軽金属溶接
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  • 武岡 正樹, 土田 泰輔, 松田 朋己, 小椋 智, 大橋 良司, 廣瀬 明夫
    原稿種別: 論文
    2022 年 60 巻 Supplement 号 p. 21-28
    発行日: 2022/12/23
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     自動車産業では軽量化を目的とした車体のマルチマテリアル化が進んでおり,アルミニウム合金/鋼の異種金属接合技術のニーズが非常に高まっている1).Al/Feの溶融溶接は多量の金属間化合物(IMC:Intermetallic compound)が生成されるため困難とされており2),溶融を伴わないSelf Piercing Riveting3)やMechanical clinching4)などの機械的締結法が主に採用されているが,これらの機械的締結法は超高張力鋼への適用が難しいことが知られている5).そこで溶融を伴わない固相接合法の一種として摩擦攪拌点接合(Friction Stir Spot Welding:FSSW)が注目されており,近年では平滑な外観が得られる複動式FSSW(RFSSW:Refill FSSW)が開発されている.RFSSWの最大の特徴はFig. 1に示すように,ツール中心に位置するピンとその外周のショルダが別体で構成されていることである.このピンとショルダそれぞれが加圧軸方向に対して独立に動作することで,接合部で生じる引抜穴をプロセス中に埋戻すことが可能になる.FSSWは一部の車種に異種金属接合法として適用された実績があり,このとき用いられたのは回転ツールを上板にのみ圧入し,上板の材料流動によって下板表面に新生面を形成することで,異種金属の接触面同士を冶金的に接合する手法である6).またRFSSWでもFSSW同様に上板のみにツールを圧入する手法で異種金属接合が可能なことが報告されている7)-9).しかしながら上板の材料流動で下板の新生面を形成する手法は下板の表面状態の影響を受けやすく,溶融亜鉛めっきなどの比較的除去が容易な皮膜を下板表面に設ける必要がある.下板表面皮膜の除去は上板の材料流動による物理的な作用や金属同士の反応によって達成され,除去されず表面酸化膜や皮膜が残留すると上下板の冶金的な接合が阻害される場合がある.このため下板が非めっきの超高張力鋼の場合ではFSSW継手は十分な接合強度が得られないことが報告されている10)

     このような課題を解決するために,著者はRFSSWを用いた新規異種金属接合法としてScrubbing RFSSW(Sc-RFSSW)を開発し11),12),アルミニウム合金/非めっき軟鋼の接合において従来のFSSW,RFSSWよりも高い継手強度が得られることを明らかにした.開発法であるSc-RFSSWはFig. 2に示すようにツール圧入工程でショルダを下板に接触させることを特徴とし,超硬合金製のツールで積極的に下板の新生面を形成することによって短時間で高い界面清浄化効果を得ることを開発コンセプトとしている.先行研究においてはSc-RFSSWが鋼板に除去容易な皮膜を設けずとも高い継手強度が得られる手法であること11)や,ツール接触により鋼板表面の溶融亜鉛めっきを排出可能であること12)が示された.一方で,鋼板の塑性変形が困難なアルミニウム合金/非めっき超高張力鋼接合への適用可能性は十分に検証されていない.また類似の研究として複数回の接合プロセスで材料埋戻しを行うFSSW13)や,上下両面に複動式ツールを配置し接合するFSSW14)などが実施されており,いずれもアルミニウム合金/非めっき軟鋼の接合において良好な継手強度が得られていることが報告されているが,超高張力鋼への適用可能性は明らかになっていない.他工法で適用が困難なアルミニウム合金/非めっき超高張力鋼での接合手法を確立し,そのメカニズム解明することができればマルチマテリアル車体の製造技術におけるニーズに応える技術になりうると言える.したがって本研究では開発法であるSc-RFSSWを用いたアルミニウム合金/超高張力鋼の接合可能性を検討し,Sc-RFSSW継手の強度特性とその強度発現メカニズムを明らかにすることを目的とした.

