2008 年 16 巻 1 号 p. 41-59
本研究は,日本で1990年代後半になされた法人税率および事業税率の引き下げに伴い,経営者が税コスト削減のために,所得を税率の低い期間に移転させたかどうかを検証するものである.先行研究と同様に本研究でも裁量的会計発生高に焦点を合わせて分析を行うが,米国に比べて日本では会計利益と課税所得の結びつきが強いため,より直接的な検証が可能となる.分析の結果,税率引き下げの直前期に有意な負の裁量的会計発生高が生じていること等が明らかになる.これは税率引き下げに伴い日本企業の経営者が,税コスト削減のために所得移転を行ったという考え方と整合的である.本研究は,税率変更に伴う利益調整行動の追加的証拠を提供するとともに,会計利益と課税所得を一致させるという米国の議論に対して,両者を一致させることが必ずしも利益調整行動を抑制するわけではないという具体的な証拠を提供しているという点で貢献があると考えられる.加えて,分析結果は,税率変更により税収がどのように変化するかを見積もる政策担当者等に対しても有益な情報を提供すると考えられる.