経営哲学
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医薬品と病気の社会的形成 ― 脂質異常症と治療薬の日米間の比較を通じて ―
田代 昌彦
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2024 年 21 巻 1 号 p. 25-41

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抄録

本稿の目的はアクターネットワーク理論(Actor Network Theory:ANT)を用いて、医薬品の普及に伴い病気の定義が創発的に変化する事象を解明することである。事例は脂質異常症を対象とし、日米それぞれの行為主体(患者、医師、製薬企業、規制当局など)、物的存在(病気、医薬品、ヒトの身体(臓器や器官)など)のアクターと、アクターからのエージェンシーにより形成される制度・構造(治療ガイドライン、薬価制度、ベネフィットリスクバランス)に着目し分析を行った。

心血管イベント(動脈硬化)という高い致死率をしめす病気を克服するため、医師や研究者など様々なアクターは英知を結集して研究を行い、血清コレステロールが原因物質の一つであることを見いだした。血清コレステロールの肝臓での合成過程の解明により、治療薬であるHMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)は見いだされた。医療イノベーションであるスタチンは世界中で開発・販売され、年間2億人以上が服用する医薬品として広く普及した。

2000年代に入り根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine: EBM)の理念が世界で普及した。EBMは心血管イベントの治療方針に影響を与え、同じ病態(脂質異常症)と薬剤(スタチン)にも関わらず米国と日本で異なる心血管イベントの治療ガイダンスおよび異なるスタチンの効能効果の形成をもたらした。ANTの理論視座を用いて、病気のカテゴリーの創発的な変化の経緯が示された。

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