  • 木村 慎吾, 村石 信二, 熊井 真次
    原稿種別: 論文
    2022 年 60 巻 Supplement 号 p. 29-36
    発行日: 2022/12/23
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     近年,様々な工業的分野で異種金属接合のニーズが高まっている.しかし,溶接等の被接合金属の溶融を伴う接合手法では,融点が大きく異なる異種金属の接合は困難であり,金属の組み合わせによっては接合界面に生成する脆性な金属間化合物によって接合強度が大きく低下することが知られている.また,拡散接合等溶融を伴わない固相接合においても,接合に高温•長時間を要すれば同様な問題が生じる.このようなことから高速で固相接合が可能な異種金属接合法が注目されている.

     衝撃圧接法は高速固相接合法の一種であり,金属同士を高速で傾斜衝突させることにより接合させる手法である.Fig. 1に飛翔板(以下,Flyer plateと呼ぶ)を固定板(以下,Parent plateと呼ぶ)に高速傾斜衝突させて接合する衝撃圧接の模式図を示す.衝突点は非常に高圧力となり,そこでは金属が固体のまま流体のような挙動を示し,また金属表面層はメタルジェットとして衝突点前方へ放出されるため,表面酸化膜や汚れも除去される.これにより生じた活性な清浄面同士が高圧力で押し付けられ,強固な金属的結合が達成される.接合はμ秒オーダーの極短時間で完了し,また,バルクの温度上昇がほとんどないことで知られている.これに関しては数値解析を用いた研究によっても温度上昇が接合界面近傍に限られていることが確認されている1),2).また,衝撃圧接では接合条件によって接合界面に特徴的な波状模様が形成されることがある.この波状界面はアンカー効果によって接合強度の上昇に寄与するとも言われている.接合する金属の組合せによっては波状界面に沿って中間層が形成され,これにより接合強度が低下することもあるため,波状界面形態やその寸法等を制御することは非常に重要である.従来の研究により,衝撃圧接により強固な接合が実現できるのは,通常Welding windowで示される衝突条件,すなわち,ある衝突速度または衝突点移動速度と衝突角度の範囲であり,またその中のある衝突条件で波状界面が形成することが明らかとなっている3)-5).また,接合が実現できる条件や波状界面形態の特徴は,同種•異種金属の組合せによって異なり,特に異種金属接合の波状界面形態は,主として接合する金属の密度差によって変化することが明らかになっている6)

     代表的な衝撃圧接法には,爆薬の爆轟を用いてFlyer plateを飛翔させる爆発圧接(Explosive Welding,EXW)や電磁力を用いてFlyer plateを飛翔させる電磁圧接(Magnetic Pulse Welding,MPW)がある.前者は主に厚さが数 mmから数十 mmの長尺の板を面接合する場合に用いられ,後者は主に数 mm以下の薄板や管等を接合する場合に用いられている.接合界面に現れる波状界面の形成機構については,爆発圧接において過去多くの研究が行われており,メタルジェットが金属の衝突面に入り込むことで波が形成されるとするindentation mechanism7)や,衝突時に金属が流体的な挙動を示すことに着目した,流体の不安定性から波が形成されるとする説8)-11)などが提唱されてきた.近年は数値解析手法を用いた研究も盛んに行われ,西脇らは粒子法の一種であるSPH法を用いて,爆発圧接における波状界面形成を再現し,衝突中のメタルジェットの放出挙動や衝突点近傍の圧力変化や温度変化を明らかにして,波状界面の形成機構について検討を行っている2)

     一方,電磁圧接を用いた様々な異種金属接合も試みられており,これまでAl/Cu12)-14), Al/Fe1),15)-18), Al/Mg19), Cu/Ni20)等の接合界面組織や接合強度に関する研究結果が報告されている.最近では,爆発圧接と同様,実験的手法と数値解析手法を組み合わせ,電磁圧接特有の接合界面の形成機構解明に取り組んだ研究も行われている1),13),14),18),21)

