2003 年 11 巻 1 号 p. 57-71
本稿の目的は,振替価格を原価よりも厳密に高い水準に設定することが望ましくなる理由について,これまでとは異なる説明を与えることにより,管理会計における理論と実務の乖離を埋めることにある.本稿では,費用削減投資を行う権限を川上部門に,最終製品価格を設定する権限を川下部門にそれぞれ委譲している分権的な企業組織を想定している.このとき,川上部門の投資が川下部門の費用削減に貢献するという意味において部門間の協力が重要である場合には,本部は振替価格を川上部門の限界費用よりも厳密に高く設定すること,すなわち原価プラス利益の水準に設定することが望ましくなることをモデルの構築を通じて論証する.本稿のモデルは,実際に用いられている振替価格の設定方法の合理性をこれまでとは異なる点から説明するものである.