原因(機 能障害レベルの問題点)である。とくに、②と③を整理 する場合には、動作中の関節運動がもつ意義を理解して おく必要がある。関節運動がもつ意義は、以下の3 種類 に分類される3)。まず、①機能障害により生じている異 常な関節運動である。例えば、歩行の立脚終期には10°の 足関節の背屈が必要となるが、足関節の背屈制限や下腿 三頭筋に筋緊張の亢進があると立脚中期以降の背屈がみ られなくなる。つぎに、②他の関節運動に付随して生じ ている関節運動である。これは隣接関節への運動学的な 影響で、先程の例では足関節の背屈による下腿の前傾が みられないため立脚終期での膝関節の屈曲が困難となる。最後に、③動作をより実用的に遂行するために生じてい る関節運動である。これは動作遂行のための能動的な運 動で、先程の例では前方への移動を股関節の屈曲による 過度な体幹の前傾や、股関節を外旋させて足尖を外側に 向けて足関節背屈の要求を減らして補おうとする。動作 観察では①~③が同時に観察されてしまうが、動作に影 響を与えているものは①である。また、①は他の動作に おいても共通してみられ、②や③の関節運動は動作に依
存して変化する。ただし、時間経過とともに②や③の関節運動に機能障害が生じる場合もある。このように、関節運動がもつ意義に基づいて動作のストーリーを立てると、機能障害レベルの問題点はおのずと限定される。
異常な関節運動から機能障害レベルの問題点の仮説を 立てるという評価の流れについて、症例を提示しながら 学生や新人セラピストを指導する際に工夫している点を 紹介する。症例は、両側の変形性膝関節症で右人工膝関 節全置換術を施行した 70 歳代後半の女性であった。主 訴は「歩いていると腰の右側が重だるくて痛い」であり、ニードは歩行動作の耐久性向上であった。
術後 10 日目の歩行(図2)では、右立脚終期から右遊脚中期にかけて、右膝関節は軽度屈曲位であり、右肩関節の伸展と内転を伴った腰椎の右側屈により骨盤は右挙上し、腰の右側に重だるさと疼痛があった。動作観察で工夫している点としては、動作の特徴を捉えやすくするためにランドマークを通る仮想の線を引き、あえて⼀部分を隠して確認することを推奨している2)。図3のよ
右立脚終期
右遊脚前期
右遊脚初期~中期
右立脚終期 右遊脚前期 右遊脚初期~中期
図2 本症例の術後10 日目における歩行動作
右立脚終期から右遊脚中期にかけて、右膝関節は軽度屈曲位であり、右肩関節の伸展と内転を伴った腰椎の右側屈により骨盤は右挙上していた。

右立脚終期 右遊脚前期 右遊脚初期~中期 右立脚終期 右遊脚前期 右遊脚初期~中期
動作分析のスキル向上のための教育的工夫:学生および新人セラピストへの指導方法図3 本症例の術後10 日目における歩行動作(ランドマークを通る仮想の線あり)
写真の線は、両側の腸骨稜(⾚)、両側の肩峰(⻘)、右上肢(⻩)を示している。ランドマー クを通る仮想の線を引き、あえて⼀部分を隠す(グレー)ことで、関節運動が捉えやすくなる。
うに、両側の腸骨稜のレベルに仮想の線を引くと、右立 脚終期から右遊脚中期にかけて、骨盤が右挙上している ことがわかりやすくなる。さらに、両側の肩峰のレベル、右上肢に仮想の線を引くと、右立脚終期から右遊脚中期 にかけて、腰椎の右側屈で骨盤が右挙上すると同時に右 肩関節が伸展、内転していることがわかりやすくなる。
つぎに、この動作観察の内容から関連図(図4)を用 いて動作のストーリーを立てる。まず、歩行の耐久性を 低下させている異常な関節運動は、右立脚終期から右遊 脚中期に、右膝関節が軽度屈曲位のまま、右肩関節の伸 展と内転を伴った腰椎の右側屈により骨盤が右挙上して いることである。この異常な関節運動を正常動作と比較 し、関節運動がもつ意義に基づいて解釈してみる。正常 歩行 4)では右立脚終期から右遊脚中期において右膝関 節は60°屈曲するが、本症例は右膝関節の屈曲が乏しい ため右足趾クリアランスを確保できず右足尖が床に引っ かかる恐れがあることから「右膝関節屈曲の可動域制 限」が考えられる。そして、本症例は右足尖が床に引っ かからないよう歩行を遂行するために、右肩関節の伸展 と内転を伴って腰椎を右側屈し、骨盤を右挙上させてい た。腰椎を右側屈に作用する筋5, 6)としては、右腰方形筋、右外腹斜筋縦走線維、右腸肋筋、右広背筋下部線維があ る。本症例は、右肩関節の伸展と内転を伴って腰椎を右 側屈していることから、これら4筋で右肩関節の運動に