     さて,爆発圧接では爆薬の種類や量,接合する板の設置方法(相互間隔や設置角度)を選択することによって,ほぼ一定の衝突速度および衝突角度の条件で接合を行うことが可能である.しかし,放電電流によって発生する電磁力を駆動力として利用する電磁圧接では通常接合方向に沿って連続的に衝突速度と衝突角度が変化してしまう22).よって,波状界面の形成の有無や波状界面の形態や大きさと衝突速度や衝突角度との関係について検討を行う場合には,この点について十分注意する必要がある.また,実際に電磁圧接を行うと,通常波状界面が形成するはずの衝突速度,衝突角度で接合しても,接合界面に波状模様が観察されなかったり,あるいは非常に大きな波が形成されたり,また,予め金属板表面をグラインダーで研磨して荒らしておくと安定した波状接合界面が形成されて接合強度が増加する等,従来の波状界面形成機構だけでは説明できない現象を経験する.さらに電磁圧接は,今後小型部品や電子部品等に使用される薄板や箔等の接合に幅広く応用される可能性がある.よって,衝突速度や衝突角度以外の因子,例えばFlyer plateやParent plateの大きさ(厚さ),表面状態等が波状界面の形成条件や形態,大きさにどのような影響を及ぼすかについて調査することは重要であり,そのためにはまず所定の同種•異種金属の組合せにおいて,所定の衝突速度や衝突角度の下で電磁圧接材を作製し,その接合界面を比較検討できるようにする必要がある.

     そこで本研究では,優れた電気伝導性や熱伝導性の観点から電気•電子機器において重要だと考えられる純アルミニウム(Al)板と純銅(Cu)板の電磁圧接材を試験対象とし,まず,衝突エネルギーの違いが接合界面形態に及ぼす影響について,実験と数値解析の両手法を用いて検討を行うことにした.まず厚さ一定の純銅のParent plateに,衝突エネルギーを変化させるため,その板厚を系統的に変化させた純アルミニウムのFlyer plateを,ほぼ同じ衝突速度および衝突角度で純銅のParent plateに衝突させることができる充電電圧や両板の設置間隙等の条件を数値解析手法によって見出した.さらに別の数値解析手法を用いて,その衝突速度および衝突角度の下での波状界面形成過程ならびにその形態を再現した.併せて実際にその条件下で電磁圧接実験を行い,得られた接合界面形態を観察し,数値解析結果と比較することによって,波状界面の形態や大きさが,Flyer plateの板厚によってどのように変化するかについて明らかにした.

  • 長岡 亨, 平野 寛, 木元 慶久, 武内 孝, 山田 浩二, 森貞 好昭, 藤井 英俊
    原稿種別: 論文
    2022 年 60 巻 Supplement 号 p. 8-13
    発行日: 2022/12/23
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     自動車の電動化,自動運転等の推進により,新たな電子部品を搭載することが必要となり,自動車の軽量化技術の開発がますます重要となっている.高強度の高張力鋼板やアルミニウム合金が適用されるとともに,樹脂中に炭素繊維を配合し樹脂の軽量性と炭素繊維の高強度,高弾性の特徴を併せ持つ炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が注目されている.金属材料のみならず樹脂材料を適材適所で使用するマルチマテリアル化構造体の実現のためには,金属材料と樹脂材料の異材接合技術は不可欠となっている.

     金属とCFRPとの接合法としては接着剤による接着,ボルトやリベットなどによる機械的締結が利用されている1)∼4).しかし,接着剤は接合に長時間を要するなどの課題があり,機械的締結では締結金具が高コストになるという問題がある.そのため,近年では金属と熱可塑性樹脂を短時間で強固に接合することができる融着法が種々検討されている.射出成形による接合5),6)は携帯情報端末の分野で利用され,自動車部品への応用も期待されている.そのほか,金型を必要とせずサイズの制限を受けない接合技術としては,レーザ溶接7)∼13),超音波溶接14),摩擦攪拌スポット溶接15),16),および摩擦攪拌接合17)∼25)等の手法が挙げられる.これらの融着法による接合では,接合前の表面処理が接合強度に影響する.これまでに表面処理法として,アンカー効果を利用するための表面への凹凸の形成13),金属表面へのシランカップリング処理21),22),アルミニウム合金へのアルマイト処理23),24),ならびに樹脂へのコロナ放電処理25)等が検討されている.

