軽金属溶接
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スクラビング複動式摩擦攪拌点接合のアルミニウム合金/超高張力鋼接合への適用
武岡 正樹土田 泰輔松田 朋己小椋 智大橋 良司廣瀬 明夫
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2022 年 60 巻 Supplement 号 p. 21-28

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抄録

 自動車産業では軽量化を目的とした車体のマルチマテリアル化が進んでおり,アルミニウム合金/鋼の異種金属接合技術のニーズが非常に高まっている1).Al/Feの溶融溶接は多量の金属間化合物(IMC:Intermetallic compound)が生成されるため困難とされており2),溶融を伴わないSelf Piercing Riveting3)やMechanical clinching4)などの機械的締結法が主に採用されているが,これらの機械的締結法は超高張力鋼への適用が難しいことが知られている5).そこで溶融を伴わない固相接合法の一種として摩擦攪拌点接合(Friction Stir Spot Welding:FSSW)が注目されており,近年では平滑な外観が得られる複動式FSSW(RFSSW:Refill FSSW)が開発されている.RFSSWの最大の特徴はFig. 1に示すように,ツール中心に位置するピンとその外周のショルダが別体で構成されていることである.このピンとショルダそれぞれが加圧軸方向に対して独立に動作することで,接合部で生じる引抜穴をプロセス中に埋戻すことが可能になる.FSSWは一部の車種に異種金属接合法として適用された実績があり,このとき用いられたのは回転ツールを上板にのみ圧入し,上板の材料流動によって下板表面に新生面を形成することで,異種金属の接触面同士を冶金的に接合する手法である6).またRFSSWでもFSSW同様に上板のみにツールを圧入する手法で異種金属接合が可能なことが報告されている7)-9).しかしながら上板の材料流動で下板の新生面を形成する手法は下板の表面状態の影響を受けやすく,溶融亜鉛めっきなどの比較的除去が容易な皮膜を下板表面に設ける必要がある.下板表面皮膜の除去は上板の材料流動による物理的な作用や金属同士の反応によって達成され,除去されず表面酸化膜や皮膜が残留すると上下板の冶金的な接合が阻害される場合がある.このため下板が非めっきの超高張力鋼の場合ではFSSW継手は十分な接合強度が得られないことが報告されている10)

 このような課題を解決するために,著者はRFSSWを用いた新規異種金属接合法としてScrubbing RFSSW(Sc-RFSSW)を開発し11),12),アルミニウム合金/非めっき軟鋼の接合において従来のFSSW,RFSSWよりも高い継手強度が得られることを明らかにした.開発法であるSc-RFSSWはFig. 2に示すようにツール圧入工程でショルダを下板に接触させることを特徴とし,超硬合金製のツールで積極的に下板の新生面を形成することによって短時間で高い界面清浄化効果を得ることを開発コンセプトとしている.先行研究においてはSc-RFSSWが鋼板に除去容易な皮膜を設けずとも高い継手強度が得られる手法であること11)や,ツール接触により鋼板表面の溶融亜鉛めっきを排出可能であること12)が示された.一方で,鋼板の塑性変形が困難なアルミニウム合金/非めっき超高張力鋼接合への適用可能性は十分に検証されていない.また類似の研究として複数回の接合プロセスで材料埋戻しを行うFSSW13)や,上下両面に複動式ツールを配置し接合するFSSW14)などが実施されており,いずれもアルミニウム合金/非めっき軟鋼の接合において良好な継手強度が得られていることが報告されているが,超高張力鋼への適用可能性は明らかになっていない.他工法で適用が困難なアルミニウム合金/非めっき超高張力鋼での接合手法を確立し,そのメカニズム解明することができればマルチマテリアル車体の製造技術におけるニーズに応える技術になりうると言える.したがって本研究では開発法であるSc-RFSSWを用いたアルミニウム合金/超高張力鋼の接合可能性を検討し,Sc-RFSSW継手の強度特性とその強度発現メカニズムを明らかにすることを目的とした.

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© 2022 一般社団法人 軽金属溶接協会
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