関与するのは右広背筋下部線維である6)。腰の右側の疼 痛は、この右広背筋の持続的な筋収縮により生じていた。このようなストーリーを立てることで、耐久性の低下の 要因である腰の右側の疼痛についても運動学的に解釈で きる。このように、動作分析をおこなう際には、解剖学 や運動学の知識を用いて関節運動がもつ意義に基づいた 解釈ができるよう指導している。
動作分析のスキルを高めるには、基礎的な解剖学・運動学の知識の定着に加えて、観察を通じた気づき、その背後にある要因を多角的に分析・検討する思考力と判断力の涵養が求められる。とくに、思考力・判断力といった認知的スキルは、単なる知識の習得ではなく、教育者による適切な支援と設計によって培われる側面が強い 7)。さらに、教育の対象が学生と新人セラピストでは、知識や経験、思考の成熟度が異なるため、それぞれに適した教育的アプローチが必要である。ここでは、教育理論の
⼀つであるSL 理論(Situational Leadership Theory)を参照しながら、教育対象の特性に応じた動作分析スキル育成の方法を提案する。
図4 本症例の歩行動作における問題点の仮説
本症例は、歩行の右遊脚相で右膝関節の屈曲が不⼗分であったため、右広背筋に収縮が求められたことで腰部の右側に疼痛が出現し、歩行の耐久性が低下していた。
理学療法士養成校においては、養成校間で偏差値の格差が大きいことが知られている。養成校の偏差値がすべてを示すわけではないが、基礎的な読解力や論理的思考力、学習習慣には⼀定の違いがあると考えられ、それに応じた教育の設計が必要である。
教育理論の⼀つであるSL 理論は、対象者の成熟度に応じて教育者の指導スタイルを変化させるべきであるとする考え方である。この理論において、成熟度とは能力と意欲の両軸で評価され、「M1:能力が不⼗分で意欲も低い段階」「M2:能力は不⼗分だが意欲は高い段階」「M3:能力はあるが意欲が低下している段階」「M4:能力も意欲も高い段階」に分けられる。そして、この成熟度の段階に応じて、順に指示型、コーチ型、支援型、委任型の
4つの指導スタイルが提案されている。たとえば、理学療法学生の多くは、専門的な知識や経験が未熟であるものの、理学療法士になりたいという思いがあり、学習に対する意欲は高く、積極的に知識を吸収しようとする姿勢をもっている。このような学生は、SL 理論における
「能力は不⼗分だが意欲は高い」段階(成熟度M2)に相当すると考えられる。この場合、教育者はコーチ型のスタイル、すなわち指示をおこないながらも積極的に支援し、学習者の思考を引き出す指導が適しているとされる。具体的な教育方法としては、レポートなどの成果物の作成を通して学生の思考を可視化し、それに対して個別にフィードバックをおこなう手法が有効である7)。これにより、知識の定着のみならず、なぜそのような考察に至ったのかといった論理的な説明力を養うことができる。また、運動学的理解の習得段階では、運動と現象の関係性を正確に理解させる必要がある。つまり、動作の実用性低下に繋がっている現象は、それを引き起こしている運動があるという点になる。具体的には、股関節屈曲という運動を理解していても、股関節屈曲の運動に伴い体幹前傾という現象が生じるという対応関係は理解できていないことが多い。そこで、著者らは、知識の定着には、まずは選択式・穴埋め式などの形式で基本用語や関係性を確認し、その後、記述式問題や課題レポートを通じて、知識を使って考える段階へと進ませる授業展開を意識している。
基礎知識の定着後は、体験的かつ能動的な学習へと移行することが効果的 8)とされ、著者らも授業のなかにこれら工夫を組み入れている。仮説を立てて動作を観察し、そこから得られた結果を考察するプロセスを通じて、学生の思考力を促すことができる。たとえば、歩行における立脚側の股関節外転(運動)に伴う体幹の立脚側への傾斜(現象)が認められた場合、股関節外転の筋力低下を疑うことができる。しかし、西守ら9)の報告では、片脚立位において支持側股関節外転(運動)に伴う体幹の支持側への傾斜(現象)が認められた場合の中殿