     本研究では,ツールから荷重を付与することができるとともに,比較的長い距離を接合可能な摩擦攪拌接合に着目した.永塚ら17)は,A5052合金とCFRPの摩擦攪拌接合によって健全な継手が得られることを報告している.接合界面にMgOが形成されることで接合が可能になることを明らかにしている.また,永塚ら21)はA5052合金表面にアミン系シランカップリング剤を用いて前処理を施した後に摩擦攪拌接合を行うことで,シランカップリング剤とMgOが反応しA5052合金とCFRPの良好な継手が得られることを報告している.一方で,摩擦攪拌接合における純アルミニウムに対するシランカップリング剤の効果については不明な点が多いため,A1050純アルミニウムと熱可塑性樹脂の一つであるポリアミド(PA6)と炭素繊維からなるCFRPを用いた摩擦攪拌接合を行った.A1050への接合前処理としてエポキシ系シランカップリング剤を用いた前処理とアンカー効果が期待できる研磨処理の影響について検討した.

  • 武岡 正樹, 深山 拓真, 松田 朋己, 小椋 智, 大橋 良司, 廣瀬 明夫
    原稿種別: 論文
    2022 年 60 巻 Supplement 号 p. 14-21
    発行日: 2022/12/23
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     自動車産業では軽量化を目的とした車体のマルチマテリアル化が進んでおり,アルミニウム合金/鋼の異種金属接合技術のニーズが非常に高まっている1).アルミニウム合金と鋼の異種金属接合は非常に種類が多く,自動車製造での採用実績がある工法だけでもSelf piercing rivetingやFlow drill screw, Friction element weldingなどのリベット接合1)∼3)や,摩擦攪拌点接合(FSSW:Friction Stir Spot Welding)による冶金的接合4)などが挙げられる.他にも自動車の鋼製部品の接合で最も一般的な手法である抵抗スポット溶接による異種金属接合も広く研究されている5),6)

     一方で,異種金属接合法における固有の課題としてガルバニック腐食があり,これは異種金属の接触面に水分が侵入した際に局部電池が形成され,相対的に卑な金属が腐食される現象である7),8).その対策として板間や接合部表面にシーリング材が塗布されるため,異種金属接合法の評価では接合部への止水方法が合わせて議論されることが多い.特に点接合と接着剤の併用である“ウェルドボンド工法”を板間への止水目的に適用する場合がしばしば見受けられる9).ウェルドボンド工法は自動車製造において鋼板の接合で実用化されており,その工程としては硬化前の接着剤が板間にある状態で抵抗スポット溶接し,その後に熱処理により接着剤を硬化させるというものである.ウェルドボンド工法は接着剤劣化要因の一つであるクリープ変形を抑制できることに加え,車体剛性の向上や車体の振動特性を改善するなど車体構造におけるメリットが多いことで知られている10).さらに接合という観点においては異種金属継手の腐食を抑制する目的だけでなく,接着剤の経年劣化に対する強度保証としての役割も有するため,接合部強度と接着剤強度が両立することが非常に重要になる.しかしながら抵抗スポット溶接の異種金属接合では抵抗スポット溶接部の強度が大幅に減少してしまい,接合自体が困難になることが報告されている11).これはスポット溶接部に接着剤が残留することで通電部における上下板の直接接触を阻害し,接合界面における金属間化合物(IMC:Intermetallic compound)の形成を妨げることが原因であるとされている.このように接合界面の冶金的な反応を伴う接合手法においては,接着剤が阻害層となりうるためウェルドボンド工法の実施が難しいことが知られている.

