軽金属溶接
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A1050/C1020電磁圧接材の波状界面形態に及ぼすFlyer plateの板厚の影響
木村 慎吾村石 信二熊井 真次
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2022 年 60 巻 Supplement 号 p. 29-36

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抄録

 近年,様々な工業的分野で異種金属接合のニーズが高まっている.しかし,溶接等の被接合金属の溶融を伴う接合手法では,融点が大きく異なる異種金属の接合は困難であり,金属の組み合わせによっては接合界面に生成する脆性な金属間化合物によって接合強度が大きく低下することが知られている.また,拡散接合等溶融を伴わない固相接合においても,接合に高温•長時間を要すれば同様な問題が生じる.このようなことから高速で固相接合が可能な異種金属接合法が注目されている.

 衝撃圧接法は高速固相接合法の一種であり,金属同士を高速で傾斜衝突させることにより接合させる手法である.Fig. 1に飛翔板(以下,Flyer plateと呼ぶ)を固定板(以下,Parent plateと呼ぶ)に高速傾斜衝突させて接合する衝撃圧接の模式図を示す.衝突点は非常に高圧力となり,そこでは金属が固体のまま流体のような挙動を示し,また金属表面層はメタルジェットとして衝突点前方へ放出されるため,表面酸化膜や汚れも除去される.これにより生じた活性な清浄面同士が高圧力で押し付けられ,強固な金属的結合が達成される.接合はμ秒オーダーの極短時間で完了し,また,バルクの温度上昇がほとんどないことで知られている.これに関しては数値解析を用いた研究によっても温度上昇が接合界面近傍に限られていることが確認されている1),2).また,衝撃圧接では接合条件によって接合界面に特徴的な波状模様が形成されることがある.この波状界面はアンカー効果によって接合強度の上昇に寄与するとも言われている.接合する金属の組合せによっては波状界面に沿って中間層が形成され,これにより接合強度が低下することもあるため,波状界面形態やその寸法等を制御することは非常に重要である.従来の研究により,衝撃圧接により強固な接合が実現できるのは,通常Welding windowで示される衝突条件,すなわち,ある衝突速度または衝突点移動速度と衝突角度の範囲であり,またその中のある衝突条件で波状界面が形成することが明らかとなっている3)-5).また,接合が実現できる条件や波状界面形態の特徴は,同種•異種金属の組合せによって異なり,特に異種金属接合の波状界面形態は,主として接合する金属の密度差によって変化することが明らかになっている6)

 代表的な衝撃圧接法には,爆薬の爆轟を用いてFlyer plateを飛翔させる爆発圧接(Explosive Welding,EXW)や電磁力を用いてFlyer plateを飛翔させる電磁圧接(Magnetic Pulse Welding,MPW)がある.前者は主に厚さが数 mmから数十 mmの長尺の板を面接合する場合に用いられ,後者は主に数 mm以下の薄板や管等を接合する場合に用いられている.接合界面に現れる波状界面の形成機構については,爆発圧接において過去多くの研究が行われており,メタルジェットが金属の衝突面に入り込むことで波が形成されるとするindentation mechanism7)や,衝突時に金属が流体的な挙動を示すことに着目した,流体の不安定性から波が形成されるとする説8)-11)などが提唱されてきた.近年は数値解析手法を用いた研究も盛んに行われ,西脇らは粒子法の一種であるSPH法を用いて,爆発圧接における波状界面形成を再現し,衝突中のメタルジェットの放出挙動や衝突点近傍の圧力変化や温度変化を明らかにして,波状界面の形成機構について検討を行っている2)

 一方,電磁圧接を用いた様々な異種金属接合も試みられており,これまでAl/Cu12)-14), Al/Fe1),15)-18), Al/Mg19), Cu/Ni20)等の接合界面組織や接合強度に関する研究結果が報告されている.最近では,爆発圧接と同様,実験的手法と数値解析手法を組み合わせ,電磁圧接特有の接合界面の形成機構解明に取り組んだ研究も行われている1),13),14),18),21)

 さて,爆発圧接では爆薬の種類や量,接合する板の設置方法(相互間隔や設置角度)を選択することによって,ほぼ一定の衝突速度および衝突角度の条件で接合を行うことが可能である.しかし,放電電流によって発生する電磁力を駆動力として利用する電磁圧接では通常接合方向に沿って連続的に衝突速度と衝突角度が変化してしまう22).よって,波状界面の形成の有無や波状界面の形態や大きさと衝突速度や衝突角度との関係について検討を行う場合には,この点について十分注意する必要がある.また,実際に電磁圧接を行うと,通常波状界面が形成するはずの衝突速度,衝突角度で接合しても,接合界面に波状模様が観察されなかったり,あるいは非常に大きな波が形成されたり,また,予め金属板表面をグラインダーで研磨して荒らしておくと安定した波状接合界面が形成されて接合強度が増加する等,従来の波状界面形成機構だけでは説明できない現象を経験する.さらに電磁圧接は,今後小型部品や電子部品等に使用される薄板や箔等の接合に幅広く応用される可能性がある.よって,衝突速度や衝突角度以外の因子,例えばFlyer plateやParent plateの大きさ(厚さ),表面状態等が波状界面の形成条件や形態,大きさにどのような影響を及ぼすかについて調査することは重要であり,そのためにはまず所定の同種•異種金属の組合せにおいて,所定の衝突速度や衝突角度の下で電磁圧接材を作製し,その接合界面を比較検討できるようにする必要がある.

 そこで本研究では,優れた電気伝導性や熱伝導性の観点から電気•電子機器において重要だと考えられる純アルミニウム(Al)板と純銅(Cu)板の電磁圧接材を試験対象とし,まず,衝突エネルギーの違いが接合界面形態に及ぼす影響について,実験と数値解析の両手法を用いて検討を行うことにした.まず厚さ一定の純銅のParent plateに,衝突エネルギーを変化させるため,その板厚を系統的に変化させた純アルミニウムのFlyer plateを,ほぼ同じ衝突速度および衝突角度で純銅のParent plateに衝突させることができる充電電圧や両板の設置間隙等の条件を数値解析手法によって見出した.さらに別の数値解析手法を用いて,その衝突速度および衝突角度の下での波状界面形成過程ならびにその形態を再現した.併せて実際にその条件下で電磁圧接実験を行い,得られた接合界面形態を観察し,数値解析結果と比較することによって,波状界面の形態や大きさが,Flyer plateの板厚によってどのように変化するかについて明らかにした.

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© 2022 一般社団法人 軽金属溶接協会
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