筋は、むしろ高い筋活動が求められていたことを示して いる。この研究では、足部外側ウェッジをかませており、踵骨外反角度を増加させたうえで運動課題をおこなわせ ているため、このような結果につながっている。このよ うに、⼀見すると異常に見える動作が、実際には適応戦 略である可能性を、体験のなかで理解させることができ る。さらに、シナリオ型ケーススタディをグループワー ク(能動的学習)として導入することで、学生は仮説の 立案、他者の視点の理解、問題の本質の分析、そして解 決策の提案といった⼀連の思考プロセスを実践的に学習 することができる。このような活動は、単なる知識の運 用に留まらず、複雑な臨床状況に対する柔軟な対応力を 養ううえでも有効である。とくに臨床現場へ出てからの ことを考えれば、学生の段階で、異常動作を関節運動に まで落とし込み、理学療法評価をおこなえる機能障害(関 節可動域制限、筋力低下、筋緊張異常、感覚障害)にま で落とし込む能力を獲得させることは重要である10)。
実際の現場における事例紹介臨床教育において、新人セラピストの学習姿勢や課 題への取り組み方について否定的な評価が語られること がある。しかし、学習習慣の変化に関する調査 11)では、学習意欲や学習時間の減少は、男性で 40 代以降、女性 で 30 代以降に生じる傾向があり、新人セラピストはむ しろ学習意欲が高い時期であると考えられる。この背景 には、学びに対するいくつかのバイアスが関与している。新人バイアス(学びは新人の役割とする認識)や、自信 欠如バイアス、固定的知能観(知能は先天的で変化しな いという捉え方)などが学習行動に影響を与えるとされ る。また、学習を他者に秘匿する傾向も指摘されており、これは学習意欲の低下と関係しているようである。⼀方 で、上司や先輩が継続的に学び続ける姿勢を見せること は、部下の学習意欲を高める要因となる。つまり、新人 は指導者の学習行動を観察しており、知識や技能の共有、そして成長の支援を期待していると考えられる。
新人セラピストの特徴として、指導者の学びが秘匿さ れずに、自身は指導者のもとで共に学びたいという志向 性があることを考慮すれば、小グループ制の導入による チームディスカッションは、主体的な学習態度の促進や 学習意欲の向上に有効であると思われる 12)。新人セラ ピストの動作分析においては、知識の不足というよりも、観察視点が⼀面的であり、異常動作の原因を多角的に分 析し、主たる機能障害を抽出することに難渋している印 象がある。すなわち、動作の背景にあるストーリーを構 築することに困難を感じる段階にあるといえる。こうし た状況に対しては、異なる意見を交わし合う環境を整え ることで、多面的な視点の育成を促すことができると思 われる。加えて、症例検討には動画を活用することが推奨 される。動画は繰り返し再生やスロー再生が可能である
ため、異常動作の検出におけるトレーニング素材として優れている。また、単なる動作観察にとどまらず、異常動作の原因やその影響を検討する問題解決型のディスカッションにも応用できる。教育心理学におけるアクティブラーニングの視点からも、動画教材の使用は能動的な学習を促進する効果が認められており、技術習得や動作分析能力の向上に有用であることが示されている13,14)。
経験の浅い理学療法士が多数在籍する病院の例
近年、コロナ禍により臨床実習の環境も変化し、臨床 経験が浅い新人が入社することになり、新人研修プログ ラムの工夫が必要となった。そのようななかで、⼀定水 準のリハビリテーション治療を確保するための教育体制 の整備に関する論文15)より報告する。回復期病棟91 床、そのほか小児外来、訪問リハビリテーション、通所リハ ビリテーションと様々な分野を有しており、理学療法士 61 名(平均経験年数 9.8 年)が在籍する病院の例である。この病院では、経験年数が浅い理学療法士が多いなか、様々な患者に対しての理学療法の知識と技術をどう教 育していくのかが課題であった。まず①新人教育(1年 目)、②中堅教育(2-4年目)、③ベテラン教育(5-10 年目)、④理学療法専門教育(全員)、⑤回復期専門教育の5 つの教育体制を引いた。この組織のなかで注目すべ き点は、新人セラピストに対して中堅層の指導者を2名 配置し、1名は技術指導、そしてもう1人はその他の業 務指導の役割を担い、月に1回上司に目標達成状況など を報告するシステムである。1対1の関係性ではなく第