     著者はこれまでにFSSWを用いた新規異種金属接合法としてScrubbing Refill FSSW (Sc-RFSSW)を開発し12)∼14),アルミニウム合金/非めっき軟鋼,高張力鋼の接合において高い継手強度が得られることを明らかにした12),14).当手法は自動車組立ラインでの適用を想定し,短時間で高い界面清浄化効果を得ることを開発コンセプトとしており,Fig. 1に示すようにツール圧入工程でツールと下板を直接接触させることを最大の特徴とする.また従来のFSSWではツール/下板接触面が露出し接合面になりえないという課題を解決するために,プロセス中の材料埋戻しが可能な複動式FSSW (RFSSW:Refill FSSW)を適用している15),16).RFSSWはFig. 1に示すように,ツール中心に位置するピンとその外周のショルダが別体で構成されており,このピンとショルダそれぞれが加圧軸方向に対して独立に動作することで,接合部で生じる引抜穴をプロセス中に埋戻すことが可能になる.当手法は類似の研究である複数回の接合プロセスで材料埋戻しを行うFSSW17)や,上下両面に複動式ツールを配置し接合するFSSW18)と同様に良好な継手強度が得られることがわかっているが,いずれの手法においても板間に接着剤を塗布し接合するウェルドボンド工法への適用可能性は検討されていない.自動車車体の製造に適用することを想定するならばウェルドボンド工法との親和性は必須と言えるほど重要であり,本研究では開発法であるSc-RFSSWへのウェルドボンド工法適用可能性を明らかにすることを目的とした.ウェルドボンド工法の適用可能性を検討するうえでは,前述のとおり接合部強度と接着剤強度の両立が重要となるため,Sc-RFSSW接合部自体の強度と接着剤を含む継手全体の強度を評価する必要がある.したがって本研究では板間に接着剤を挟み,接合後に接着剤を硬化させることなく継手強度評価することで点接合部強度を,接合後に接着剤を硬化したうえで継手強度評価することで継手全体の強度を評価した.さらにSc-RFSSWにおける接着剤の排出メカニズムを明らかにすることを目的に,外観や接合断面から接着剤の残留状況を分析した.

  • 高須 飛雅, 木村 健太郎, 行武 栄太郎, 伊藤 友美, 野田 雅史, 染川 英俊, 土谷 浩一, 倉本 繁
    原稿種別: 論文
    2022 年 60 巻 Supplement 号 p. 34-41
    発行日: 2022/12/23
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     現在,地球温暖化や化石燃料枯渇等の対策のため自動車や高速鉄道車両などの輸送機器において車体の軽量化が求められている.現在使用されている鉄鋼材料やアルミニウム合金の代替として,実用構造用金属中最軽量のマグネシウム合金を使用することにより,車体の軽量化が期待できる1).しかし,マグネシウム合金は鉄鋼材料やアルミニウム合金に比べて,難燃性•強度•延性•成形性などの特性に不十分な点がある.従来のマグネシウム合金の発火温度が低く,輸送機器等に用いるためには発火温度を上げる必要があった.近年,Caを約1 ∼2%添加し,発火温度を200∼300℃程度上昇させた難燃性マグネシウム合金を用いることにより,難燃性の問題点を改善することに成功している2)

     一方,強度や延性の向上に関しては現在も盛んに研究が進められている.一般的にマグネシウム合金は結晶粒微細化による強化が有効であるとされている.結晶粒微細化による高強度化についてはホールペッチの式を用いて整理されることが一般的であり,アルミニウム合金に比べマグネシウム合金の方が微細化による強化が有効であることが知られている3).しかし,純マグネシウムにおいては,結晶粒が著しく微細化すると強度の結晶粒径依存性が変化し,1 µmよりも微粒側で結晶粒微細化による強度の上昇が生じにくくなることも報告されている4).以下にホールペッチの式を示す.

