経営哲学
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日中企業におけるCSR情報開示に関する実証研究― ダイバーシティの影響について ―
黎 敏利
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2023 年 19 巻 2 号 p. 67-81

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抄録

近年、CSR情報開示と企業の指導的地位に女性が占める割合の拡大が問題となっている。国際的にも情報開示ガイドラインや、企業の指導的地位に女性が占める割合を増やすことがより明白に規定されるようになっている。これまでのCSR情報開示と指導的地位に女性が占める割合の増大が企業業績へ与える影響についての研究は、単にCSR情報を開示する行動、または女性役員比率が企業の財務業績へ与える影響に注目してきた。ただしGRIスタンダードやISO26000など国際的に主要な開示基準に基づいた開示であるか、CSR情報の開示レベルについても加味し、また社内外の女性取締役が企業の財務業績以外のESG評価へ与える影響についても、取締役会の諸要因を考慮して分析することが課題として残されている。

そのため、本稿では、日中企業のCSR情報開示と社内外の女性取締役比率に注目し、両国企業のCSR情報開示及び社内外の女性取締役比率が、企業の財務業績やESG評価にどのような影響を与えるのかについて明らかにすることを試みた。具体的には両国上場企業のパネル・データを用いて実証的な検証を行い、分析結果の比較を行った。その比較によると、1) 日中いずれを問わず、社内女性取締役比率は企業のTobin’s Qにはポジティブな影響を与え、CSR情報開示は企業のESG評価にポジティブな影響を及ぼす、2) 中国においては、女性取締役比率は企業のTobin’s Qにポジティブな影響をもたらす一方、日本においては、女性取締役比率は企業のROEにネガティブな影響を与える、3) 日本においては、社外女性取締役比率はESG評価にネガティブな影響を与え、社内女性取締役比率は企業のROEにネガティブな影響をもたらす、4) 日中の双方において、CSR情報開示の程度は企業の女性取締役比率とESG評価の関係に促進効果を及ぼすが、企業の社内外の女性取締役員比率と財務業績との関係には、情報開示の程度により異なる影響をもたらす、ことが分かった。

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