音楽表現学
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戦前日本の指揮図形にみる国際的先進性
日本と西洋の世界初出図形の比較から
石原 慎司
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2022 年 20 巻 p. 1-22

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抄録

 19世紀後半の西洋の指揮法は今日に向けて大きく発達する余地が残されていた。その当時の日本では洋楽受容に取り組み、唱歌教育を普及・振興する必要に強く迫られていた。その結果、明治時代末までに「指揮法」は唱歌教授法として師範学校必修の学習内容となり、多くの指揮図形の開発がなされた。しかし、日本で開発された指揮図形が西洋の指揮法の発達状況に追いつき、先進性を持っていたのか、その状態については未だ明らかにされていない。そこで本研究では、戦前の指揮図形を発行順に整理し、時代を追って西洋における指揮図形と比較した。

 西洋における指揮図形の資料を確認した結果、19 世紀中頃から世紀末までに指揮図形が直接運動から間接運動を表す図へと発達の道筋が見られた。しかし、すぐさま全拍間接運動化した図形が普及したわけではない。この間に日本において全拍間接運動による新たな型の4 拍子および6 拍子図形が開発されている。それらの図形は完成度が高く、今日でも広く用いられている。また、いくつかの図形が和洋間で往還しながら変容され、発達していく様子も明らかになった。発達過程内に現れた変容図形はそれぞれ発行時点では時代を先取りする先進性を持っていたと考えられる。

 以上の結果、戦前の日本の指揮図形は、西洋の図形を受容していただけではなく、時代の最先端で先進的な図形がいくつも開発され、指揮図形発達の歴史的系譜を形成してきたと言える。

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