2025 年 4 巻 1 号 p. 3-15
セントラルグループはタイ小売業史で最も早期から近代小売業を開始し,現在では中核事業の百貨店をはじめ,小売・流通業のさまざまな新業態を手掛ける「フルセット型小売・流通企業グループ」を形成している。本稿は,セントラルグループの事業史を辿りながら,その実態と特徴を明らかにした。フルセット型を志向した背景には多様な所得階層が織りなすモザイク状の消費構造という条件下で,分節化された市場を網羅的に掌握しようという動機づけがあり,またそれを実現できたのは創業者一族の豊富な人材があったからである。しかし,さまざまな小売・流通業態をフルセットで揃えようとすれば,異なる市場セグメントを網羅できるという点で相補効果は期待できても相乗効果は難しく,むしろ,事業間で齟齬が生じる可能性がある。今後は,創業者一族と一族外から招聘された専門経営者の間のバランスの上に成り立つ現在の経営組織の持続可能性も重要な論点になる。