2022 年 30 巻 2 号 p. 27-42
実際にABCを見直した銀行のケーススタディーを実施することにより,次の3点の特徴を明らかにした.1点目は銀行原価計算の消費量基準からキャパシティー基準に変化している点である.2点目は銀行ABCによる実際配賦計算が推定キャパシティー応分のリソース集計型原価計算になっている点である.最後の特徴は要素還元論アプローチの銀行ABCが,ホリスティック・アプローチの原価計算に変化している点である.このような変化をもたらした最も大きな要因の1つが市場金利の変化であると推察し,実際に2000–2010年代の全地方銀行の貸出金,貸出金利および貸出経費率などの推移を分析した.その結果,市場金利の変化の影響を受けて銀行原価計算が要素還元アプローチの原価低減型からホリスティック・アプローチの原価回収型へ変化せざるを得なかったことを明らかにした.最後に,他の産業でも銀行原価計算の変化と同様のことが今後十分に起こりうる可能性を指摘した.