       σ = σ0 + K d−1/2   (1) 

     ここで,σ:多結晶の降伏応力,σ0:摩擦応力,d:結晶粒径,K:Hall-Petch係数,である.本研究では,2種類の難燃性マグネシウム合金を対象として,結晶粒微細化を目的としてFSP(friction stir processing:摩擦撹拌処理)を用いた.FSPとは,FSW(摩擦撹拌接合)の技術をそのまま表面改質処理に応用したものであり,高速回転するツールを被加工材へ押しつけ,摩擦熱で塑性変形抵抗を失わせ,ツールの移動により直接撹拌を行う.結晶粒径は,加工中の入熱量が低いほど微細化する5)

     本研究では,AX61(Mg-6Al-1Ca)およびAX81(Mg-8Al-1Ca)合金を用いてFSP加工を様々な条件で施し,組織と機械的特性に及ぼすFSP加工条件の影響について検討を行なった.また,研究を進める過程においてFSPによる結晶粒径の変化はあまり大きくなく,強度の変化も小さいことが判明したため,結晶粒をさらに微細化可能なHPT(high-pressure torsion)も実施して結晶粒径と強度との関係について調べた.HPTにおいては,ディスク状の試料を上下のアンビルに挟み込み,圧力をかけながら回転しひずみを導入する.処理中の温度上昇は小さいため,結晶粒径をサブミクロンレベルまで微細化させることが可能である6).難燃性マグネシウム合金にFSPやHPTを適用した例は少なく,特性改善やFSWを実際に適用する際にも加工条件に伴う組織や特性を知ることは有効であると考え,本研究を実施した.

  • 成田 麻未, 森 久史, 佐藤 尚, 渡辺 義見, 斎藤 尚文, 千野 靖正, 花野 嘉紀, 山田 吉徳, 箕田 正, 田中 宏樹
    原稿種別: 論文
    2022 年 60 巻 Supplement 号 p. 38-45
    発行日: 2022/12/23
    公開日: 2022/12/23
    ジャーナル フリー

     近年,輸送体の軽量化に対してマグネシウム合金とアルミニウム合金とのクラッド材が注目されている.マグネシウム合金とアルミニウム合金とのクラッド材の作製は溶融溶接1),拡散溶接2),熱間プレス3),熱間圧延4)∼6)で試みられてきたが,これらの手法の適用では,接合界面に,元素拡散に起因するアルミニウムとマグネシウム系の金属間化合物が生成して界面が脆化し,作製時に割れが発生するなど,プロセス自体が極めて難しい状況であった.そこで,マグネシウム合金とアルミニウム合金とのクラッド化に対して爆発圧着法(以降,爆着法とする)7),8)の適用が考えられる.爆着法は爆薬をエネルギー源として使用することにより,従来の方法では接合できない異種材料の接合が可能であり,接合時に金属間化合物の生成を抑制できるという特徴を有することから,金属接合および金属複合材料の製造に極めて有望な手法である7).Yanらは,爆着法で作製したAZ31Bマグネシウム合金/A7075アルミニウム合金のクラッド材の焼鈍による界面の金属間化合物層の厚さに着目した解析を行っており,焼鈍温度とともに界面層の厚みが大幅に増加することを確認している10).Sahulらも同様に,爆着法で作製したAZ31マグネシウム合金/AW5754アルミニウム合金のクラッド材に対し焼鈍を行った結果,焼鈍温度が高く,焼鈍時間が長いほど金属間化合物層の厚みが増し,接合体の強度が低下することを確認している11).また,Zhangらは爆着法で作製したAZ31マグネシウム合金/A6061アルミニウム合金のクラッド材において,アルミニウム合金では伸長した結晶粒による変形組織が大部分であるが,マグネシウム合金では等軸結晶粒による再結晶組織が大部分であり,マグネシウムとアルミニウムの結晶構造や熱伝導性,塑性変形能の違いによるものと報告している12).マグネシウム合金とアルミニウム合金との爆着クラッド材は,両合金による異種材接合時の継手としても期待される.継手としての適用のためにも,その金属組織の特徴や機械的性質について,より詳細に解析する必要がある.本研究では,爆着法で作製したAZ31Bマグネシウム合金/A6005Cアルミニウム合金クラッド材について組織観察および組成分析等を行い,接合界面の金属組織の特徴について詳細に解析することを目的とした.

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