3の指導者を配置することでハラスメントの抑止や多くの視点で新人の評価およびサポートができる体制になっていると考える。中堅教育やベテラン教育では、新人教育プログラムの講師を担当してもらうことに加えて症例検討会や学会発表を経て、伝える立場を経験する。このように経験の浅い理学療法士が多いなかでも各経験年数に合わせて目標を設定し、その立場で習得すべき技能や知識を育て、さらにその背中を新人セラピストに見せることが学習意欲の向上につながると考える。
こういった新人セラピストに対する指導には多くの時 間を要し、さらに自己研鑽のためとはいうものの限られ た時間のなかで業務との併用になるといった多くの課題 を抱えている。東京都でおこなわれた理学療法士の卒後 教育の実態調査 16)では、業務時間内に新人教育指導を おこなっている施設は65%を占め、指導体制は指導者1 人に対して新人1名を配置している施設が63%であった。同じように広島県で実施された実態調査 17)では、新人 セラピスト教育には2年以上の期間が必要と回答する施 設が多いなかで、実際の指導期間は6~12 カ月程度であ
るという回答が多かった。このように、新人教育が重要という認識あるものの時間と人員を割くことは,実際には難しいのが現状かもしれない。
おわりにつぎに、各施設にて実施しているカンファレンスに関 する事例である。入院患者に対して他職種でのケースカ ンファレンスは当然であるが、今回はそのようななかで も疾患の症候・症状の理解や介入効果を高めるための工 夫に関する論文 18)より報告する。この施設では、リハ ビリテーション医療の質を高める目的で臨床上よく遭遇 する病態の理解、介入効果の検証などをより高度な専門 性をもって客観的分析するために研究班を設置している。セラピストのなかで研究班を設置した事例を紹介する18)。これは例えば、臨床で悩むケースを担当した場合に研究 班にコンサルテーションを依頼し、研究班が評価・病態 解釈・介入、効果検証をサポートする体制である。こう いった研究班を設置することで、臨床での悩みを共有し、研究を臨床へ還元する。さらには組織として、科学的 根拠のもと評価や治療を展開することが可能となり好循 環を作り出す。また、毎週特定の曜日は全員出勤日とし 代行業務を無くすことで時間の確保を可能とし、その時 間を使って全員が参加、そして新人からベテランまでが 症例を提示するカンファレンスを開く。このカンファレ ンスで重要なのは練り上げたものを発表するのではなく、臨床での困りごとを相談する場としての意識づけ、そし て中堅からベテラン層も悩み試行錯誤している姿勢を新 人セラピストに見せることで部署全体の意欲向上を図っ ている。
文 献トップダウン過程での理学療法評価において、観察す べき動作を選択する際には、症例の社会的背景(生活)を理解する必要がある。また、姿勢・動作分析の際には、現象を関節運動で表現し、関節運動がもつ意義に基づい て動作のストーリーを作ることが大切である。
教育的工夫としては、新人に限らず中堅層以上のセラピストが継続的に学会発表などの実践的学習活動をおこない、その姿勢を可視化することで、後進の学習意欲を喚起することができる。ただし、この際には「自分はあの人のようにはなれない」と新人に距離を感じさせることがないよう、共に学ぶ姿勢をもち、症例検討や学会発表の場においても新人を巻き込む形での参画が望まれる。
前田剛伸・他: 姿勢・動作分析の指導時の工夫. 関西理学 24:
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大工谷新⼀: 骨関節疾患に対する理学療法と動作分析—力学的負荷に着目した動作分析とアライメント—. 関西理学 1: 1–5,
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