本稿では,日本企業による退職給付会計における割引率の会計方針選択行動を著者の実務経験に基づいて考察し,実証的にデータ解析を行うことを目的とする.具体的には,割引率の選択についての会計基準の考察を行ったうえで,日本企業の割引率選択に関する事例を紹介し,いかに割引率の選択に裁量が介入しているかを導き出す.そして,日本企業の割引率選択行動に関する時系列データを概観した結果を踏まえて,時の経過とともに割引率選択の裁量の余地が次第に小さくなっていくこと,および,割引率が一定の適正水準に近似していくことを実務経験に基づいた仮説(横並び選択行動および水準適正化選択行動)をたて,実証的にデータ解析を行った.この結果,『退職給付会計基準が導入されて時が経過し当該会計実務が醸成されていくと,重要な会計方針である割引率は注目されやすく,証券アナリストの目および公認会計士の判断が厳しくなるため,裁量の余地が小さくなる,および,適正水準に落ち着いていく』という横並び選択行動および水準適正化選択行動が確認された.